目が覚めると見知らぬ部屋にいた。
むくりと起きて周りを見渡すとだんだんと記憶が蘇ってきた。

「あぁ、岸さんの家だっけ。」

かなりの時間寝ていたようで身体が凝り固まっていた。
う〜んと背伸びをしてベットから起きて
近くにあった鏡を覗いた。

「うわ。髪の毛ぐしゃぐしゃ。」

誰もいない部屋で独り言のように呟く。

首をクキクキさせながら部屋を軽く物色したり
窓から景色を見てみるが、何も分からない。

このまま部屋にいてもつまらないと判断した私は
恐る恐る部屋のドアを開けてその先を覗き見た。


最初に目に飛び込んだのはきれいに手入れされた中庭だった。
その中庭をぐるりと一周するようにガラス窓が囲い、
どこからでも中庭に降りれるようになっていた。

白い大理石の床を裸足でペタペタさせながら
歩いていると中庭に岸さんが立っていた。

遠くからではよくわからなかったので近くに行くと
岸さんは空手か何かの形を黙々と決めては

「はっ。」「せいっ。」

とお腹から声を出していた。

上半身は開けていて、よく鍛えられた筋肉質な身体に
私は絵も言われぬ色気を感じ取った。
くるりと態勢を変えてこちらを向いた時に岸さんは私に気がついた。

「ふー。」

一連の動きが終わり呼吸を整えていると、見知らぬ小柄な男性が
一礼してタオルを岸さんに渡した。

「お疲れ様でした。」

この会話から、その男性が岸さんの部下であることは容易に想像できた。
その様子を開けたガラス窓から見ていると
タオルを受け取った男性が私に気がついてこちらを見た。

「なっ！」

突然、奇声を発し、赤面した。

「あぁ。大介にはあれは強烈過ぎたか。」

と岸さんがクスクスと笑い始めた。
何のことか分からない私に岸さんは

「俺のじゃ大きかったね。」

と右肩が丸見えだったTシャツを整えてくれた。

「あぁ。これか。」やっと事の真相がわかり納得した。

私はいつの間にか着替えさせられていた。
岸さんの大きなTシャツだったようだが、
パンツが見えるか見えないかという丈だった。

「もう大丈夫そうだね。」

岸さんは私の顔色から状態を推察し、
確認のために私のおでこに手を当てた。

「はい。お陰様でもう大丈夫です。
　色々とご迷惑おかげしました。」

私は頭をぺこりとさせた。

「お腹空いたよね。
　何か用意させるから、その間にお風呂にでもはいりなよ。」

そう言って大介を近くに呼んで耳元で何か囁き、
私を風呂場へ案内させた。