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信号機

ともちんと別れて、教室に向かって廊下を歩いていると、前からたかみながトコトコと小走りでやってきた。

「あっちゃん! 大丈夫!?」
「え? 別に何ともないよ」
「ともちんに非常階段の方へ連れて行かれて……ついにタイマン張ったんでしょ!?」
「いやいや、違うっての」
私は首を左右に振って呆れた。

「え? 何、違うの? タイマンで舐められないように金髪にしたんじゃないの?」
「確かに、ともちんの言葉がきっかけだとは言ったけどさ……」
「じゃあ、何してたの?」
「ちょっと話してただけ」
「ちょっとって何を?」
「それは秘密」
「えー、なにそれ教えてよ」

ともちんはわざわざ人のいないところを選んで私と話した。
つまり他の人には聞かれたくない、そういうことだ。

たかみなと一緒に教室に入る。
入った瞬間、もうすでに何人かは目をまん丸く見開いて私を見ている。
さらには「おはよう!」というたかみなの元気な声で、クラス中からの視線を浴びることになった。
ここで私も明るく「おはよう」と挨拶が出来れば完全なイメチェン、いやキャラチェンになっただろう。
しかしながら、ともちんと決着がついて沸騰気味だったテンションが下がった今、人見知りという本来の性格が堂々と顔を出す。
下を向いて、さっさと席に着く。

「ちょっとたかみな、あの子……前田さんだっけ? どうしたの?」
そんな私とは違って、たかみなはすぐに友達に囲まれる。

この学校には特に頭髪に関して規則が無い。
つまり、基本的には茶髪にしようが、金髪にしようが、はたまた赤髪にしようが自由なのだ。
だが、学校の雰囲気からか、今の私のように派手な色に染めている生徒は、ほとんどいない。
そして、その少数派の派手な髪色の生徒は、言ってしまえば学校に毎日真面目に来ないような生徒だ。
そのため実質この学校で金髪なんて髪の毛をしているのは私だけだ。

授業が始まるとやはり先生にも驚かれた。
教室に入ってきてすぐに驚く先生もいたし、出席を取って初めて気づく先生もいた。
どの先生も私の方を一度見て、下の出席簿に目を落とすものの、一瞬だけ視界に映った金髪を思い出してもう一度確認する。
見て、スルーして、いやいや嘘だろ? というように。

それでもわざわざ話しかけたりして、頭髪に触れることは無かった。
別に規則に引っかかってなくても、普通の生徒だったら触れられるように思えるが、先生たちは触れられなかったのだろう。
彼らの中では私は「地味で無口な生徒」となっているわけで、そんな生徒が突然金髪に染めてきたら、単なる自己主張ではないことを考えるのは当然かもしれない。
これは気安く触れるべきではない―そう判断するのかもしれない。

すいません、先生。私の単なる自己主張です。

心の中でそう思いながら、先生たちの様子を見ていた。

授業が終わると、私はすぐに帰宅の途についた。
流石に今日のような非日常的な日は疲れる。
中々面白い一日でもあったが、ずっと学校にいる必要は無い。

「あっちゃん、これからずっと金髪にすんの?」
「うーん、どーせスプレーだし洗ったら落ちちゃうんでしょ? じゃあ、もう面倒くさいかも」
「髪の毛痛みそうだしね」
「それに、ともちんがさ、あんまり派手なのは止めた方がいいって言ってたし」
「それ、どういうこと?」

このとき私たちは学校から駅までの一本道を喋りながら歩いていた。
すると前方から私たちが来るのを待っていたかのように、同じ制服を着た女子3人が歩いてきた。

しかし同じ制服と言っても大きく着崩してあり、アクセサリーも沢山付けている。
だがそれ以上に目を引くのは3人の髪の毛の色が左から赤、青、黄色となっていたことだ。
信号機のようにカラフルで面白い。
同じ制服を着ているとは思えないほど素行が悪そうだ。

その3人は私たちを見るなり、歩いてきて正面に立った。
私たちも自然と足を止めざるをえない。
一気に体が緊張する。
赤い頭が口を開く。

「お前か。金髪なんてして調子乗ってるのは」

私はこの状況がすぐに理解できた。
ゆっくりとたかみなの方を見る。

「たかみな……」

さっきまでの会話はたかみなの質問で終わっていたので、それに答えた。

「こういうことだ」

更新日:2011-08-05 04:09:22

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