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新担任のこと

夏休みが終わり、久しぶりに学校へ行ってみると
私のクラスの担任が変わっていた。
私がそれを知ったのは、新しい担任に職員室に呼ばれたときだった。

「倉持さん。」

新卒っぽい男性がちょっと緊張した面持ちで手招きをした。
「これが担任?砂川だっけ?」相変わらず私はホームルームは
自分の世界に入り込んでいたのでまったく認識していなかった。
砂川はスーツにまだ慣れていない感じで
彼女にでも貰ったであろうセンスの悪い黄色いネクタイが印象的だった。

「倉持さんのご両親は海外にいらっしゃるんだよね。
 今はお知り合いのところでお世話になっているって聞いたんだけど。」

「はい。そうです。」

「ちなみに、その人は何してる人?」

「開業医です。」

「開業医ね・・・。」

砂川は適当に返事をして、メモ帳を取り出した。
そして、私に見えないようにこっそりとメモを取り出した。
ここからメモを取っているのは丸見えで、
「何、書いてんだ?こいつ」私はイラっとした。
それから、砂川は色々と質問してきた。
両親のこと、生まれのこと、圭司さんのこと、私のこと。

「あの、これって?」

私は少し渋い顔をしながら呼び出された理由を探ろうと
砂川に聞いてみた。

「ああ、一応、担任だから
 生徒のことを知りたくて・・・。
 で、通学はバイクだよね?」

「はぐらかされた」私はさらに機嫌が悪くなった。

私は質問される度にズブズブと足下から
底なし沼に入って行くような錯覚に陥った。
私は何か悔しい感情に侵され始めた。

「砂川先生。」

聞き覚えのある声に私は後ろを振り返った。
そこには、タクちゃんが立っていた。

「林原先生が探してましたよ。」

タクちゃんは営業スマイルで砂川を見た。

「あ、本当?
 そっか・・・。
 じゃあ、倉持さん。また後日ね。」

そういって、砂川はメモ帳を内ポケットにしまい
職員室を出て行った。


タクちゃんは見えないように私の手を握り
小声で私に聞いてきた。

「ミアちゃん、大丈夫?」

私は黙って頷いた。
タクちゃんは私の手を引きそのまま職員室を後にした。
肉体的な攻撃よりも精神的な攻撃に弱い私は
黙ったままタクちゃんの後について歩いた。


家に帰った私は帝の部屋のドアをノックした。
いつもなら「ほ〜い」というふざけた声で扉を開けるのだが
今日は反応がなかった。
「あれ?いない?リビングかな」そう思って前を見ると
ちょうど学校から帰って来た大介が立っていた。

「帝さんなら出張中だよ。」

「そうなんだ。いつ戻ってくるの?」

「さあ。何で?」

「ちょっと、調べて欲しいことがあってね。
 帝にメールしてみる。ありがとう。」

私はそういって自分の部屋へ向かった。
この業界には入って、私は『情報』の凄さを知った。
人に会うにも、何をするにも
前もって知っていなければならない。
そんな世界で『情報』を生業にしてい帝の凄さを
私はようやく感じ取れるようになった。


今日の職員室での質問は、はっきりいえば警察の尋問に
近いものを感じた。
中学の時に『国籍問題』で色々聞かれたのとは全く違うものだった。
それは多分、タクちゃんも感じ取ったと思う。
だから、タクちゃんは私を助けに来てくれたのだろう。

私は携帯メールから帝に
担任のバックグラウンドチェックをお願いした。


更新日:2011-06-05 23:02:49

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