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衝動
「ええええー!?」
静かな楽屋に、さえちゃんの驚愕の声が響いた。
「ゆきりん恋してんの!?」
「らしいよ。麻友によると」
私は恥ずかしかったので、まるで第3者から見たような言い方をした。
「しかも麻友に言われるとか」
「自分でも気づかなかったのに……」
「麻友やるなあ。でも自分で気づかないゆきりんもおかしい」
「え? そう?」
「だって普通わかるでしょ。好きな人できたら」
そう。そこが問題。
好きな人ができたら普通自分で気づくだろう。
だったらその好きな人がだれか分からなかったら、どうなるのか。
そんな感覚は普通あり得ないだろう。
「で、誰なのよ?」
さえちゃんは、さあどうぞと言わんばかりに待ち構えている。
私はどういう意味かは分かっていたが、わざととぼけてみる。
「え?」
「いやいや、ここまで来たら教えてくれるんでしょ?」
教えてくれる、という時点で聞いてきていることは決まっていた。
「な、何を?」
意中の相手の話に決まっている。
「とぼけるなって。その恋した相手に決まってるじゃん」
イライラするさえちゃん。なんだかその姿も愛らしい。
「やっぱそうか」
私は観念して言うしかなくなった。
「そりゃそうじゃん。気になるなあ。早く教えて」
「それがさ……」
「うんうん。誰よ」
さえちゃんの目は先ほどよりももっと輝いていた。
「……分からない」
「そうか、分からないかあ。……って、え?」
「誰のことが好きなのか分からないの」
「マジ? マジで言ってんの?」
「うん。超マジ」
「ええー。何それ」
流石にさえちゃんも反応に困っていた。
そりゃ恋愛相談で相手も分からないのでは話にならない。
「それで悩んでるんだよ。どうしたらいい?」
「どうしたらいいって……探すしかないでしょ」
「どこを?」
「あんたの周りに決まってる」
「いない」
「ちゃんと探した?」
「探した」
「ホントに? 仕事で一緒になった人もだよ?」
「ホントにいない」
「ほら、この前のバラエティーでゲストだったあの人は?」
「違う。多分」
「恋ってわかる? その人のことを考えるとドキドキするんだよ?」
「しないもん……」
結局、いくら考えても私の恋の相手はわからなかった。
どうやって知り合えばいいのか、とかこれからどんなアプローチをしていけばいいか、とかだったらアドバイスも出来るだろうが、相手が分かりません、ではさえちゃんは何も言えなくなった。
本当に内容の無い、申し訳なさすら感じる相談だ。
気が付けば、恋愛相談とは全く関係のない雑談が始まり、それが終われば各々別々に携帯をいじったり、ゲームをしたりしていた。
「あれ、わざわざ楽屋に居残って何をしてるんだろ」
私はしばらくゲームに夢中になっていた為、結構な時間が経過していることに気が付かなかった。
「もうこんな時間かー。てかごめんねさえちゃん。相談にもならないようなことに付き合わせて」
流石にこの無駄な時間の浪費を謝っておいた。
こんなことならば二人で峯岸さんについて行った方が良かった。
しかしさえちゃんから返事は無かった。
少し不安に感じてゲーム画面から顔を上げると、ソファの背越しにさえちゃんの後頭部は確認できた。
「あれ? さえちゃん?」
私は立ち上がって、ソファの前に回り込んだ。
「ふふ。なーんだ」
さえちゃんは、吐息を立てて、眠っていた。
横に座って、じっと彼女の顔を見つめる。
『イケメン』と称される凛々しい顔も、寝ているときは可愛い女の子だった。
「さえちゃん……寝顔可愛すぎ」
1人でそう呟いては、顔を赤らめる。
はたから見ればなんて恥ずかしいことしていたのか。
しかし、そのときは何も気にしなかった。
不意に私は、今自分が抱いている感情がおかしいことに気付いた。
それが具体的にどういったものかは説明し難いが、とにかくおかしい。
少なくとも、友人の寝顔を見ているときに持つ感情ではなかった。
心臓の鼓動は早くなり、息も苦しくなった。
全身から汗が出始め、体が熱くなってきた。
体が勝手に、吸い込まれるように、彼女へと近づいていく。
―恋ってわかる? その人のことを考えるとドキドキするんだよ?
さっきの彼女の言葉を思い出した。
ホントにそうなのか。
だとしたら大変だよ、さえちゃん。
その言葉を言われた時から考えていたことが1つあった。
私が一番ドキドキするは……さえちゃんなんだよ。
静かな楽屋に、さえちゃんの驚愕の声が響いた。
「ゆきりん恋してんの!?」
「らしいよ。麻友によると」
私は恥ずかしかったので、まるで第3者から見たような言い方をした。
「しかも麻友に言われるとか」
「自分でも気づかなかったのに……」
「麻友やるなあ。でも自分で気づかないゆきりんもおかしい」
「え? そう?」
「だって普通わかるでしょ。好きな人できたら」
そう。そこが問題。
好きな人ができたら普通自分で気づくだろう。
だったらその好きな人がだれか分からなかったら、どうなるのか。
そんな感覚は普通あり得ないだろう。
「で、誰なのよ?」
さえちゃんは、さあどうぞと言わんばかりに待ち構えている。
私はどういう意味かは分かっていたが、わざととぼけてみる。
「え?」
「いやいや、ここまで来たら教えてくれるんでしょ?」
教えてくれる、という時点で聞いてきていることは決まっていた。
「な、何を?」
意中の相手の話に決まっている。
「とぼけるなって。その恋した相手に決まってるじゃん」
イライラするさえちゃん。なんだかその姿も愛らしい。
「やっぱそうか」
私は観念して言うしかなくなった。
「そりゃそうじゃん。気になるなあ。早く教えて」
「それがさ……」
「うんうん。誰よ」
さえちゃんの目は先ほどよりももっと輝いていた。
「……分からない」
「そうか、分からないかあ。……って、え?」
「誰のことが好きなのか分からないの」
「マジ? マジで言ってんの?」
「うん。超マジ」
「ええー。何それ」
流石にさえちゃんも反応に困っていた。
そりゃ恋愛相談で相手も分からないのでは話にならない。
「それで悩んでるんだよ。どうしたらいい?」
「どうしたらいいって……探すしかないでしょ」
「どこを?」
「あんたの周りに決まってる」
「いない」
「ちゃんと探した?」
「探した」
「ホントに? 仕事で一緒になった人もだよ?」
「ホントにいない」
「ほら、この前のバラエティーでゲストだったあの人は?」
「違う。多分」
「恋ってわかる? その人のことを考えるとドキドキするんだよ?」
「しないもん……」
結局、いくら考えても私の恋の相手はわからなかった。
どうやって知り合えばいいのか、とかこれからどんなアプローチをしていけばいいか、とかだったらアドバイスも出来るだろうが、相手が分かりません、ではさえちゃんは何も言えなくなった。
本当に内容の無い、申し訳なさすら感じる相談だ。
気が付けば、恋愛相談とは全く関係のない雑談が始まり、それが終われば各々別々に携帯をいじったり、ゲームをしたりしていた。
「あれ、わざわざ楽屋に居残って何をしてるんだろ」
私はしばらくゲームに夢中になっていた為、結構な時間が経過していることに気が付かなかった。
「もうこんな時間かー。てかごめんねさえちゃん。相談にもならないようなことに付き合わせて」
流石にこの無駄な時間の浪費を謝っておいた。
こんなことならば二人で峯岸さんについて行った方が良かった。
しかしさえちゃんから返事は無かった。
少し不安に感じてゲーム画面から顔を上げると、ソファの背越しにさえちゃんの後頭部は確認できた。
「あれ? さえちゃん?」
私は立ち上がって、ソファの前に回り込んだ。
「ふふ。なーんだ」
さえちゃんは、吐息を立てて、眠っていた。
横に座って、じっと彼女の顔を見つめる。
『イケメン』と称される凛々しい顔も、寝ているときは可愛い女の子だった。
「さえちゃん……寝顔可愛すぎ」
1人でそう呟いては、顔を赤らめる。
はたから見ればなんて恥ずかしいことしていたのか。
しかし、そのときは何も気にしなかった。
不意に私は、今自分が抱いている感情がおかしいことに気付いた。
それが具体的にどういったものかは説明し難いが、とにかくおかしい。
少なくとも、友人の寝顔を見ているときに持つ感情ではなかった。
心臓の鼓動は早くなり、息も苦しくなった。
全身から汗が出始め、体が熱くなってきた。
体が勝手に、吸い込まれるように、彼女へと近づいていく。
―恋ってわかる? その人のことを考えるとドキドキするんだよ?
さっきの彼女の言葉を思い出した。
ホントにそうなのか。
だとしたら大変だよ、さえちゃん。
その言葉を言われた時から考えていたことが1つあった。
私が一番ドキドキするは……さえちゃんなんだよ。
更新日:2011-06-25 03:25:58