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午後2時半過ぎ。
市役所には常時給水車が来ているというので、リュックに空の4Lペットボトル1本入れて出かけることにした。
昨日から左足首が痛い。市役所までの40分歩けるだろうかと不安になったが、とにかく途中で挫折するにしても行くだけ行ってみようと思った。

こうやってビッコを引きながら歩いていると、自分が手負いのヒーローになったようでちょっと気分が良い。周囲から見たら、くたびれたオバサンがヨロヨロ歩いているようにしか見えないだろうけど。

国道を渡り、産業道路に出て右に進むと、左側に静まりかえった青い海が見えてきた。私が歩いている側には民家やコンビニ、ビルが立ち並んでいるが、一様にドロを被り、部分的に倒壊している。

怒りが湧いてきた。
写真に残してやる。この風景を。
時間が流れるたびに、何ごとも無かったかのように綺麗になってしまうなんて許せない。
携帯で街の惨状を撮ったつもりが、カメラマンの腕が悪いせいでボンヤリした写真にしかならなかった。

やっと市役所で水を手に入れ、帰途につこうと歩を進めた。もう太陽は西に傾きかけていた。
一軒の家の駐車場で、子供たちがシャボン玉を飛ばしている。淡い虹色に光りながら、一個のシャボン玉が空に昇っていくのを目で追ったとき、哀しみが湧き上がってきた。
あの空に、沢山の命が……


深夜、布団に入ってからお腹が痛くなり、何度かトイレに行った。
お腹を壊すと、水もペーパーも大量に使ってしまう。ストックは、あとどのくらい持つんだろう。
布団に戻ると、不安で眠れなくなる。頭の中に、ラジオで聞いた様々な声がリフレインする。

―街は壊滅状態です。なにも、残っていません―
―浜辺で200人ほどの遺体が発見されました―
―電車が脱線し、山側に流されました。乗客の安否は確認できていません―
―建物の屋上で救助を待つ人達がいます―
―避難所で70歳の女性が死亡しました―


私はいつも家族の前では冗談を言って明るく振る舞っていた。そうしないと、前に進めなかった。
前向きに、常に前向きに。

私の中で、何かが切れた。

「うわああッ! もう嫌だこんな生活! 長蛇の列なんか並びたくないんだよ! 水がどんどん減っちゃうんだよ! 死ねっていうのか!? いつまで続くんだ、こんなのがーっ!」

泣いた。泣き喚いた。
自分は気が狂ったのだと思った。


……一週間でこれかよ。
どんだけサバイバル根性無いんだ自分。


更新日:2011-04-05 22:22:18

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汗かきベソかき震災日記 ―東日本大震災―