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夕食を待つために客間に案内された帝辛は、帝鴻と二人きりになった。

改めて、黒い蛇の様な娘だと、帝辛は思う。
近寄りがたく畏怖するような容姿と異なる柔軟な態度。
本当に不思議だと、ぼんやりと考えていた帝辛に、帝鴻は声をかけた。

「商は夏という王朝を滅ぼし、国を統一する力を手に入れました。本当に遥か昔の話です」
昔話でも読み聞かすような雰囲気だ。椅子に深く腰掛け、落ち着いた口調で話す。

「夏は対の蛇神により守られていましたが、それを滅ぼした者こそが有蘇の祖先なのです」
「有蘇の?」
商ではないのかと意外そうに帝辛は言った。

「はい・・・有蘇は巫師の一族なのです」
帝鴻は記憶を甦らせる様に天を仰いだ。

「有蘇の祖先・・・その者は男としての機能も、女としての機能もない体に、
男女二つの魂を吹き込まれこの世に誕生しました。」

楽の才があり、武の才がありました。と帝鴻は話す。

「並みの男ぐらいの身長に黒い長髪、目は朱色に輝いていたと言います」
受け流す程度の相槌を帝辛は入れた。帝鴻は続けた。

「彼がどのように蛇を倒したか・・・知る者は居ません、書にも残されていません」

そして・・・
帝鴻は笑みを浮かべる。
「商の守り神は対の黒の大蛇、その目は朱色に輝いている・・・どういうことでしょうかねぇ」
「見てきたように言うな」
楽しげな帝鴻に帝辛は水を差した。

「暇だ、少し、外の空気を吸いたい」
帝辛はそういうと、客間から出た。

更新日:2011-04-23 15:35:06

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