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 「 どうする? リオカード 」
 リオカードは黙っている 咄嗟に返す言葉が見つけられない
 「 返事は? 坊っちゃん 」
リオカードはシュレの肩に頭を持たせかけたまま、たなびく紫煙を眼で追っている
端正な横顔に暖炉の小さな炎の照り返しを受け、曖昧さに不可解さが揺らめく
 「 ‥‥あな た の‥‥ 」
かすかな声で言った
 「 思う 通りに して‥‥シニー 」
虚を突かれて、シュレはふと黙る
 それはこの前リオカードが、眠りに落ちる寸前に言った言葉と同じだ
何か透明になって行くものを見ているような錯覚に捕らわれ、永久に蕾を解かぬ花 だと、感じたのだ
 「 ‥‥リオカード 」
その時に訊けなかった、このセリフの理由を問いただす
 「 俺はおまえの意志を、訊いているんだ 」

 リオカードがNYに発った後、シュレはトラブルシュート機構Istanbul支部指令“ボス エクトル・Z”から召喚された
 機構はこれ以上“LORELEY”リオカード・結を、今までのように不自然な(相棒もリーダーも居ない)任務形態のまま置いてはおけないと判断した、と言う
遠まわしな言い方にシュレ・カナルソンは不可解そうに眉根を寄せる
 「 どう言う意味だ? 」
ボスZは軽く肩を竦める
 「 どうもこうも そのまんま、だ 」
 良く訊くと、ラトキュ・ダーヴィンの従兄弟と名乗る人物から、彼の不在に対して、補償請求があったらしい
ラトキュから機構には“東”へ“出張”後、1年ほどは連絡があったと言う
しかし、ある日を境に消息がつかめなくなった 機構としては当然彼の行方を追った 一定のスパンを置いて第5次まで捜索したが、彼の行方はようとして知れない
 ラトキュの両親はすでに無く、身寄りはこの従兄弟のみ
その人物から、彼が行方不明扱いでもいいから、補償金が欲しいと言う要求があった
 確かに、トラブルシューター‥‥特務捜査官は、任務中の失踪時に家族に対する見舞金、一定の期間行方不明だった場合、その死亡が確認できなかったとしても死亡保障、危険手当、などが“遺族”に支払ってもらえる権利を持っている
機構は彼の“死”を認め、この従兄弟と言う人物に金を支払わざるを得なかった
 そして‥‥
 「(金をかけて育てた)才能ある若者の将来をつぶす訳にはいかない」と言う理由で、リオカードに正式な“リーダー”を付け、きちんとした“教育”を受けさせ一人前のシューターに育てる義務が生じた
 「 はぁ?? 」
 シュレは皮肉な頬笑みを片頬に浮かべる
 「 今までさんざん放ったらかしておいて 今さらあいつに何をさせる気だ? 」
ボスはにこりともせず シュレの酷薄そうな金茶の瞳を見詰める
 「 ‥‥じゃあおまえは、誰か他のヤツにあいつのリーダーを任せたい って言うのか? シュレ 」
シュレの表情がふ、と険しさを増す
 「 おまえがその気なら、リオカードのリーダーを続けさせてやってもいい 」
は? と、シュレの態度がさらに険悪になる
ボスはその一瞬を逃さずに続けた
 「 あいつを手放す気は無いだろう? 」
 リサーチ済みだ、と ボスは軽く言った
 「 Dr.徐・レイクもガイル・マキも おまえがリオカードのリーダーに適任だろうと報告してくれたよ 」
 「 ああ゛? 」
不機嫌そうな唸りに、ボスは失笑する
 「 おまえの相棒buddyも、だ 」
 「 ‥‥‥‥ 」
シュレに返す言葉は無い
 「 リオカードがおまえの好みのタイプだと、教えてくれたよ 」
にんまりとボスは言った
 シュレは思わず眼を閉じる
シュレの相棒、赤毛Red 30年来の幼なじみで、狙撃手であるシュレの観測手でもある
シュレにとっては、誰よりも彼をよく識(し)る最強の理解者である
 あんにゃろう(-"-)
“マジになれそうな相手か?”とかなんとか、思わせぶりな赤毛のセリフを思い出す
実は最初からガイル・マキと(ドクターとも?)グルだったのか
道理で何度も挑発するようなことを言っていた訳だ
シュレは相棒の魂胆schemeの先を思い、ため息をつきそうになる
 「 今さらだが、リーダーとパートナー間での恋愛沙汰は、無しにしろ 」
 ボスのこのセリフにシュレは、何の感慨も無さそうに見る
それをボスは無言の肯定と受け取った
 「 やるのか? やらないのか? 」
ボスは嵩にかかって訊く
 シュレはゆっくりと踵を返す 指令室のドアの前で振り返って言った
 「 すべては ‥‥あいつ次第だ 」

 こいつの意志が、全てを握っている
そうシュレは思う
そして自分の腕の中で、微かに苦しげな雰囲気をまとい静かな表情で紫煙を眼で追う様子を、間近で見詰める
 唐突にリオカードの言った言葉を思い出した
 ――― 何時までここに居なくちゃ いけないのか‥‥ 息が詰まりそう‥‥

更新日:2011-05-01 23:40:16

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