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過去との決別
「才加ー!」
「ちょ、抱きつくなって、痛いんだから」
「あ、ごめん」とすぐさま離れるたかみなを見ながら才加は笑う。
試合が終わって私とたかみなは、才加と一緒に帰ろうと彼女が出てくるのをを待つことにした。
その旨をメールしてみると、残りの試合も見ていく、とのことだったので、私達も残って試合を見た。
帰り支度を終え、私達の前に現した彼女の姿は、遠くから見ても分かるほど痛々しかった。
顔は傷だらけで、頬は腫れていた。
しかし、才加の笑顔はその痛々しさを吹き飛ばすような笑みだった。
心の底から笑う彼女を見ていると、心配しているこっちも自然と笑顔になってしまう。
笑顔というものにはやはり物凄い力がある。
「体は大丈夫なの? あんなに殴られて」
「痛いけど大丈夫だよ。てか、たかみなの方が目を腫らしてないか?」
確かにたかみなの目は腫れぼったくなっている。
その理由を私は知っている。
「たかみなはもう途中からずっと号泣してたからねー」
「号泣!? なんでたかみなが?」
「才加が一回ダウンしたときにはもう泣いてた」
たかみなは恥ずかしそうに、その腫れた目を隠すように下を向きながら言った。
「だって……傷つく才加が可哀想で……」
「だからと言って泣くことはないだろー。嬉しいけど」
「もうダメだ、と思ったらあの逆転でさ……私もう何が何だか分からなくなっちゃって……」
たかみなの口がとんがった。
同時に目が潤みだした。
もしやと思った。
「才加が勝ったんだって分かった時は安心しちゃって……嬉しいよお!」
たかみなはまたもや泣きながら才加に抱きついた。
「おいおい、だから何でたかみながそんなに泣いてんだよ」
才加は照れ笑いで、たかみなの頭をなでる。
その様子を微笑ましく見ていると、才加と目が合った。
「あっちゃん、ありがとね」
「いやいや、才加が頑張ったんじゃん。私は何もしてないよ」
「あっちゃんの言葉で私は立ちあがれたよ」
「え、聞こえてたの? 恥ずかしいな」
あの時、私はあまりにすさまじい試合にテンションが振り切ってしまい、立ちあがって才加に言葉を投げかけていた。
てっきりあんな歓声の中では私の声なんてまるで聞こえないものだろうと思っていた。
「まさかあっちゃんがあんなに熱い言葉を言ってくれるとは思ってなかった」
才加の言葉に、私は自分のしていたことが急に恥ずかしくなった。
正直興奮しすぎてどんな言葉を送ったのかもあまり覚えていなかったが、やりすぎた。
「そうだよ! 私もびっくりしたんだから」
泣きながら才加の胸に顔をうずめていた、たかみなも顔を上げる。
「いきなり隣で立ち上がってさ、『立て! 立つんだ才加!』だよ? 超ビックリしたんですけど」
そんなことは言っていない、と否定しようと思ったが、うんうん、と頷く才加を見て止めた。
映像として残っていないことが唯一の救いだ。
その救いに感謝して、私は話題を変えることにした。
「と、とにかく才加の左カウンターは凄かったよ」
私はその時の才加を真似るように左手を振る。
「あーあれか」
しかし最後の決め技にもかかわらず才加はため息をついて空を見上げる。
私とたかみなが心配になって顔色を窺うと、「いや、別に不満とかじゃないんだけどさ」と言って続けた。
「なんかさ、ヤンキーだった過去との決別のためにボクシング始めたけど、結局最後に頼ることになったのはヤンキー時代の自分の得意技って、皮肉なもんじゃない?」
「ちょ、抱きつくなって、痛いんだから」
「あ、ごめん」とすぐさま離れるたかみなを見ながら才加は笑う。
試合が終わって私とたかみなは、才加と一緒に帰ろうと彼女が出てくるのをを待つことにした。
その旨をメールしてみると、残りの試合も見ていく、とのことだったので、私達も残って試合を見た。
帰り支度を終え、私達の前に現した彼女の姿は、遠くから見ても分かるほど痛々しかった。
顔は傷だらけで、頬は腫れていた。
しかし、才加の笑顔はその痛々しさを吹き飛ばすような笑みだった。
心の底から笑う彼女を見ていると、心配しているこっちも自然と笑顔になってしまう。
笑顔というものにはやはり物凄い力がある。
「体は大丈夫なの? あんなに殴られて」
「痛いけど大丈夫だよ。てか、たかみなの方が目を腫らしてないか?」
確かにたかみなの目は腫れぼったくなっている。
その理由を私は知っている。
「たかみなはもう途中からずっと号泣してたからねー」
「号泣!? なんでたかみなが?」
「才加が一回ダウンしたときにはもう泣いてた」
たかみなは恥ずかしそうに、その腫れた目を隠すように下を向きながら言った。
「だって……傷つく才加が可哀想で……」
「だからと言って泣くことはないだろー。嬉しいけど」
「もうダメだ、と思ったらあの逆転でさ……私もう何が何だか分からなくなっちゃって……」
たかみなの口がとんがった。
同時に目が潤みだした。
もしやと思った。
「才加が勝ったんだって分かった時は安心しちゃって……嬉しいよお!」
たかみなはまたもや泣きながら才加に抱きついた。
「おいおい、だから何でたかみながそんなに泣いてんだよ」
才加は照れ笑いで、たかみなの頭をなでる。
その様子を微笑ましく見ていると、才加と目が合った。
「あっちゃん、ありがとね」
「いやいや、才加が頑張ったんじゃん。私は何もしてないよ」
「あっちゃんの言葉で私は立ちあがれたよ」
「え、聞こえてたの? 恥ずかしいな」
あの時、私はあまりにすさまじい試合にテンションが振り切ってしまい、立ちあがって才加に言葉を投げかけていた。
てっきりあんな歓声の中では私の声なんてまるで聞こえないものだろうと思っていた。
「まさかあっちゃんがあんなに熱い言葉を言ってくれるとは思ってなかった」
才加の言葉に、私は自分のしていたことが急に恥ずかしくなった。
正直興奮しすぎてどんな言葉を送ったのかもあまり覚えていなかったが、やりすぎた。
「そうだよ! 私もびっくりしたんだから」
泣きながら才加の胸に顔をうずめていた、たかみなも顔を上げる。
「いきなり隣で立ち上がってさ、『立て! 立つんだ才加!』だよ? 超ビックリしたんですけど」
そんなことは言っていない、と否定しようと思ったが、うんうん、と頷く才加を見て止めた。
映像として残っていないことが唯一の救いだ。
その救いに感謝して、私は話題を変えることにした。
「と、とにかく才加の左カウンターは凄かったよ」
私はその時の才加を真似るように左手を振る。
「あーあれか」
しかし最後の決め技にもかかわらず才加はため息をついて空を見上げる。
私とたかみなが心配になって顔色を窺うと、「いや、別に不満とかじゃないんだけどさ」と言って続けた。
「なんかさ、ヤンキーだった過去との決別のためにボクシング始めたけど、結局最後に頼ることになったのはヤンキー時代の自分の得意技って、皮肉なもんじゃない?」
更新日:2011-11-23 23:59:01