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慣れ、不慣れ

「いってきまーす」
特に誰に向かって言ったわけではない。
強いて言うならリビングでまだ食事をしている父とベランダに洗濯を干している母に言ったとするのが妥当だろう。
何せ毎日のように言っている挨拶なのだから。
玄関に立ったら自動的に、反射的にこの言葉を発してしまう。
そして「いってらっしゃい」という言葉を背中に受けながら家を出るのだ。

ここまでは慣れていること。体に染みついている。
しかしここから先は何も慣れていない。
慣れない電車通学、慣れない通学路、慣れない校舎。
正門から校舎までの道には桜が綺麗に咲いている。
さすが『英慶美桜女子(えいけいびさくらじょし)高校』という名前なだけはある。
桜に見とれるのも程々に下駄箱へと向かう。

新たな場所での生活は不安も多い。
勉強は……どうにかなるだろう。
中学での成績も悪くはなかったし、この高校の入試も割と余裕でパスできた。
通学も別に家から遠いわけではない。すぐに慣れるだろう。
となると、やはり一番困るのはただ1つだ。

交友。

人見知りの私にそれができるだろうか。
中学では小学校から友達も沢山いたし、すぐに馴染めた。
しかしこの高校には中学からの友達はもちろんいない。
自分から行動しない限り友達はできないのだ。

教室に入り、自分の席に着く。まだ皆ギクシャクしている。
そうだ、皆だって周りは知らない人しかいない。
スタートラインは同じなんだ。
こうなったらやるしかない。
絶対に友達を作ってみせる!


こう意気込んでから、あっという間に2週間が経過した。

教室ではそこらじゅうにグループができ、わいわい話している。
しかし何故だろうか、私の周りに人はいない。
理由は自分でもわかっている。
結局何も行動できなかったからだ……。

更新日:2011-04-21 00:34:30

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