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影奔る
-201X年、初夏の頃-
長雨の切れ間の戦場は、まるで一服の水墨画だった。
低く、灰色の濃淡に禍々しく滲んだ天。
遠く、黒一色で塗りつぶされた山影。
その裾野に垂れこめた霧の際立つ白を挟んで、湿った野が薄黒く続いてゆく。
降り続いた激しい雨は明け方にはあがっていたが、
不穏な雨音が途切れたのも束の間、代わって辺りは
白刃と甲冑がぶつかり合う音で満たされた。
耳をつんざく鉄砲の轟音、兵のあげる喚声。
鼻孔をつく濡れた草の匂い、たちこめる硝煙の臭気。
肌をつたう汗と蒸れた血の感触。
感じ取れるすべての知覚までもが、鉄の鈍色が似合うものばかりで
たとえそれらに色付けがなされたとしても、
水墨画の調和が乱されることはなかったであろう。
デス スターズの影走、広八は焦れる心を押し殺して刀を構え直した。
-201X年、初夏の頃-
長雨の切れ間の戦場は、まるで一服の水墨画だった。
低く、灰色の濃淡に禍々しく滲んだ天。
遠く、黒一色で塗りつぶされた山影。
その裾野に垂れこめた霧の際立つ白を挟んで、湿った野が薄黒く続いてゆく。
降り続いた激しい雨は明け方にはあがっていたが、
不穏な雨音が途切れたのも束の間、代わって辺りは
白刃と甲冑がぶつかり合う音で満たされた。
耳をつんざく鉄砲の轟音、兵のあげる喚声。
鼻孔をつく濡れた草の匂い、たちこめる硝煙の臭気。
肌をつたう汗と蒸れた血の感触。
感じ取れるすべての知覚までもが、鉄の鈍色が似合うものばかりで
たとえそれらに色付けがなされたとしても、
水墨画の調和が乱されることはなかったであろう。
デス スターズの影走、広八は焦れる心を押し殺して刀を構え直した。
更新日:2017-06-01 09:43:38