無題

 最近、グループホームにバイトに行くようになった。
そこは、認知症対応型で、少人数でひっそりと暮らしている。
人によって、程度はさまざまだけど、自宅にはもう帰れないと
わかっている人は一人か二人。実際帰ってももうその人にとっては
自宅でもなんでもない場所か、もう売りに出されて更地になっていたりする。そんな人たちに対して、「今日はもう遅いから明日にしましょう」だの「迎えがきますからもう少し待っててね」とか嘘をたくさんついて暮らしている。
 そんなある日、友達と知り合いの中間くらいの人が亡くなった。自殺だった。会社に出勤されなくて不審に思った会社の人が家主に部屋を開けてもらったらしい。
 彼は一人ぼっちで亡くなっていたけれど、周りの人は再婚してそれなりに幸せにしていると思っていた。亡くなったと聞いたショックより、そっちのほうがショックだった。
 バイトに行くとおばあさんが話しかけてくる。
「そろそろお暇しないと、うちにはおばあさんとあかちゃんがいてね。」
もうどちらも存在しない。でも、彼女の中では家があって、彼女の帰りを待っているんだ。ふと、亡くなった彼の話を思い出していた。再婚して猫を飼ったって言ってたっけ…

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