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下手な嘘

「え!? ともちんと会った!?」

休み時間でのともちんとのやりとりをたかみなに報告した。
別に自分から報告しにいったわけではない。
いつも休み時間はたかみなと一緒なのだから、一緒じゃなかったさっきの休み時間に何をしていたのか、という会話になるのは当然だ。

「しかも校舎裏の非常階段って……タイマンはったわけじゃないんだよね?」
たかみなのその吹っ飛んだ質問には正直呆れる。
「そんなわけないっての」
「そうか……。で、どうなのよ、ともちん」
いきなり、どう、と聞かれても困るものだ。
「どうって、何が」
「友達になれそう? センター近づきそう?」
その質問に対しての答えははっきりとは出ない。
だから、事実を言う。

「……意外と友達少ないみたい」
「少ない? 何でよ」
「まず会った場所があそこだからね……しかも1人でお弁当食べてたし」
「本当? 普段の感じからは想像つかないな」
「私だって驚いたよ」
「じゃあ、ともちんと友達になっても意味なし?」
「たかみな、それ人として最低の発言だよ」
「冗談だって」

あはは、と笑うたかみな。
その笑い方には、本当に濁りが無い。
おそらく誰が見ても、本当に冗談を言ったのだ、と思えるだろう。
たかみなは嘘をつくのが下手なように思える。
彼女と知り合うまで、何度も遠くから見ることがあったが、良くも悪くも表情が豊かで正直なのだ。
自分も嘘をつく下手さには自信があるが、たかみなとはいい勝負になりそうだ。

帰り際の下駄箱でともちんを目撃した。
親しげに友人と話すともちん。
その笑顔からは先ほどまで「実は気が合っていない」と話していたことは想像できない。
どう見ても、くだらないことにケタケタと笑う仲の良い高校生の女子達、そんな感じだ。
「あれでともちんはあんまり馴染めてないわけ?」
「らしいね」
それはそれで恐ろしい。
私はともちんが1人でお弁当を食べていたことも、友達との関係に悩んでいたことも知っているがともちんの周りにいる彼女たちは知らない。
おそらくお互いに感じていることを隠して友達として付き合っているのだろう。
すべてを知ってしまうと、こんなに恐ろしいことはないように思えてきた。

ふと隣を見た。
たかみなはどうなのだろうか。
私はたかみなといて、自分を出せていない、ストレスを感じることは全くない。絶対にない。
でも、向こうはどうだろうか。
無理して私と付き合っているのかもしれない。
ホントはもっと楽しめる友達がいるのかもしれない。
そんな不安が浮かんでは消えた。

「たかみな」
「うん?」
「大事な話があるんだけど」
「何よ?」
「実はさ……たかみなといてもあんまり楽しくないんだよね。あのともちんみたいに」
「え……」

たかみなは絶句した。
これはやりすぎた、とすぐに謝ろうと思ったが、たかみなの様子がおかしい。
絶句……ではない。
笑っている?

「ふふふ……あっちゃん」
たかみなは体を小刻みに震わせている。明らかに笑っている。
「あっちゃん嘘つくの下手でしょ?」
あっという間に私の言葉が本気でないことがばれていた。
「うええ、ばれた?」
「だって顔が笑ってるもん。ダメだなあ、あっちゃんは」
「あー、ごめん」
私は謝った。冗談とはいえ、ひどいことを言った。
「……でもたかみなに言われたくないな」
「え? 私あっちゃんに嘘ついたことあったっけ?」
「いや、ないけど」
「じゃあ、何で私が嘘つくの下手くそみたいになってんのよ」
「うーん……いや、そういうことだよ。実際に嘘をつかなくても下手さがわかるほどの下手」
「ちょ、それはないっしょ! 本気出したら絶対あっちゃん騙せるからね」
「いやー……たかみなは無理でしょ……」
「それこそあっちゃんに言われたくないわ!」

2人で爆笑した。
さっきまで勝手に不安になって、勝手にたかみなを疑うようなことをしていた自分が馬鹿らしかった。
いいではないか。
こうして笑い合えるのなら。
私は心の底から笑っていられる。
向こうはどうか、なんて確かめようがない。
気にするだけ無駄なのだ。
向こうはわからないけど、私は楽しい。
それでいいんじゃないかと思った。

電車は、たかみなの方が早く降りる。
たかみなに別れを告げて、電車で1人になる。

そうなると思い出されるのはともちんだ。
名前を知っただけの他人なら、思い出すことも無かっただろうが、あんな悩みを告白された後だ。
気になる。非常に。
自分がどうにかしてやりたい、なんて正義のヒーローみたいなことは思わないが、1つ、ともちんに言われたことで印象的な言葉があった。
それが、どうも頭の中で容量を喰っている。

「……なーんであの言葉が残るのかな?」
そんな呟きは、電車の騒音で口から出てすぐにかき消された。

更新日:2011-06-14 02:29:56

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