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髪は茶髪でロング。
目の周りは黒々とメイクされているので、すっぴんの顔は想像できない。

「久しぶりですね」
「何だ、楽しそうにしてんじゃんか……おとなしく」
「まあ……」

右手を上げながら才加の方へ近づいていくその女は私服であり、学生なのかどうかも判断できない。
あっという間に蚊帳の外になってしまった私たちを気遣ってか、その女はパッとこちらを向いて自己紹介をした。

「あ、あたし才加の中学の先輩のヒロミね。よろしく」

「何の用ですか」
「いやー、この道歩いてたら偶然にも懐かしい顔を見かけたから声を掛けただけさ」
「そうですか」
「お前は変わらんな。制服変わっても遠くから見てすぐ分かったよ」
「そりゃどうも」

このヒロミという先輩とと才加がどれほどの仲だったのかは当然私には分からない。
しかし会話は、ヒロミが話して才加が相槌を打つのみの会話だった。

「で」

ヒロミは、ここからが本題だ、とでも言うように会話を区切った。

「いつになったら高校でも名前を上げるつもりなのかね」

ヒロミと才加の会話では初めての質問となった。
才加は黙って何も答えない。

「名前を上げるって? どういうこと?」

たかみなが割って入って質問した。
何も言わなきゃいいのに、と思ったが、実際その疑問は自分も考えていたのでちょうど良かった。

「なになに、お前ら知らねえの?」 
ヒロミは驚いた、というより知らない私たちを馬鹿にしたような口調になった。
「強かったんだぜ、チョウコクと呼ばれた女は」

チョウコクと呼ばれた女、それはまぎれもなく才加のことを指している。
先日私とたかみなが絡まれたときに不良が発していた『チョウコク』も同じように才加のことを指していたのだろう。

「必殺の左クロスカウンター。敵う奴はいなかった」

突然飛び出してきた技名、クロスカウンター。
何のことを言っているのか理解できなかった。
普通にボクシングのことを言っているのかと思ったが、才加は中学ではボクシングをしていない。

「ま、最後はよくわからんやつに負けて終わっちまったけど、絶対高校でも名前が広まるような奴になると思ってたんだぜ」

敵う奴はいないだとか、負けて終わっただとか、何の話なのか問いたかった。
ただ、それを聞いたらもっと馬鹿にされるような気がしたので、黙って聞くことにした。

「それが高校に入って1か月経つってのになんにも聞かないからさ。聞けば英慶美なんて普通の高校に入りやがって」

才加は変わらず黙ったまま何も言わない。

「どーすんだよ、才加? まさか英慶美なんてぬるい学校で頂点獲りに行くなんて考えちゃいないよな」
ヒロミがポンと才加の肩を叩いた。
ここで才加が口を開いた。
「私はもう……そういうの辞めましたから」

それを聞いたヒロミは一瞬表情が固まった。
しかし、すぐにまたヘラヘラとした笑顔に戻った。
「あ、辞めちゃうんだー。残念」

そのまま才加とすれ違うように歩を進める。
そして才加の横に並んだところで今度は途端に厳しい表情になった。

「中学であれだけ好き勝手やっといて簡単に逃げられると思うなよ」

今までの声とはまるで違う低い声だった。
表情1つ変えずに聞いていられる才加が凄いと思った。

「んじゃ、またねー」
そのまま手を振りながらヒロミは去ろうとする。
「ちょっと待ってください」
才加がその後ろ姿に声を掛けた。

「ホントに今日は偶然会っただけなんですか?」

それは私も感じていた。
偶然にしては随分具体的な話をしている。
会ったら話す、というより、話しに会いに行くような内容だった。
だとすれば、才加の部活の予定などを知らなければ会えない。

「偶然だって言ってんじゃん」

ヒロミは才加に背を向けたまま言った。

「でも、もしかしたら見えてないだけで何度もすれ違ってるかもしれないね」

そう言い残して、ヒロミは去って行った。
私達3人は黙ったまま駅にむかってまた歩き出した。

更新日:2011-09-20 17:25:40

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