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救世主

現れた女子生徒は背が高く、スカートからは長い脚が出ている。
顔は堀が深く日本人離れしていて、どこかのハーフを思わせた。

「なんだテメエ! お前も仲良く痛い目に遭いたいか?」

青頭がズンズンとその女子に近づいていく。
2人が並ぶとやはり彼女の方が背が高く、青頭が見上げる形となった。
それでもその女子が喧嘩で3人を追い払えるようには思えない。
助けようとしてくれるのはいいが、これでは勝算が無い。

また私のせいで巻き込まれる人が増えてしまう。
事が終わったあとなんて謝ればいいのか、そんなことを考えていた。

しかし事態は予想外の展開に進んだ。

「辞めとけ! そいつはチョウコクだ!」

ここまでで1番の大きな声が現場に響いた。
なんとリーダー格に思われる赤頭が青頭を制したのだ。

「チョウコク? まさかこいつが?」
「間違いねえ」

『チョウコク』というワードが私には理解できなかった。
それでもヤンキー3人がその言葉にビビッているのは分かった。
『チョウコク』と言われた本人は何も言わず黙って聞いていた。

3人は後ずさりすると、私をもう一度睨みつけた。

「今回は見逃してやる。反省してんならさっさとその頭直すんだな!」

そう捨て台詞を残して、3人は走って逃げて行った。
嵐が去ったあとのような静けさだけがその場に残った。

「た……助かった……」
私は安堵から地面に座り込んだ。
腰を抜かすほどにビビッていたとは、我ながら情けない。

「たかみな……ごめんね」
そう言って隣のたかみなを見た。
たかみは溜まっていたものがあふれ出たように号泣していた。
「うえええええええん! 怖かったよお!」

「怪我はない?」
座り込む私たちを覗き込むように、助けてくれた本人が話しかけてきた。
何だかよく分からなかったが、この人には感謝してもしきれない。

「あ、あの、助けていただいてありがとうございました!」
私は慌てて立ち上がって、頭を下げる。

「私は何もしてないよ。運が良かった」
「でも、止めてくれなきゃあのまま私達殴られるところでした」

それを聞いて、ようやくたかみなが立ち上がる。

「ホントだよお。この可愛い顔に傷がつくところだった」

その言葉に恩人は苦笑いだった。
「これは……突っ込んだ方がいいの?」
「いや、いつものことなんでいいです」

恩人さんとまだ涙が目に見えるたかみなと私の3人。
並んで駅へ向かう。

「なるほどねー。あんたは今日初めて金髪にしたんだ」
「そうなんです。明日にはもう落とすつもりでした」
私達はあの状況までの経緯を話した。

「それがさっさと捕まっちゃったわけか。初めはてっきり、そのリボンの子が4人に囲まれてるんだと思ったよ」
「一番関係ないのはある意味私なんすよ? ひどくないですか?」
「でも逃げずに友達のそばにいるってのは立派なんじゃない?」
「え、そ、そうですかね」

確かにたかみなは結果として最後までそばにいてくれた。
でも「結果として」そうなっただけで事実は違う。
私はすかさず会話の間に突っ込んだ。

「いや、逃げようとしましたよ、たかみなは。逃げ遅れただけです」
「あっちゃんそれ言っちゃダメだって! て、てか助け呼ぼうとしたんだし」
「嘘だあー。足ガックガクだったじゃん」
「違いますよ、助け呼ぼうとしたんですよ」
たかみなは必死に恩人さんに釈明する。

恩人さんは笑いながらこう言った。
「ま、どっちも怪我が無くてよかったんじゃない?」

確かに怪我なしで乗り越えられたのは本当に運が良かった。
その事実を考えれば考えるほど、この人にはなんて感謝すればいいのか思い浮かばないほどだ。

「あの……名前聞いてもいいですか?」
駅が近づいてきたところで、私は名前というまず聞くべきだったようなことを聞いていなかったことに気付いた。

その質問にその人は、顔を改めて答えた。
「……名乗るほどのものではござらん」
「え?」
私はポカンと口を開けて、表情が固まってしまった。

「……なんて言うほどのものでもないんだよね。私は、秋元才加。1年。よろしく」
「あ、よろしくお願いします」
「うん。仲良くしてね」

そうして携帯を取り出しあっという間に赤外線通信を済ませると、彼女は駅の改札に消えて行った。

「行っちゃった……」
「1年だったんだ……私絶対先輩だと思ってた」
「やっぱたかみなも? 私も先輩に見えた」
あの背の高さに大人っぽい顔は同い年に思えなかった。

「普通にタメ口で良かったんじゃん。言ってくれればいいのに」
「あの人……留年しちゃったってことなのかな?」
「何で年上っていう考えから抜け出せないんだよ!」

パシン、とたかみなに肩を叩かれて突っ込まれた。

更新日:2011-08-21 01:40:50

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