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貢サイド-6-

 光に彼女が居るという事実を知った日から一週間が過ぎた、放課後。
 光は生徒会の仕事で遅くなると言うので、仕方なく一人で帰る事にした。
 本当は待っていても良かったんだが、待たせるのは申し訳ないから先に帰っていてくれと光に言われては帰らない訳にはいかない。
 一人寂しく、とぼとぼと門に向かい歩く。
「志野原先輩」
 門を潜った所で女に呼び止められた。
 見れば、その女は他校の制服を着ていた。誰だ?
「この間はどうも」
 この間?
「あの・・・・・・私、光君の彼女の西村加奈子です」
 ああ、光の・・・・・・。
「何か用?」
 俺はそっけなく尋ねた。
「もう、帰るんですよね? ご一緒してもいいですか?」
 光ならまだ校内にいる。
 碧校の生徒に訊けば直ぐにそれが分かるはずなのに、光を待たずに俺と一緒に帰るのか?
 嫌な予感がした。
 女を無視するかのように歩き出すと、女は後ろから付いて来た。
「一ヶ月ぐらい前から光君全然会ってくれないんです」
 見ず知らずの人間にいきなり恋愛相談ぶつけるなよ。
 いや、その前に無視された事に気が付けよ!
「先週の誕生日の日だって最後まで一緒に居てくれなくて・・・・・・」
 俺のところに来たからな。
「志野原さん、何か知りませんか?」
 知っているよ。
 知っているけど、教える義理なんかないね。
「あんたさ、何か間違えてない? 俺とあんたは、先週運命の悪戯で偶然出会ったたけの赤の他人で、こんな話持ち掛けられても困るんだけど」
 俺は無表情なまま冷たく言い放つ。
 女は一瞬たじろぐが、お構いなしに続けた。
「あ・・・・・・ごめんなさい。でも、私こんな事相談出来る人、他に居なくて・・・・・・」
 俺に出来るのなら、道端の犬にでも出来るだろうよ。
「勘違いするぜ。あんたが俺から同情引こうとしているんじゃないかって」
 女は媚びるように上目使いで俺を見つめた。
 まさかと思った。
 光が選んだ女がそんな女だとは思いたくなかった。
 だが女が全身から伝えている空気が、以前俺に近付いて来た女に似ていた。
 俺と付き合うために俺の友達と付き合い始め、友達ぐるみで仲良くなった所で俺にモーションをかけてきた女。
 平気な顔で俺の友達を切り捨てた自分勝手な女。
 俺は疑惑を確かめるために、心にもない事を言った。
「慰めてやろうか?」
 女の顎を軽く持ち上げると、女はうっとりとした顔をし、簡単に目を閉じた。



 俺の中に黒いものが広がっていく感じがした。

更新日:2011-04-01 18:47:18

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