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さえちゃんとの出会い
太陽がサンサンと輝く雲ひとつない青い空。
こんなクサイことを思うのが恥ずかしくない程に天気がいい。
こうも天気がいいと、わざわざメガネをかけてマスクをしている自分が馬鹿らしい。
季節はすっかり春で暖かい。
少々厚着してしまった自分の服を後悔した。
そんなことを考えながら、駅前の時計の下で彼女を待つ。
そろそろ集合時間だが、彼女の姿はまだ見えない。
携帯をいじったり、ほんの少し時計の周りをフラフラ回ってみたりして時間を潰す。
私は『集合場所で待つ』ということが苦手なのかもしれない。
何だか人前に晒されているようで、キョロキョロしてしまう。
アイドルとして舞台に立つのとは全く違う感覚だ。
1分くらい。ほんのちょっと集合時間が過ぎたくらい。
何の連絡も無いと、待っている側が不安になるくらいの時間に彼女は現れた。
本当に待たせ方が上手い。
頭の中がちょうど彼女でいっぱいになったときに姿を見せるのだから。
「おーす、ゆきりん」
「あ、おはよーさえちゃん」
この『ゆきりん』とは柏木由紀という名前の私のあだ名だ。
そして『さえちゃん』というのは私の宮澤佐江の呼び方だ。
「待った?」
集合時間を考えれば待ったことは明らかだろう。
「待ったに決まってるじゃん」
意味がないことは分かっていても少し顔をふくらませてみる。
「ごめん、ごめん。怒らないでよ」
彼女はそう言ってニコッと笑ってみせる。
私は彼女の笑顔に弱い。
彼女の笑顔の前では怒ることができなくなる。
「んじゃ、そろそろいこうか」
そう言って歩き出す彼女に、私は後ろから付いていく。
いつもそうだ。
デートの主導権は大抵彼女が握る。
私は付いていくだけ。
実際彼女はいい店を紹介してくれるし私はそれで満足だ。
逆に彼女を引っ張っていく技量は私に無いだろう。
それからしばらく繁華街を歩いた。しかし一向に目的地には着かない。
この目的地とはもちろん彼女が決めた場所だ。
先ほどまでは『付いて来い』と言わんばかりだった隣の彼女の表情も硬くなった。
黙って付いていたがついに同じ場所を何度も通り始めた。
これはだめだ、と判断し彼女に質問しようとした直前に向こうから口を開いた。
「ごめん、道わかんなくなっちゃった」
やはりそうだった。
わかっていたけど一応怒った素振りは見せておこう。
「はあ?」
「いやいやでもほら、地図はちゃんと調べてきた」
そうやって弁明しようとする姿に私はまた怒れない。
「ちょっと貸してみ」
「ここに行きたいんだ。わかる?」
「ふんふん。大丈夫。わかった」
「流石ゆきりん」
「なんでこう自分で見てわからない地図を持ってくるかな」
さっきまでリードされていたが、こうなると途端に頼りない。
「で、どっち行けばいい?」
「あっちだね」
そう言って私が指さした方向は待ち合わせ場所を挟んで逆側だった。
お昼頃になると平日とはいえ人が多くなってきた。
人込みは好きじゃない。
色々な理由が考えられるが、結局は人を避けて進んで行くのが疲れるからだろう。
休みの日くらい自分のペースで歩きたいものだ。
しかし隣の彼女は随分慣れているようだ。
いちいち引っかかる私を横目に人込みをスイスイ抜けていく。
当然私との距離は徐々に開いていく。
「あ、ちょっとさえちゃん待って」
そう言い終わるか終わらないうちに彼女は振り向いて私の手を取った。
そしてグイっと引っ張った。
「はぐれないようにしなきゃね」
そうして私に見せる背中はどこか男らしさすら感じさせる。
目的地までの道もわからなかったのに、今度はまた頼りたくなる。
私にそう思わせる彼女の手は、とても温もりを感じる。
この感覚は何度も感じたことがある。
初めて感じたときは……彼女と初めて話したときかもしれない。
あのときも私の手を引っ張ってくれた。
こんなクサイことを思うのが恥ずかしくない程に天気がいい。
こうも天気がいいと、わざわざメガネをかけてマスクをしている自分が馬鹿らしい。
季節はすっかり春で暖かい。
少々厚着してしまった自分の服を後悔した。
そんなことを考えながら、駅前の時計の下で彼女を待つ。
そろそろ集合時間だが、彼女の姿はまだ見えない。
携帯をいじったり、ほんの少し時計の周りをフラフラ回ってみたりして時間を潰す。
私は『集合場所で待つ』ということが苦手なのかもしれない。
何だか人前に晒されているようで、キョロキョロしてしまう。
アイドルとして舞台に立つのとは全く違う感覚だ。
1分くらい。ほんのちょっと集合時間が過ぎたくらい。
何の連絡も無いと、待っている側が不安になるくらいの時間に彼女は現れた。
本当に待たせ方が上手い。
頭の中がちょうど彼女でいっぱいになったときに姿を見せるのだから。
「おーす、ゆきりん」
「あ、おはよーさえちゃん」
この『ゆきりん』とは柏木由紀という名前の私のあだ名だ。
そして『さえちゃん』というのは私の宮澤佐江の呼び方だ。
「待った?」
集合時間を考えれば待ったことは明らかだろう。
「待ったに決まってるじゃん」
意味がないことは分かっていても少し顔をふくらませてみる。
「ごめん、ごめん。怒らないでよ」
彼女はそう言ってニコッと笑ってみせる。
私は彼女の笑顔に弱い。
彼女の笑顔の前では怒ることができなくなる。
「んじゃ、そろそろいこうか」
そう言って歩き出す彼女に、私は後ろから付いていく。
いつもそうだ。
デートの主導権は大抵彼女が握る。
私は付いていくだけ。
実際彼女はいい店を紹介してくれるし私はそれで満足だ。
逆に彼女を引っ張っていく技量は私に無いだろう。
それからしばらく繁華街を歩いた。しかし一向に目的地には着かない。
この目的地とはもちろん彼女が決めた場所だ。
先ほどまでは『付いて来い』と言わんばかりだった隣の彼女の表情も硬くなった。
黙って付いていたがついに同じ場所を何度も通り始めた。
これはだめだ、と判断し彼女に質問しようとした直前に向こうから口を開いた。
「ごめん、道わかんなくなっちゃった」
やはりそうだった。
わかっていたけど一応怒った素振りは見せておこう。
「はあ?」
「いやいやでもほら、地図はちゃんと調べてきた」
そうやって弁明しようとする姿に私はまた怒れない。
「ちょっと貸してみ」
「ここに行きたいんだ。わかる?」
「ふんふん。大丈夫。わかった」
「流石ゆきりん」
「なんでこう自分で見てわからない地図を持ってくるかな」
さっきまでリードされていたが、こうなると途端に頼りない。
「で、どっち行けばいい?」
「あっちだね」
そう言って私が指さした方向は待ち合わせ場所を挟んで逆側だった。
お昼頃になると平日とはいえ人が多くなってきた。
人込みは好きじゃない。
色々な理由が考えられるが、結局は人を避けて進んで行くのが疲れるからだろう。
休みの日くらい自分のペースで歩きたいものだ。
しかし隣の彼女は随分慣れているようだ。
いちいち引っかかる私を横目に人込みをスイスイ抜けていく。
当然私との距離は徐々に開いていく。
「あ、ちょっとさえちゃん待って」
そう言い終わるか終わらないうちに彼女は振り向いて私の手を取った。
そしてグイっと引っ張った。
「はぐれないようにしなきゃね」
そうして私に見せる背中はどこか男らしさすら感じさせる。
目的地までの道もわからなかったのに、今度はまた頼りたくなる。
私にそう思わせる彼女の手は、とても温もりを感じる。
この感覚は何度も感じたことがある。
初めて感じたときは……彼女と初めて話したときかもしれない。
あのときも私の手を引っ張ってくれた。
更新日:2011-04-14 14:53:15