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180214レベル1のヘルゲート さよならバレンタイン

キキキーっ。自転車のブレーキ音が辺りに響く午後一時。
「ただいま戻りました」
俺は忙しい昼の出前を終えて店主に告げた。
「おう、小僧戻ったか。まぁ飯を食え。
そして食いながら依頼を聞け」
「了解しました。あ、これ返却の丼ぶりです。
んじゃ、自転車片づけてきます」
おう、と厨房から店主の野太い声が聞こえた。

  自転車を片づけながら俺はつぶやいた。
「いつになったら俺の世界に帰れるんだろ、はぁ」
あ、俺、唯の出前のバイトだけど、
今いる世界、地球じゃなくて異世界ナンデス。

いやぁ、最初は困ったよ?
何しろここはどこ?家はどこ?腹減ったどうしよう
と悩んでいたら、
この世界では異世界人って結構出現するらしく、
対応ばっちりお役所仕事サクサク進んで
家も職ももらえて、一応元の地球の移転時間に
合わせて戻れるよう確認してくれるという
親切ぶりだった。

で、紹介された職が住み込みの食堂の出前持ち。
この世界って、魔法があるけれど
一般人はそんな大して使えない世界。
まだ馬車が活躍している生活水準なのに、
何故か自転車はあった。
何故だ?文明の発展手順が違うくね?
と思ったけれど、どうやら
俺より以前に異世界転移しちゃった人が
魔術師と協力して根性で作り上げたらしい。
でも、庶民にとってはちょっと手を出すのは
ためらう値段なのに、
何故か店主が持っていて、
俺に出前の時に使えと貸してくれた。
ただし、出前の中身がこぼれない装置は
開発してくれなかったので、
俺は店主のシゴキじゃなくて猛特訓で
中身をこぼす事無くお客さまに届ける
事ができるようになった。

「で、店長。次の出前先はどこですか?」
おれは賄いの飯を食べ終えて店主に尋ねた。
「おう、いつもの『ヘルゲート』だ」
俺の身体に緊張が走る。
「王立魔術学院ですね」
「そうだ。そこへ出前だ」
ー王立魔術学院。そこは偏屈魔術師の集まりだった。
本来、国の一機関に出前を届けるのに
身構える必要はない。
だが、そこは偏屈魔術師の巣窟。
自分の魔術を使いたくてたまらない連中の集まりだ。
裏門?怪しげな魔術道具が所狭しと置かれていて
いつ何が発動するかわからない道を通れるのは
魔術に精通する業者でないと危なくて仕方がない。

  正門も「休戦協定」というやつが発動しないと
一般人は通れない。
それなしで唯一出前を届けられるのがこの俺だ。
「小僧、今日の出前は丁寧に届けろよ」
一瞬考えごとにふけっていた俺の耳に
店長の低い声が入る。
「アイサー、?丁寧に???」
すると店主の後ろから女の子が一人出てきた。
「店長、この子は?」
「うむ、今日の出前はこの子だ」
「え!人間は無理ですよ」
「安心しろ、この子はチョコのついでだ」
「いや、チョコのついでって・・・
人間しかもこんな小さな女の子を
出前するのは無理って、
人間を出前する食堂ってありませんよ」
「安心しろ、小僧。王立魔術院のヘルゲート前に
着いたら、この子は手の平サイズの人形になる。
時間は3分だ。お前はその間に
ヘルゲートから屋敷の扉までたどりつけ」
「おれはどこぞの三分クッキングヒーローですか!
しかも届けるの俺だし・・・ヒぃっやりますやりますっ」
店長の背後におどろおどろしい何かが、いや
燃える闘魂があふれ出るのを見ておれは諦めた。
「お兄ちゃん、お願い。わたしのパパ、魔術師なの。
でも、魔術に夢中になって家に帰ってこなくて
今日はバレンタインだから、このチョコを渡したいの。
お兄ちゃん、お願いします!」
くっ。いたいけな少女から涙に目を溜めてお願い
を断る勇気が俺にはない。
惰弱なおれは仕方なく少女を後ろに乗せて
王立魔術院に向かった。

更新日:2019-05-01 08:47:06

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