第一章 スライム・粘菌

 小さい頃から外科医になって癌の患者を治したいと思っていた幼い女の子は、ある時を境にその夢を断念しなくてはならなくなった。絶望にうちひしがれている娘を、父は住んでいた国立病院の寮の近くにある南方熊楠の記念館に連れて行った。幼い女の子には、場違いな場所になんの興味もわくことがなかったが、父が私を慰めようとしてくれているのだとの思いも判るので、ふらふらと手持ち無沙汰に父の背中を追った。カビに包まれてしまいそうな恐怖に包まれながら早くここから出たいと思っているだけの女の子は、展示物の説明書きの中に【癌】という文字を見つけ釘付けになる。
 彼女は自分の生きる道を見つけた。
 その後転校した中学で不思議な少年に出逢った。
 サトピーと皆に愛称で呼ばれる佐藤彰洋、をいつしか、かけがえのない人と思うようになっていた。
 私の名前は 碧紗