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私もガッカリしながら、いま来た道を戻る。
一軒だけ、水をもらえるアテがあった。
交差点の角のお菓子屋さん。

数日前に、S小学校で水をもらい損ねた母が、空のペットボトル入り袋をブンブン振り回しながら歩いていたら、お菓子屋さんの二階の窓から
「奥さん!水、ありますよ!」
と、お店の女主人が声をかけてくれたそうだ。
このお宅には、自家水道という物があるらしい。
「いつでも、どうぞ」と、快くペットボトルに水を入れてくれたそうだ。

お店のシャッターは閉まっているが、その右脇の引戸に「入口」と書いた紙が貼られている。
おだやかな笑顔を浮かべた女主人が戸を開けてくれた。

「あ、あの…、この間は母がお世話になりました…今日もお水、いただいていいですか?」
「はい、中へどうぞ」

中に入ると暖かく、ほのかに甘い香りがした。ここは、自家製のお菓子を作る厨房になっているようだ。営業はストップしているはずだと思うけど、これは長年の間に染み付いた香りなのだろうか。
奥に大きな石油ストーブがあり、旦那さんも、そこに居た。

なんとなく、気がひける。
水を入れてもらっている間。けっこう時間がある。

「はい、待ってる間。よかったら飲んで」
旦那さんが、コーヒーを淹れてくれた。

至れりつくせり……ますます申し訳ない。
やっぱり、毎日という訳にはいかないな。

この日、ひとつ嬉しいことがあった。
夜中に、やっと電気が通ったのだ。
すごく嬉しかった。これでネットが使える。コタツもエアコンも電気ストープも、電子レンジも使える……。

更新日:2011-04-05 21:58:17

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汗かきベソかき震災日記 ―東日本大震災―