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思い出 ~終幕への道標~
「ちょっと寄りたいところがあるの」
ルフィーナさんのその発言で私達の行き先は随分東となり、今はツィバルドから向かって南東の山を越えている最中である。
列車で移動出来れば良いのだが、列車は基本的に王都とその周辺の各都市を結ぶものだけなので、目的地であるリャーマには通っていないのだ。
列車が通っていない分、山道は人々がよく通るので比較的整備されている方だろう。
道中に度々店や宿も見かける程で、ツィバルドと王都を遮る雪山地帯に比べれば随分違う。寒いには寒いけれど、そちらの山よりも南に位置しているので雪も少なく、歩いていれば逆に暑いくらいだ。
いや、歩いてないですけどね、馬借りてますけどね、風切ってますから頬寒くて仕方ないですけどね。
しかし……姉さんの行方が分からないままなのでルフィーナさんの言う通りに目的地を決めたわけだが、彼女はいつも通りその理由を述べてはくれなかった。
こうして見るとますますエリオットさんに似ている気がしてならない、やはり師弟なだけはある。
彼女のその態度を見ながら、彼と出会った当初の説明不足っぷりを私は密かに思い出していた。
私は例によって背もたれになっているモノをふと見上げる。するとこちらの動きにすぐ気がついたようで背もたれがしかめっ面になり、その翡翠の瞳を細くする。
視点的に見下げている分、目だけ見れば喧嘩を売っているようだ。
「何見てんだよ」
やはり売られた。いや、売ってもいない喧嘩を買われた、と言った方がいいのか。
私は大人な対応でさらりと彼に答える。
「ちょっと見たくなったんです」
「その理由が聞きてーんだよ俺は!!」
エリオットさんは手綱を握っており、私をいつまでも見ているわけにはいかないので、こちらに視線を向けずに正面を視線を戻して叫んだ。
「……エリオットさんとルフィーナさんが何だかんだで似ているなぁと考えていたら顔を見たくなりました。これでいいですか?」
「正直に答えたら答えたでムカつくんだけどお前!!」
怒りに歯を食いしばって耐える彼。何が彼を逆撫でしているのかは知らないが相変わらず短気な人である。
コレが昔は良い王子だったなどと誰が信じるものか、隠していた素顔が出てきただけであって元々良くも何ともなかったに違いない。
私はエリオットさんの売り言葉は買わず、無言でスルーした。
それからしばらく黙って流れる景色を見ていると、その沈黙に耐え切れなくなったのか、彼はまた喧嘩を売るような事を言ってくる。
「こんなのが女だなんて、ありえん」
まだそれを引きずっているとは、エリオットさんこそ男の風上にも置けない、なんて事は面倒になるので思っても言わないでおこう。
けれどどうも彼は会話したいようなので仕方なく無難と思われる返答を素っ気無くも一応してみた。
「あり得なくても、事実ですから」
確かに胸は無いが、下のほうにもついていないのは確かだ。だがその返答すらもお気に召さなかったらしい。呆れたような物言いで彼は続ける。
「それ! 可愛げがねーんだよ。顔はどっちつかずだけどよ、とりあえず男と間違えられたくなければその態度をどうにかするべきだって」
アドバイス、と受け取って良いのだろうか。
「私は司祭様の真似をしているだけなんですけどねぇ」
「……多分、口調だけだろ?」
「そうかも知れません」
口調を司祭様ではなく修道女のお姉さんみたいにすればいいのかな、と考えたが想像してみたらどちらも同じだった。悩んでいると頭の上から更に言葉が降ってくる。
「どういう過去があったかは知らんけど、何か突っ張ってるっつーかさ。どーせ感情隠せてないんだから素直に出せばいいんだよ」
やはり彼なりのアドバイスなのだろう、どことなくその声色は優しくなっていた。しかし……
「エリオットさん、それは違います。私は冷静になろうと努力しているだけなんです」
別に突っ張ってるわけでも隠そうとしているわけでも無い。これだけは否定しておかねば私のイメージが崩れてしまう。
けれど彼はそれすらも打ち消した。
「喧嘩や戦闘中ならまだしも、普段から無理して冷静になろうとしなくてもいいんじゃないか?」
そろそろ山を下りきるくらいだろうか、徐々に道が平坦になっていく。あまり木の生えていない粘土質の土で出来た山が後ろに大きく聳える景観となり、これから麓の森に入るのだろう、大きい杉などの木が増えてきた。
私は少し身を乗り出して山に振り返っていたところを元の位置に戻り、呟く。
「エリオットさんと喧嘩以外の会話って、してましたっけ」
「……そこから観点がすれ違っているのか俺達は」
ルフィーナさんのその発言で私達の行き先は随分東となり、今はツィバルドから向かって南東の山を越えている最中である。
列車で移動出来れば良いのだが、列車は基本的に王都とその周辺の各都市を結ぶものだけなので、目的地であるリャーマには通っていないのだ。
列車が通っていない分、山道は人々がよく通るので比較的整備されている方だろう。
道中に度々店や宿も見かける程で、ツィバルドと王都を遮る雪山地帯に比べれば随分違う。寒いには寒いけれど、そちらの山よりも南に位置しているので雪も少なく、歩いていれば逆に暑いくらいだ。
いや、歩いてないですけどね、馬借りてますけどね、風切ってますから頬寒くて仕方ないですけどね。
しかし……姉さんの行方が分からないままなのでルフィーナさんの言う通りに目的地を決めたわけだが、彼女はいつも通りその理由を述べてはくれなかった。
こうして見るとますますエリオットさんに似ている気がしてならない、やはり師弟なだけはある。
彼女のその態度を見ながら、彼と出会った当初の説明不足っぷりを私は密かに思い出していた。
私は例によって背もたれになっているモノをふと見上げる。するとこちらの動きにすぐ気がついたようで背もたれがしかめっ面になり、その翡翠の瞳を細くする。
視点的に見下げている分、目だけ見れば喧嘩を売っているようだ。
「何見てんだよ」
やはり売られた。いや、売ってもいない喧嘩を買われた、と言った方がいいのか。
私は大人な対応でさらりと彼に答える。
「ちょっと見たくなったんです」
「その理由が聞きてーんだよ俺は!!」
エリオットさんは手綱を握っており、私をいつまでも見ているわけにはいかないので、こちらに視線を向けずに正面を視線を戻して叫んだ。
「……エリオットさんとルフィーナさんが何だかんだで似ているなぁと考えていたら顔を見たくなりました。これでいいですか?」
「正直に答えたら答えたでムカつくんだけどお前!!」
怒りに歯を食いしばって耐える彼。何が彼を逆撫でしているのかは知らないが相変わらず短気な人である。
コレが昔は良い王子だったなどと誰が信じるものか、隠していた素顔が出てきただけであって元々良くも何ともなかったに違いない。
私はエリオットさんの売り言葉は買わず、無言でスルーした。
それからしばらく黙って流れる景色を見ていると、その沈黙に耐え切れなくなったのか、彼はまた喧嘩を売るような事を言ってくる。
「こんなのが女だなんて、ありえん」
まだそれを引きずっているとは、エリオットさんこそ男の風上にも置けない、なんて事は面倒になるので思っても言わないでおこう。
けれどどうも彼は会話したいようなので仕方なく無難と思われる返答を素っ気無くも一応してみた。
「あり得なくても、事実ですから」
確かに胸は無いが、下のほうにもついていないのは確かだ。だがその返答すらもお気に召さなかったらしい。呆れたような物言いで彼は続ける。
「それ! 可愛げがねーんだよ。顔はどっちつかずだけどよ、とりあえず男と間違えられたくなければその態度をどうにかするべきだって」
アドバイス、と受け取って良いのだろうか。
「私は司祭様の真似をしているだけなんですけどねぇ」
「……多分、口調だけだろ?」
「そうかも知れません」
口調を司祭様ではなく修道女のお姉さんみたいにすればいいのかな、と考えたが想像してみたらどちらも同じだった。悩んでいると頭の上から更に言葉が降ってくる。
「どういう過去があったかは知らんけど、何か突っ張ってるっつーかさ。どーせ感情隠せてないんだから素直に出せばいいんだよ」
やはり彼なりのアドバイスなのだろう、どことなくその声色は優しくなっていた。しかし……
「エリオットさん、それは違います。私は冷静になろうと努力しているだけなんです」
別に突っ張ってるわけでも隠そうとしているわけでも無い。これだけは否定しておかねば私のイメージが崩れてしまう。
けれど彼はそれすらも打ち消した。
「喧嘩や戦闘中ならまだしも、普段から無理して冷静になろうとしなくてもいいんじゃないか?」
そろそろ山を下りきるくらいだろうか、徐々に道が平坦になっていく。あまり木の生えていない粘土質の土で出来た山が後ろに大きく聳える景観となり、これから麓の森に入るのだろう、大きい杉などの木が増えてきた。
私は少し身を乗り出して山に振り返っていたところを元の位置に戻り、呟く。
「エリオットさんと喧嘩以外の会話って、してましたっけ」
「……そこから観点がすれ違っているのか俺達は」
更新日:2012-08-22 15:03:07