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「あっちゃん、ホントにやっていいんだね」
「うん。いいよ。お願い」
私は朝早めに家を出て、たかみなの家にいた。
何をしているのかというと……髪の毛を金に染めていた。
もちろん時間も無いので、スプレーを吹き付けるだけの染髪だが、その馴染まない金色は普通に染めるよりも鮮やかに光った。
「メイクは……?」
「もちろんお願い」

こうして、金髪、メイクの高校生となった私に道行く人は視線を注ぎ、驚くのだ。


「ちょ、ちょっと来て!」
そう言ってともちんは私の手を人通りの無い、例の非常階段の所へ引っ張った。

「もしかして私がこの前言ったから?」
「この前?」
「メイクに茶髪なんて無理だって言ったから?」
「うーん、まあそうっちゃそう。どうかな? 似合う?」
「似合うとかじゃなくて。何なのそれ? 私への当てつけ?」
「当てつけ?」
「『私がこんなことしたんだから、黒髪、すっぴんやれよ』って言いたいんじゃないの」

ともちんは怒っていた。
確かに状況だけ見ればそういう考え方になるのは仕方ないが、あいにく私はそんなにお人好しじゃないし、偉そうなことを言うつもりもない。

「違うよ」
私ははっきりと否定した。
「違うの?」
「ただ単に私は髪も染めるし、メイクもするよって言いたいだけ」
そして伝えたいことをただ述べる。
「そ、それだけ?」
「うん。私は負けず嫌いなんだ」
「それだけでこんなことするの?」
「前から興味はあったし。別人みたいで面白いね」
「わけわかんないよ……」

ともちんが困惑した表情を浮かべる。
お互い少し気まずくなる。
流石に負けず嫌いだからという理由で金髪にするのは理解してもらえないか。

……ぐううううううー!

この爆音は何かと思った。
しかし、すぐに私から発せられた音だということがわかった。
ここで、私のお腹が猛烈な音を鳴らしたのだ。

私とともちん。2人で顔を見合わせる。
一瞬間の抜けた時間が流れ、先にともちんが吹きだす。
「あっちゃん、音大きすぎ!」
続いて私も笑う。
「朝食べてないからお腹減っちゃったよ」

しばらく笑ってから、ともちんが言う。
「はあー……何か考えすぎの私が馬鹿らしくなっちゃった」
「え? どういうこと?」
「そんな見た目でもやっぱり中身はあっちゃんなんだね、って思った」
「まあそりゃ私だからね……」
私は正直ともちんの言ってることの意味がよくわかっていなかった。

「見た目と中身のギャップがどうこうってグダグダ言ってる意味ないね! 関係ない! どうしてそんな当たり前のことが分からなかったんだろ」

ここでようやくともちんが私に相談してきた自分の悩みについて言っていることが分かった。
よくわかってなかったことを悟られぬよう、慌てて頷いて便乗する。

「そうそう。こんな髪の毛しても私は今までと全く変わらないんだから」
「だよね。見た目も中身も両方含めて『自分のキャラ』なんだよね」
「これから自分の素をどんどん出していけば馴染んでいくって」
「ありがとあっちゃん。マジ悩み解決した」
「そ、それならよかった」

ともちんに感謝されているようだが、私は髪の毛を金に染め、メイクをして、お腹を思いっきり鳴らしただけである。
これで悩み解決とは、何だか笑える。

「そのメイクさ……自分でやったの?」
「いや違うよ。たかみなにやってもらった」

昨日の夜連絡して今日の朝早くから手伝ってもらった。
たかみなには感謝しなければならない。

「ふーん……」
「どうかした?」

ともちんは私の顔をまじまじと見つめる。
そして言い放った。

「ぶっちゃけ下手」

「……たかみなに言っとく」

更新日:2011-07-19 22:48:22

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