「IKON」 第壱の福音:ノアザの方舟

 主人公の青年キ・ラールゴ、ラウルの右手の甲には朱と緋色の紋様が鮮やかに表出する『遺痕(イコン)』がある。それは一見、植物の蔓、もしくは幾何学紋様を思わせ、生まれながらにして地肌に刻まれているものだ。それは国を越え、人種を越え、まして時代を超えても突然変異として出現すため、この異形な疵を持つ者を人は『遺痕者』と称し、ひたすら忌み嫌ったのである。

 しかもその上、ラウルの場合、またもっと特殊な事情があった。彼は人知を超えた不可能を可能にする『奇蹟(ミラクル)』の力を発する『神の右手』とも呼べる特別な力を宿していたのだ。

 彼の理解者は育ての親である教会の牧師と幼馴染の少女、ヨーコ・エノクのみ。その彼女とラウルは幼い頃からの仲を発展させ、夫婦の契りを交わす約束をしていた。

 だが、その祝言の前日、不慮の事故によりヨーコは逝去。ひたすら失意に暮れるラウルの前に自身を神と名乗る彼と見目形もそっくりな青年が、ロリータ・ファッションに身を固めた少女、聖霊・アンジェを伴って現れる。

 神はラウルと自分と聖霊は“三位一体”の関係であることを告げる。それ故、神は彼に“神の右手”の力を宿した遺痕を刻み、さらに人と神との仲保者(メルキゼデク)となれと命じる。しかもそのために彼からヨーコをも奪ったという。 

 一方的な神の言い分に激昂し遺痕の力を暴走させる彼に、神は自分の教えを世に伝える宣教者(ケリュグマ)となるべき心づもりなら、ヨーコを彼に返そうとたきつけ、“天界門(てんかいもん)”を叩き“天海雅宮(てんかいがきゅう)”へ来るがいいと彼を煽る。

 物語はそれから三年後、放浪の旅をずっと続けるラウルは、訪れた砂と礫だらけの荒れ野、砂礫海(デザート・シー)にたどりつく場面から始まる――。


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「TRUTH」(歌:吉良知彦)から生まれたイメージ物。

第1話はZABADAKアルバム「IKON」の曲に数多のインスパイアを頂いています。