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◇◇◇ ◇◇◇
クリス達を見送ってから俺は注文したハムとチーズのフィユテをサクサクとつまみながら飲み進めていた。
ルフィーナがここで何をしたいのかは気になるが、いちいち探すくらいなら久々に飲みたいというのが理由だ。探した後呼んで貰えばいいだけだしな。
大体ここ最近俺の扱いが酷すぎるんじゃないのか? あいつらが勝手に俺に着いて来ているだけなのに我侭放題に行動しやがって。飲んでないとやってられん。
「おかわりしますか?」
勢いよく空いたジョッキを見て、優男な茶髪のバーテンダーが聞いてくる。
「よろしく~」
俺は上機嫌でそれに答えた。
周囲の客層を見渡すと比較的年齢層も幅広く、まるで街の大人はこぞって飲みに来ているような雰囲気だ。物騒な連中が飲み荒れているというよりは純粋に街の住民で店が賑わっているように見える。
東は織物や工芸品などの特産品くらいしか目立った物は無いと思っていたが、なかなかどうしてこのリャーマは俺好みの街だ。
「ちなみにお兄さん、この女最近見てない? 多分大きな得物持ってると思うんだけど」
俺は小さいバッグに折りたたんで入れていた手配書を彼に見せた。
「いやー、こんなの見たらすぐ通報しますよー」
「だよねー」
ははは、と手応え無しの反応に軽く笑ってまた仕舞う。流石に大きな街でも無いと人に紛れ込むのは難しい。これくらいの規模の街には現れないか……
ふと、バーテンダーが物珍しそうに俺をじっと見ていたので、機嫌の良い俺はこちらから話を振ってやった。
「ん、賞金稼ぎは珍しいか?」
無論、俺は賞金稼ぎでは無いが、この方が都合がいいのでそういう事にしておく。
「あっ、スイマセン。珍しいですねー、この街あんまり行商以外は来ないんで」
「そっか、俺も初めて来るしなぁ」
こういうなよっとした優男は二番目の兄貴を思い出すのであまり好きでは無いのだが、客商売だけあって物腰は柔らかい。俺は悪い印象は抱かずにバーテンダーと他愛も無い会話を続けた。
しかしそこへ、
「隣いいですか」
聞き覚えのある低くかすれたハスキーボイス。答えも聞かずに俺の右に座ったのは浅緑の髪に真紅の切れ長の瞳を持つ青年。
「っ!?」
俺は思わず席を立って僅かに後ろに引いた。
「何もしませんよ、今は話すだけですから」
存在自体は信用ならないが、コイツはいちいち嘘を吐くような奴じゃない。何もするつもりが無いのなら何もしないのだろう。俺は冷静を装ってまた座り直す。
バーテンダーは空気を察して水だけセオリーに置いて、少し離れた。
今日はいつもの軽鎧は纏っておらず、簡易な旅人の服装。この場に馴染む為に服を変えてきたのか、それとも単に私服なだけなのかは定かではない。
「今すぐサラの末裔の子供と二人でこの街を出てください」
急に出たと思ったらこれまたいきなりの命令。
「説明は無いのかよ」
俺は折角良い気分で飲んでいたところを台無しにされてご機嫌ナナメである。とてもじゃないが理由も聞かずに命令に従う気分じゃない。
苛々しながらセオリーを睨むが、それに臆するわけでもなく、だからと言って挑発に乗るわけでもなく、さらりと受け流される。クリスとは違い、本当に流している。
「大変面倒なので端折ってもよろしいでしょうか?」
「ある程度は許す」
「どうも」
割と素直に要求を受け入れられたので、俺は内心ビックリした。セオリーは出された水には手をつけず、こちらに体を向け視線を完全に合わせて話し始める。
「憶測でしかありませんが、ルフィーナ嬢がこの街で行おうとしている事は貴方達にとって得策とは言えないでしょう。こちらとしてもなるべく貴方達に離れて欲しいのです」
「分からんな、一緒に居ると何か起こるのか」
「起こります。彼女も知っているとは思いますが、多分無理やり貴方達を離せないから仕方なく踏み切ったのだと」
確かにレクチェはクリスと一緒に居る事を望んでいたから無理に離すのは難しかっただろう。しかし一度離れた時期もあったのに何故合流した今、わざわざ何かをしようとしているのか矛盾が生じる。
俺の顔を見つめたまま視線を逸らそうとしないセオリー。
男と黙って見つめ合っていても仕方が無いので、俺は深い溜め息の後にこちらから目を逸らしてカウンターの瓶棚を見ながら言った。
「どうせ俺達を監視しているんだろう? じゃあこの時点での矛盾をきちんと説明してくれ」
「ふむ、どこが矛盾なのでしょうね」
大げさに首を傾げる。頭のキレる奴だと思っていたがそうでも無いようだ。
……いや、もしこちらの前提が間違っていたのだとしたら……
俺はやはり視線をセオリーに戻し、椅子ごと体を向けてキチンと聞く事にした。
クリス達を見送ってから俺は注文したハムとチーズのフィユテをサクサクとつまみながら飲み進めていた。
ルフィーナがここで何をしたいのかは気になるが、いちいち探すくらいなら久々に飲みたいというのが理由だ。探した後呼んで貰えばいいだけだしな。
大体ここ最近俺の扱いが酷すぎるんじゃないのか? あいつらが勝手に俺に着いて来ているだけなのに我侭放題に行動しやがって。飲んでないとやってられん。
「おかわりしますか?」
勢いよく空いたジョッキを見て、優男な茶髪のバーテンダーが聞いてくる。
「よろしく~」
俺は上機嫌でそれに答えた。
周囲の客層を見渡すと比較的年齢層も幅広く、まるで街の大人はこぞって飲みに来ているような雰囲気だ。物騒な連中が飲み荒れているというよりは純粋に街の住民で店が賑わっているように見える。
東は織物や工芸品などの特産品くらいしか目立った物は無いと思っていたが、なかなかどうしてこのリャーマは俺好みの街だ。
「ちなみにお兄さん、この女最近見てない? 多分大きな得物持ってると思うんだけど」
俺は小さいバッグに折りたたんで入れていた手配書を彼に見せた。
「いやー、こんなの見たらすぐ通報しますよー」
「だよねー」
ははは、と手応え無しの反応に軽く笑ってまた仕舞う。流石に大きな街でも無いと人に紛れ込むのは難しい。これくらいの規模の街には現れないか……
ふと、バーテンダーが物珍しそうに俺をじっと見ていたので、機嫌の良い俺はこちらから話を振ってやった。
「ん、賞金稼ぎは珍しいか?」
無論、俺は賞金稼ぎでは無いが、この方が都合がいいのでそういう事にしておく。
「あっ、スイマセン。珍しいですねー、この街あんまり行商以外は来ないんで」
「そっか、俺も初めて来るしなぁ」
こういうなよっとした優男は二番目の兄貴を思い出すのであまり好きでは無いのだが、客商売だけあって物腰は柔らかい。俺は悪い印象は抱かずにバーテンダーと他愛も無い会話を続けた。
しかしそこへ、
「隣いいですか」
聞き覚えのある低くかすれたハスキーボイス。答えも聞かずに俺の右に座ったのは浅緑の髪に真紅の切れ長の瞳を持つ青年。
「っ!?」
俺は思わず席を立って僅かに後ろに引いた。
「何もしませんよ、今は話すだけですから」
存在自体は信用ならないが、コイツはいちいち嘘を吐くような奴じゃない。何もするつもりが無いのなら何もしないのだろう。俺は冷静を装ってまた座り直す。
バーテンダーは空気を察して水だけセオリーに置いて、少し離れた。
今日はいつもの軽鎧は纏っておらず、簡易な旅人の服装。この場に馴染む為に服を変えてきたのか、それとも単に私服なだけなのかは定かではない。
「今すぐサラの末裔の子供と二人でこの街を出てください」
急に出たと思ったらこれまたいきなりの命令。
「説明は無いのかよ」
俺は折角良い気分で飲んでいたところを台無しにされてご機嫌ナナメである。とてもじゃないが理由も聞かずに命令に従う気分じゃない。
苛々しながらセオリーを睨むが、それに臆するわけでもなく、だからと言って挑発に乗るわけでもなく、さらりと受け流される。クリスとは違い、本当に流している。
「大変面倒なので端折ってもよろしいでしょうか?」
「ある程度は許す」
「どうも」
割と素直に要求を受け入れられたので、俺は内心ビックリした。セオリーは出された水には手をつけず、こちらに体を向け視線を完全に合わせて話し始める。
「憶測でしかありませんが、ルフィーナ嬢がこの街で行おうとしている事は貴方達にとって得策とは言えないでしょう。こちらとしてもなるべく貴方達に離れて欲しいのです」
「分からんな、一緒に居ると何か起こるのか」
「起こります。彼女も知っているとは思いますが、多分無理やり貴方達を離せないから仕方なく踏み切ったのだと」
確かにレクチェはクリスと一緒に居る事を望んでいたから無理に離すのは難しかっただろう。しかし一度離れた時期もあったのに何故合流した今、わざわざ何かをしようとしているのか矛盾が生じる。
俺の顔を見つめたまま視線を逸らそうとしないセオリー。
男と黙って見つめ合っていても仕方が無いので、俺は深い溜め息の後にこちらから目を逸らしてカウンターの瓶棚を見ながら言った。
「どうせ俺達を監視しているんだろう? じゃあこの時点での矛盾をきちんと説明してくれ」
「ふむ、どこが矛盾なのでしょうね」
大げさに首を傾げる。頭のキレる奴だと思っていたがそうでも無いようだ。
……いや、もしこちらの前提が間違っていたのだとしたら……
俺はやはり視線をセオリーに戻し、椅子ごと体を向けてキチンと聞く事にした。
更新日:2012-08-22 15:09:47