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初めに気付いたのはたかみなだった。
彼女は突然、足を止めた。
それを見て、私も才加も足を止める。
同時に、真っ青な顔のたかみなの視線を追った。
その先には、5人ほどの女性が並んでこちらに向かって歩いてくるところだった。
やばい、と思った。
逃げろ、とも思った。
しかし、こうも見晴らしのいい川沿いの土手では逃げ場もない。
私達3人はただその5人組と向かい合うのを待つだけだった。
おそらく、彼女たちは才加に絡む。
どう考えてもその風貌は中学生時代の才加に関係する人間であることを示すものであった。
つまり不良。

「よお、チョウコクさんよ。おっと、今は秋元才加選手だっけ?」
予想通り、5人のうちの1人がすぐに才加に話しかけた。
「お前ら……ヒロミの手先か」

ヒロミ……名前を聞いてすぐに思い出せた。
先日才加の不良時代の先輩として私達の前に現れた女である。
最後に脅しに近い言葉を残していった

「まあ、そんなところだな」
「ヒロミさんがあんたを締めろってさ。しっかしおかしいなあ、今狙えば1人だと聞いていたんだけどな」
「どうやらお連れさんがいるみたいね」
いつかの信号頭のようにリーダー格が決まっているわけでは無いらしく、5人バラバラに次々と喋る。
「ま、関係ないっしょ」
「覚悟しな。秋元」

もうすでに相手はやる気満々だ。
拳を握り、今にもそれを振り回そうとしていた。

「くそ……仕方ないか」
才加は肩にかけていた荷物を置いた。
言葉通り、仕方なく、半分あきれた様子だった。
「たった5人で私を殺ろうなんて舐められたもんだ」

そのまま才加が戦闘態勢に入ろうと拳を握る直前だった。
5人と才加の間に割って入った人物がいた。
それは、私だ。

あっという間にその場にいる全員の視線が刺さる。
刺さる視線には慣れていないが、金髪にしたときよりはマシだった。
もう引き下がれない。

「ダメだ! 才加はこれから試合なんだ。こんなところで喧嘩なんてしてる場合じゃない」

自分が何をしているのかは、重々承知していた。
喧嘩の間に割って入る。
それはある意味、喧嘩への参加表明だ。

「な、何言ってんだ! こいつらの目的は私だ! お前らは逃げろ!」
そんな私の行動に、才加は目を見開いて驚いていた。
そしてすぐさま、私の手を引こうとする。
しかし、私はそれを振り払った。

「だからダメだっての! 才加! お前はさっさと試合会場に行け!」
ついには、才加を『お前』呼ばわりした。

「そんなこと言ったって……お前らを見捨てろってのか」
突然のことに才加は困り果てた様子だった。
まさか、この場面で自分より前に出る奴がいるとは思わなかったのだろう。

「ここは私が相手する。だから行け! 早く!」
才加は私がこの場面で『相手する』ことが出来るのかどうか知らない。
しかし、私の自信たっぷりの言葉に最後には首を縦に振った。
「わ、分かった。ほ、ほんとに大丈夫なのか?」
「大丈夫だ、問題ない」
荷物を拾うと、才加は試合会場に向けて走り出した。

「あ! 待ちやがれ」
1人が才加を追おうとする。
その前に私は立った。

「才加には指一本触れさせない」
「おもしれえ、相手してくれんのか?」

他人とこんなにも睨み合うのは、人生初めての経験だった。
足は震えていたし、すぐにでも逃げ出したかった。
それでも私は、道を譲らなかった。

更新日:2011-10-25 10:17:39

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