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挿絵 400*400

 
 
 
 山を抜けるのに三日掛かった事を考えれば森はそこまで深くなく、数時間の休憩を取ったものの一晩で越えられた。
 抜けると平原が見渡す限りに広がっており、ここまで来るともうあまり寒さは感じない。誰からともなく上着を脱ぎ、馬に付けてある荷袋に仕舞いこむ。
 リャーマへ続く道は、この平原も山や森と同様に踏み慣らされており迷う事は無さそうだった。地平線まで続くその一本道をただひた走る二頭の馬。

「お腹がすいたーっ」

 そんなレクチェさんの一言により、それから次の道端の店で一旦休憩となった。
 軽食だけメニューに並んだ小ぢんまりとしたその店は、低めの円筒状に塗り固められた土の壁に、屋根は球形を半分に切ったような形。屋根の天辺には錘のような飾りが立っていて、私は故郷を思い出す。
 北や王都ではあまり見られないが、南では似たような建物が多かったからだ。
 外にもベンチやテーブルが備えられていたが建物の中でも食べられたので、建物の中で遅い昼食を取る。ちなみに朝はぎりぎり森のあたりで現地で取った果実だけしか食べておらず、彼女が空腹を訴えるのも無理は無いだろう。

 私達はバターを塗っただけのデニッシュとミルクスープを頂いてから、ついでに馬の食事や水も買って済ませてすぐにそこを出発する。そして平原の先に街を見つけた頃には……随分と日が暮れていた。



「こっちこっち」

 馬を預けた後、ルフィーナさんが案内して街を回る。
 都会とは言えないがもう夜なのに建物の中からは眩しいくらい光が溢れて、どの店もわいわいと賑わっていた。こうして見るとお酒を嗜むお店が多く並んでいる気がする。
 そんなリャーマをきょろきょろ見つつルフィーナさんに着いていく途中で、私は壁にとんでもない物を発見してしまう。私の視線を追って、自然とエリオットさんやレクチェさんもそれを見た。

「…………」

 皆、無言で見つめる先は『探し人』の張り紙。そこに描かれているのは紛れも無くこの私。

「おい、クリス。何かで顔隠せ」

「なっ、何も無いですよ!」

 私はとりあえず深く俯いて誤魔化す。情報の連絡先は各地の軍の駐屯施設となっており、私を探す理由は大体把握出来た。

「……俺も明日何か顔隠せるモノ買うか」

 多分一番探し人として探したいのは家出王子であるエリオットさんだろう。しかし、それを公にするわけにはいかないので参考人として私を見つけたい、と言ったところか。
 姉のように賞金をかけて手配されているわけではないが、こうやって似顔絵を張られては同じようなものだ。すんごく恥ずかしい。

「クリスさん、何で探されてるの?」

 張り紙と私を交互に見ながら、右人差し指を顎に当てて疑問を唱えるレクチェさん。

「色々ありまして……」

 本当に、色々。
 私はげんなりしつつ、その張り紙を後にしようとした。が、

「あれ?」

 着いて行かねばならないはずの後姿が、どこにも見当たらなかった。これはいわゆる、アレだ。置いてけぼりというやつだ。
 張り紙を見ている間にルフィーナさんと私達は完全に離れてしまい、あたりを見渡してもその影はどこにも無い。
 街としては小さいとはいえ、村などに比べれば充分大きい。

「さて、どこから探すか」

 と言いつつエリオットさんは探そうともせずに、すぐ隣にあった酒場に入って行った。

「ちょっと! どこ入ってるんですか!?」

「うわぁん迷子なのー!?」

 泣きそうな顔で私の袖をぐいぐい引っ張るレクチェさん。一気に収集がつかなくなる。
 ルフィーナさんが私達が着いて来ていない事に気がつくのはきっと早いはずだから、建物の中に入っていてはルフィーナさんが私達を見つけられなくなってしまうというのに何をし始めるのだ彼は。
 顔だけ酒場へ入れて、エリオットさんに怒ろうとしたが、こちらが何か言う前に彼は即座にアルコールを注文していた。

「見つかったら呼んでくれ。それまでここの見張りは任せろ!」

 間もなく出されたジョッキに口をつけ、入り口に一番近いところのカウンター席で彼は言う。これはもはや動きそうにもなく、もう説得するのも面倒臭い。

「……二人で探しましょうか」

「うん……」

 夜独特の明かりが怪しくも美しく輝くこの街で、私達二人はその雰囲気には似つかわしくない哀愁を漂わせながら肩をがっくりと落とした。

更新日:2012-08-22 15:06:33

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