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翌日
「おっはよー!」
さえちゃんの元気な声が楽屋に響いた。
皆もいつものように挨拶を返す。
しかし私は下を向いたままだった。
顔をあげることなんてできない。
さえちゃんは決められたローテーションのように何人かのメンバーと雑談を交わしていく。
何を話しているのかは聞こえないが、楽しそうだった。
そのローテーションの中に私も入っているのだが、今日ばかりは回ってきてほしくなかった。
それは彼女も思っているだろうが、体の癖なのだろう、自然と私と目が合ってしまった。
「……お、おはよ。ゆきりん」
「おはよ、さ、さえちゃん」
お互い一瞬躊躇があった。
それでも挨拶は交わした。
……気まずい。気まずすぎる。
この気まずさを感じるまでは、私はまだ昨日の出来事が現実であることをどこか認められなかったが、今ので確信した。
昨日の出来事は現実。
私はさえちゃんにキスしてしまったのだ。
全部私が悪いことは分かっている。
こんな状況になったのは全て私のせいだ。
本当に自分のことがよくわからない。
好きな人が分からないと思っていたら、今度はわかったとたんにキスしてしまうなんて。
普通いきなりキスなんてするか? いやいやしないだろ。
私は頭がおかしい。
そう自虐して言い聞かせないと、昨日の出来事は理解できない。
「もう最悪……」
このままどこかへ消えてしまいたかった。
「はあー……」
自分でも驚くほど、体内のモヤモヤを全て吐きださんばかりの深いため息だった。
「おやおや、またため息?」
「ああ、おはよ、麻友」
麻友が笑いながら私の顔を覗き込んできた。
「せっかく私がゆきりんの悩みをズバリ言い当てたのに」
そういえば、事の始まりは麻友の言葉だった。
麻友は何も悪くない、彼女は関係ない、そのことは重々承知していたがそれでも「麻友があんなこと言わなければ」と心のどこかで考えている自分が許せなかった。
「悩み解決しなかったの?」
「いやあ、それが色々あってね……」
確かに原因不明のため息については解決したが、また新たな悩みを作ってしまった。
「色々って?」
「それは特に言わない」
「そうですか……」
麻友はそのまま私の隣で携帯をいじり始めた。
彼女にしては随分と引き下がるのが早かったなと思ったが、それで都合がいい私は何も言わなかった。
はあ……ホントにどうしよう。
「あ、また、ため息ついた」
携帯の画面から顔をあげずに麻友が言った。
「えっまた出てた?」
「出てたよ。治ってないじゃん」
「あはは、そうだね……」
結局、昨日麻友に指摘されたときと症状が変わっていなかった。
むしろ原因の大きさを考えたらもっと深刻になっていた。
「でも、昨日のため息とは違うため息だよね」
「ええ?」
またも考えていたことを麻友に読まれて、動揺がもろに出てしまった。
「ふふ、今度は何のため息なのか……」
麻友は顔の前でピンと人差し指を立てる。
その得意気な表情は、昨日と同じだ。
「ズバリ、失恋です」
「ぐはぁ!」
あっさり麻友に心の内を当てられた。
しかもそのことをはっきりと言う。
今一番痛いところを的確にえぐってきた。
「ち、違うって」
私は心の動揺を思いっきり外に出しながら、全く逆のことを言う。
かつてこんなにも中身の伴わない発言があっただろうかと思う。
「強がらなくてもいいから」
麻友はすっかり私が失恋したことにしている。
まあ、実際それに近い状態なんだが。
「だから違うって。別に失恋なんてしてない」
そう、近い状態なだけであって完全にフラれたわけではない。
そこを強調する。
「失恋はしてない」
「悲しいときはさ、泣いていいんだよ」
麻友はペースを乱さない。
私の否定など意に反さず、言ってくる。
「違うって……悲しくなんかないって……」
どうしてこうも私は弱いのだろう。
麻友と比べれば2つも年上なのに。
「また……私の胸で泣いていいから」
その言葉が不安定な私の心を癒す。
今まで一緒にやってきた、最高の仲間の言葉だ。
「麻友……ありがと……」
体を麻友に寄り添わせる。
頭を撫でられると、涙が出た。
「ゆきりんなら失恋したって大丈夫だよ。チャンスはいくらでもあるって」
「だから……」
私の言葉の途中で麻友が割り込んできた。
「失恋はしてない……でしょ?」
私は、ホントに情けないなと思いながら、ふふっと笑って頷いた。
「……そういうこと」
さえちゃんの元気な声が楽屋に響いた。
皆もいつものように挨拶を返す。
しかし私は下を向いたままだった。
顔をあげることなんてできない。
さえちゃんは決められたローテーションのように何人かのメンバーと雑談を交わしていく。
何を話しているのかは聞こえないが、楽しそうだった。
そのローテーションの中に私も入っているのだが、今日ばかりは回ってきてほしくなかった。
それは彼女も思っているだろうが、体の癖なのだろう、自然と私と目が合ってしまった。
「……お、おはよ。ゆきりん」
「おはよ、さ、さえちゃん」
お互い一瞬躊躇があった。
それでも挨拶は交わした。
……気まずい。気まずすぎる。
この気まずさを感じるまでは、私はまだ昨日の出来事が現実であることをどこか認められなかったが、今ので確信した。
昨日の出来事は現実。
私はさえちゃんにキスしてしまったのだ。
全部私が悪いことは分かっている。
こんな状況になったのは全て私のせいだ。
本当に自分のことがよくわからない。
好きな人が分からないと思っていたら、今度はわかったとたんにキスしてしまうなんて。
普通いきなりキスなんてするか? いやいやしないだろ。
私は頭がおかしい。
そう自虐して言い聞かせないと、昨日の出来事は理解できない。
「もう最悪……」
このままどこかへ消えてしまいたかった。
「はあー……」
自分でも驚くほど、体内のモヤモヤを全て吐きださんばかりの深いため息だった。
「おやおや、またため息?」
「ああ、おはよ、麻友」
麻友が笑いながら私の顔を覗き込んできた。
「せっかく私がゆきりんの悩みをズバリ言い当てたのに」
そういえば、事の始まりは麻友の言葉だった。
麻友は何も悪くない、彼女は関係ない、そのことは重々承知していたがそれでも「麻友があんなこと言わなければ」と心のどこかで考えている自分が許せなかった。
「悩み解決しなかったの?」
「いやあ、それが色々あってね……」
確かに原因不明のため息については解決したが、また新たな悩みを作ってしまった。
「色々って?」
「それは特に言わない」
「そうですか……」
麻友はそのまま私の隣で携帯をいじり始めた。
彼女にしては随分と引き下がるのが早かったなと思ったが、それで都合がいい私は何も言わなかった。
はあ……ホントにどうしよう。
「あ、また、ため息ついた」
携帯の画面から顔をあげずに麻友が言った。
「えっまた出てた?」
「出てたよ。治ってないじゃん」
「あはは、そうだね……」
結局、昨日麻友に指摘されたときと症状が変わっていなかった。
むしろ原因の大きさを考えたらもっと深刻になっていた。
「でも、昨日のため息とは違うため息だよね」
「ええ?」
またも考えていたことを麻友に読まれて、動揺がもろに出てしまった。
「ふふ、今度は何のため息なのか……」
麻友は顔の前でピンと人差し指を立てる。
その得意気な表情は、昨日と同じだ。
「ズバリ、失恋です」
「ぐはぁ!」
あっさり麻友に心の内を当てられた。
しかもそのことをはっきりと言う。
今一番痛いところを的確にえぐってきた。
「ち、違うって」
私は心の動揺を思いっきり外に出しながら、全く逆のことを言う。
かつてこんなにも中身の伴わない発言があっただろうかと思う。
「強がらなくてもいいから」
麻友はすっかり私が失恋したことにしている。
まあ、実際それに近い状態なんだが。
「だから違うって。別に失恋なんてしてない」
そう、近い状態なだけであって完全にフラれたわけではない。
そこを強調する。
「失恋はしてない」
「悲しいときはさ、泣いていいんだよ」
麻友はペースを乱さない。
私の否定など意に反さず、言ってくる。
「違うって……悲しくなんかないって……」
どうしてこうも私は弱いのだろう。
麻友と比べれば2つも年上なのに。
「また……私の胸で泣いていいから」
その言葉が不安定な私の心を癒す。
今まで一緒にやってきた、最高の仲間の言葉だ。
「麻友……ありがと……」
体を麻友に寄り添わせる。
頭を撫でられると、涙が出た。
「ゆきりんなら失恋したって大丈夫だよ。チャンスはいくらでもあるって」
「だから……」
私の言葉の途中で麻友が割り込んできた。
「失恋はしてない……でしょ?」
私は、ホントに情けないなと思いながら、ふふっと笑って頷いた。
「……そういうこと」
更新日:2011-07-08 23:38:34