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放課後、学校から駅まで道のりをたかみなと並んで歩く。

「ボクシングかあ。ビックリだね」
やはり話題は才加の部活のことになった。
「腹筋も割れるわな」
そう言いながらたかみなは自分の腹をさする。

「どんな練習すんのかな」
「そりゃやっぱり生肉殴ったり、美術館前の階段を駆け上がったり、生卵飲んだりするんじゃない?」
どっかのボクシング映画で見た光景をそのまま言った。
「それはないでしょー」
「流石にそれはね」

くだらない、と2人で笑った。
実際に才加がその練習をしているのところを想像するともっと笑えた。
しかしながら、その想像は驚くほど彼女に似合ってしまった。
むしろそれくらいやっているから、あの腹筋に納得できるような気すらしてしまう。

笑いながらたかみなと顔を見合わせる。
高橋が口を開く。
「いやでも」
そしてお互い、にやりと笑う。
たかみなも同じことを考えているようだった。
「……才加ならありそう」

そんなバカみたいな話題で盛り上がっていると駅が近づいてきた。
駅は学校との距離が結構あり、不便に感じているが、たかみなと話していればすぐだった。

しかし私は駅に着く直前で足を止めた。
そのとき、明日の授業の時間割を考えていた。
その中で、重大なミスを犯してしまったように思える教科を見つけてしまったからだ。
自分のミスに気付いた時の青ざめる感覚、初めてではないが慣れることは無い。

「どうしたの? あっちゃん」
急に止まる私をたかみなは不安げな顔で見た。
「たかみな」
「何?」
「明日の現代文って、宿題提出だっけ?」

正直、返ってくる答えは分かっていたが、何かの間違いを期待して、わざわざ聞いてしまう。

「そうだよ」
そして予想通り、何かの間違いなんてことは起こらない答えが返ってくる。

「最悪。教科書学校に置いてきちゃった」
「やってないの!? だったら取ってきた方がいいよ」
「そうする。たかみな先帰っていいよ」
「わかった。じゃあ、また明日」
「うん。またね」

本当に面倒だ、とその面倒を起こす自分にイライラした。
しかし、戻れる距離で気づいただけ良かった。
夜の自宅にて、忘れてしまった、と気付いたのでは絶望に打ちひしがられるしかなかったところだ。

当然今は下校時間。
生徒の流れを逆に進む形となるので、すれ違う人には不思議な目で見られる。
今から登校するのか、と。
実際自分も今から登校するような不思議な気分ではあった。
わざわざ下駄箱の上履きを履いて教室に戻っていくのだから。

「ふうー。よかったよかった」
無事教科書を回収すると、安堵から息が漏れた。
そして他に忘れ物は無いかと周りを見渡す。
教室には誰もいない。
生徒の声でにぎわっていると狭く感じる教室も、空っぽになってしまえばだだっ広い、何とも寂しい哀愁漂う教室だ。
グラウンドからは陸上部の、そしてその横にあるテニスコートからはテニス部の声が聞こえる。
何を言っているのかは聞き取れないが、ここまで届くだけの声を張り上げることが私にはできないと思った。

こうして上から客観的に見ると、それらはドラマや漫画の1ページに見えなくもなかった。
彼女たちにとってとても大切な時間を過ごしているに違いない。
そういう意味では部活を羨ましく思うこともある。
しかし一時的に思うだけで、この生活に部活を取り入れるということを考えると、入ろうと思う気持ちはすぐに吹っ飛ぶ。

部活、という言葉で思い出したことが1つあった。

「才加の部活、見に行ってみようかな」

更新日:2011-08-30 02:11:00

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