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変態のこと

家から自転車で十分の場所に私の通う高校はあった。
この日はGWだったが、終わらせてしまいたかった研究のために
学校へと向かった。
自転車置き場で自分の定位置に自転車をおいて鞄を
カゴから取り出した瞬間、背中がぞくっとした。

「ぬあっ。」

その寒気が一瞬にして脳まで届いたので、軽く前のめりになり
自分自身でも驚いて声を出してしまった。
首をさすりながら辺りを見回したが、
吹奏楽部の異様な音が響いているだけで誰もいない。


昔から、数多の目線に晒されてきた私は
人の視線に敏感に反応するようになっていた。
高校生になったころには目をつぶっていても、
どの方向に何人の人がこちらを見ているかは分かるくらいできた。
大抵は、興味本位の目線や、オタクに向けられる
厳しい目線だったので、分かっていてもスルーしていた。


しかし、今回感じた視線はそのような類いの視線とは
何か違っているように思えた。
具体的にいえば、『ねっとり』とした視線だった。
キモイと思いながらもあまり気にする事なく研究室へ向かった。
不必要なことは三歩歩けば忘れる性格がなせる技だ。


休日だったので学校は静かで、思っていたよりも集中できた。
そのため、目標としていた部分まで短時間で到達できた。
使用した器具や薬品等を片付けて時計を見ると三時を指していた。
「帰りに本屋さんでも覗いていこうかな」と帰り支度を始めた時、
また背中がぞくっとした。

「はぁ?」

首をさすりながら辺りを見回すが誰もいない。
今回は背中の手の届かない位置がピリピリとする感覚に襲われた。

「なんなんだ。気持ち悪い」と思いながらも、
「こんな時間に、こんな場所に生徒なんかいないし」と
自分を説得させて、そのことを気にすることはなかった。


その出来事から一週間たったとき、事態が急展開する。

更新日:2011-03-29 21:30:53

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