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悩み
仕事中でも麻友に言われたことが頭から離れなかった。
集中しなければ、と思えば思うほどに、麻友の言葉は頭を埋め尽くした。
気が付けば、恋してるの? 相手は誰? と自分に問いかけていた。
最近会った男性を思い浮かべてみる。
番組で共演した、俳優、お笑い芸人、歌手。
沢山思いつくが、特別な感情を抱くような人はいない。
最近のことだけでなく、過去も探っていく。
一か月前、半年前、一年前、もっと前。
仕事での共演だけでなく、プライベート、友達、ファン、家族。
あらゆる可能性を探った。
しかしいない。確実に、恋に落ちるような男性はいない。
「全くもう、麻友の奴ー」
考えすぎて、ついに麻友に対して理不尽な怒りが湧きはじめていた。
「麻友があんなこと言わなければ、こんなに悩む必要は無かったのに」
というか麻友の言うことを鵜呑みにしすぎ? いやいや実際自分でも胸の高鳴りを感じてしまったし。
そんな自分への問いかけをしているうちに、深く自分の世界に入り込んでしまっていることに気付いた。
あれ? 今撮影中じゃん。
しかし、気づいた時にはもう遅かった。
「おーい、柏木? ちゃんとカメラ見てー」
そうカメラマンさんに言われてハッとした。
ついにやってしまった。
ついに、恋に翻弄されて仕事に支障をきたしてしまったのだ。
相手がわからないとかどうとかは関係ない。
こうして仕事でミスをしてしまうなんてありえない。
自分は仕事一筋の人間だと思っていたのに。
簡単に『恋』なんて実態の見えないものに、惑わされてしまった。
応援してくれるファンに申し訳ない。
「す、すいません!」
「しっかり頼むよー、じゃあ続けまーす」
当たり前のように撮影は続行され、皆も特別気にしていないようだった。
誰もそんなに気にしていない、自分だけが気にしている、そうはわかっていてもショックであった。
「どうしたゆきりん? ボーっとして」
「さ、さえちゃん」
撮影の合間の休憩中にさえちゃんが声をかけてきた。
「仕事中に上の空なんて、らしくないぞ」
「いやー、ちょっと色々あって」
さえちゃんの顔を見た途端に何故か私の体が緊張する。
彼女と目を合わせられない。
「色々?」
「うん。色々」
あなたは恋をしている、と言われたのが気になって集中できない、なんて皆には……さえちゃんには言えない。
「なんだよ、色々って。相談乗るよ?」
「そ、相談!?」
相談と言われただけで、さえちゃんがこの問題に絡んでくるだけで、急に焦るような気持ちになった。
「いやいや、いいよそんな大したことじゃない」
「仕事に影響出てんのに? それとも仕事は大したことじゃないってか?」
痛いところをつかれた。
仕事に影響している時点で、大したことなのは明らかだ。
「そういうわけじゃないけど……」
「ほらー、相談してよ。それとも、よっぽど人に言えないことなの? 私にも?」
確かに、さえちゃんになら別に相談しても問題はなかった。
さえちゃんは信用できるし、真面目に聞いてくれるだろう。
ただ、何故だろうか。
何か、さえちゃんを相談相手にするのは抵抗がある。
心のどこかで私はさえちゃんを信用できてない? いやいや、そんなわけない。
「うえーん、ゆきりんが信用してくれないよー」
なんて迷っている間にさえちゃんがふざけて泣きまねをしだした。
「わ、わかったって。別に相談してもいいけどさ……」
結局私は、この引っかかる何かの正体がわからぬまま、相談することを承諾した。
「よしきた! じゃあさ、終わった後楽屋に少し残ろうか」
ケロっと泣きまねを終えたさえちゃんは、また調子よく笑顔になった。
「うん。わかった」
そう約束を交わしてまた撮影現場へと向かう。
「さえちゃんに相談か……」
相談といっても何を話せばいいのだろう。
ストレートに恋してるんですけど、相手がわかりませんって言えばいいのか。
いや、それこそ向こうからしてみれば、知らんがな、って話だろう。
「うーむ、どうすれば」
さっきから相談相手がさえちゃんであることを強く意識している。
横目で彼女を確認してみる。
当たり前だが、彼女は仕事に真剣に取り組んでいる。
何で私だけがこんなにも集中できないのだろう。
考えれば考えるほどわからない。
パシャ、というシャッター音でまた目が覚める。
いけないいけない。今は仕事中だった。
このことを考えるのは仕事を終えてからだ。
と、自分に言い聞かせるが、結局最後まで仕事に集中することはできなかった。
集中しなければ、と思えば思うほどに、麻友の言葉は頭を埋め尽くした。
気が付けば、恋してるの? 相手は誰? と自分に問いかけていた。
最近会った男性を思い浮かべてみる。
番組で共演した、俳優、お笑い芸人、歌手。
沢山思いつくが、特別な感情を抱くような人はいない。
最近のことだけでなく、過去も探っていく。
一か月前、半年前、一年前、もっと前。
仕事での共演だけでなく、プライベート、友達、ファン、家族。
あらゆる可能性を探った。
しかしいない。確実に、恋に落ちるような男性はいない。
「全くもう、麻友の奴ー」
考えすぎて、ついに麻友に対して理不尽な怒りが湧きはじめていた。
「麻友があんなこと言わなければ、こんなに悩む必要は無かったのに」
というか麻友の言うことを鵜呑みにしすぎ? いやいや実際自分でも胸の高鳴りを感じてしまったし。
そんな自分への問いかけをしているうちに、深く自分の世界に入り込んでしまっていることに気付いた。
あれ? 今撮影中じゃん。
しかし、気づいた時にはもう遅かった。
「おーい、柏木? ちゃんとカメラ見てー」
そうカメラマンさんに言われてハッとした。
ついにやってしまった。
ついに、恋に翻弄されて仕事に支障をきたしてしまったのだ。
相手がわからないとかどうとかは関係ない。
こうして仕事でミスをしてしまうなんてありえない。
自分は仕事一筋の人間だと思っていたのに。
簡単に『恋』なんて実態の見えないものに、惑わされてしまった。
応援してくれるファンに申し訳ない。
「す、すいません!」
「しっかり頼むよー、じゃあ続けまーす」
当たり前のように撮影は続行され、皆も特別気にしていないようだった。
誰もそんなに気にしていない、自分だけが気にしている、そうはわかっていてもショックであった。
「どうしたゆきりん? ボーっとして」
「さ、さえちゃん」
撮影の合間の休憩中にさえちゃんが声をかけてきた。
「仕事中に上の空なんて、らしくないぞ」
「いやー、ちょっと色々あって」
さえちゃんの顔を見た途端に何故か私の体が緊張する。
彼女と目を合わせられない。
「色々?」
「うん。色々」
あなたは恋をしている、と言われたのが気になって集中できない、なんて皆には……さえちゃんには言えない。
「なんだよ、色々って。相談乗るよ?」
「そ、相談!?」
相談と言われただけで、さえちゃんがこの問題に絡んでくるだけで、急に焦るような気持ちになった。
「いやいや、いいよそんな大したことじゃない」
「仕事に影響出てんのに? それとも仕事は大したことじゃないってか?」
痛いところをつかれた。
仕事に影響している時点で、大したことなのは明らかだ。
「そういうわけじゃないけど……」
「ほらー、相談してよ。それとも、よっぽど人に言えないことなの? 私にも?」
確かに、さえちゃんになら別に相談しても問題はなかった。
さえちゃんは信用できるし、真面目に聞いてくれるだろう。
ただ、何故だろうか。
何か、さえちゃんを相談相手にするのは抵抗がある。
心のどこかで私はさえちゃんを信用できてない? いやいや、そんなわけない。
「うえーん、ゆきりんが信用してくれないよー」
なんて迷っている間にさえちゃんがふざけて泣きまねをしだした。
「わ、わかったって。別に相談してもいいけどさ……」
結局私は、この引っかかる何かの正体がわからぬまま、相談することを承諾した。
「よしきた! じゃあさ、終わった後楽屋に少し残ろうか」
ケロっと泣きまねを終えたさえちゃんは、また調子よく笑顔になった。
「うん。わかった」
そう約束を交わしてまた撮影現場へと向かう。
「さえちゃんに相談か……」
相談といっても何を話せばいいのだろう。
ストレートに恋してるんですけど、相手がわかりませんって言えばいいのか。
いや、それこそ向こうからしてみれば、知らんがな、って話だろう。
「うーむ、どうすれば」
さっきから相談相手がさえちゃんであることを強く意識している。
横目で彼女を確認してみる。
当たり前だが、彼女は仕事に真剣に取り組んでいる。
何で私だけがこんなにも集中できないのだろう。
考えれば考えるほどわからない。
パシャ、というシャッター音でまた目が覚める。
いけないいけない。今は仕事中だった。
このことを考えるのは仕事を終えてからだ。
と、自分に言い聞かせるが、結局最後まで仕事に集中することはできなかった。
更新日:2011-10-31 00:39:21