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◇◇◇ ◇◇◇
……クリスとルフィーナがそんなこんなしていた頃。
「それで、壊れたお鍋を帽子代わりにしているオジさんがステテコ失くして困っていたんですよっ」
どうしてこうなった。
俺は本日の情報収集内容という名目の世間話を聞きながら、現在の状況を必死に把握しようとしていた。
確かクリスの魔法攻撃を受けて意識が飛んで、その後クリスが何やら喚いていたのは覚えているが……そこでまたふらふらして記憶が無くなっている。
次に目を覚ました時には、レクチェが部屋の備え付けの物と思われる宿内限定で着るようなラフな服を着て、俺の近くの椅子に座ってお茶を飲んでいた。多分これも部屋に常備されている安いお茶だろう。
そして何故か彼女は俺が目を覚ました事に気が付くなり、お喋りを始めている。どこで相槌を打っていいかも分からないくらいどうでもいい、女特有の話を。
「シチューの中に生きたねずみが入っていた時は本当にびっくりしましたっ」
そりゃびっくりだ。
はは、とだけ相槌代わりに笑って返す。
クリスは一体どこへ行ったんだ……まぁレクチェがここに居るという事はどうせルフィーナと何か秘密話でもする為にレクチェを追い出して、二人で話しているか何かだろう。
俺はベッドに腰掛けたまま、しばらくレクチェの話を流し聞く。
「~~それでそこからくるっと回って一回転! 驚愕しちゃいますよねっ」
その止まらない口に、俺が驚愕するよ。
流石にたまらず、俺は彼女の話に割り込んだ。
「ところでレクチェ、夕飯どうするとか聞いてる?」
既に外は暗かった。何時かは知らないが外の雰囲気的に夕飯のピークは過ぎているように思う。この状況を打破するべく俺は一番食いついてくれそうな飯の話題に誘う。
だが、
「もう食べましたよー、宿の中に食堂があったんでそこでっ」
「食べた!? 俺抜きで!?」
これは聞き捨てならない。人に暴力振るった挙句に、俺を転がしたまま夕飯を済ませるとか酷すぎないか。
やった張本人はクリスだが、それを疑問にも思わず皆で食べに行けちゃうあたりがルフィーナもレクチェも鬼だ!
「お風呂も入っちゃいましたし、後は寝るだけ! エリオットさんも早く食べてきた方がいいですよっ」
「あ、あぁ……」
食べ終わって戻ってくる頃には、きっとクリス達の話も終わって戻ってくるだろう。
俺は上着やマントを脱いですごすごと一人寂しく食堂へ向かった。
しかし俺の予想を裏切り、食事を終えて戻ってきた後も彼女はまだ部屋にいた。
二つ並んだベッドの片方でごろごろ転がっているではないか。まるで今日はそのベッドで寝る、と言わんばかりに。いや、それは無いだろうが。
「あいつらの話、まだ終わんねーの?」
俺はレクチェが寝転がっていない方のベッドに腰掛けて彼女に問いかける。すると彼女が顔と体をこちらにコロンと向けて、屈託のない笑顔で言い放つ。
「話? 何ですかそれ?」
ベッドに流れるように揺蕩う金の髪。綿で織られた質素で羽織り巻くだけの簡単な服は、彼女のその豊満な体を隠しきれてはおらず、無防備に転がった事でほんのりと桜色に染まった胸元が視界に入ってしまった。
感情だけシャットアウトして、その眼福を冷静なフリして頂いておく。
「あっちで込み入った話があるから、レクチェがこっちに追い出されてきてるんだと思ってたんだけど」
俺は一人で必死に状況を想像した末の結論を彼女に提示した。
「追い出された……ってのも確かに近いですけど、お話っていうよりはクリスさんがルフィーナさんと一緒に寝たいみたいなんですよー」
「何ソレ面白い!!」
俺の結論以上の出来事が、あっちで起こっている……っ!
ん? じゃあどういう事だ、クリスとルフィーナがあっちで二人で寝るというのなら、それによってレクチェがこの部屋にいるのならば……
その予想が合っているのか、合っていて欲しいか欲しくないか、俺はゴクリと唾を飲んで、その先を口に出した。
「もしかして、レクチェ今夜ここで寝る気……?」
俺の躊躇いがちな言葉に、彼女はさして気にした様子も無くぱたぱたと足を揺らして、
「喋る事いっぱいあるんで、寝かせないですよっ」
暗にそれを肯定した。
今夜コレとずっと一緒にいなくてはいけないのかと思うと途端に目眩がして、俺は片手で頭を抱える。
喜んでもいいところなのだが、我慢し続けなくてはいけないのならもはや苦痛でしかない。
「参ったな……」
レクチェに聞こえないように、ぼやいた。
……クリスとルフィーナがそんなこんなしていた頃。
「それで、壊れたお鍋を帽子代わりにしているオジさんがステテコ失くして困っていたんですよっ」
どうしてこうなった。
俺は本日の情報収集内容という名目の世間話を聞きながら、現在の状況を必死に把握しようとしていた。
確かクリスの魔法攻撃を受けて意識が飛んで、その後クリスが何やら喚いていたのは覚えているが……そこでまたふらふらして記憶が無くなっている。
次に目を覚ました時には、レクチェが部屋の備え付けの物と思われる宿内限定で着るようなラフな服を着て、俺の近くの椅子に座ってお茶を飲んでいた。多分これも部屋に常備されている安いお茶だろう。
そして何故か彼女は俺が目を覚ました事に気が付くなり、お喋りを始めている。どこで相槌を打っていいかも分からないくらいどうでもいい、女特有の話を。
「シチューの中に生きたねずみが入っていた時は本当にびっくりしましたっ」
そりゃびっくりだ。
はは、とだけ相槌代わりに笑って返す。
クリスは一体どこへ行ったんだ……まぁレクチェがここに居るという事はどうせルフィーナと何か秘密話でもする為にレクチェを追い出して、二人で話しているか何かだろう。
俺はベッドに腰掛けたまま、しばらくレクチェの話を流し聞く。
「~~それでそこからくるっと回って一回転! 驚愕しちゃいますよねっ」
その止まらない口に、俺が驚愕するよ。
流石にたまらず、俺は彼女の話に割り込んだ。
「ところでレクチェ、夕飯どうするとか聞いてる?」
既に外は暗かった。何時かは知らないが外の雰囲気的に夕飯のピークは過ぎているように思う。この状況を打破するべく俺は一番食いついてくれそうな飯の話題に誘う。
だが、
「もう食べましたよー、宿の中に食堂があったんでそこでっ」
「食べた!? 俺抜きで!?」
これは聞き捨てならない。人に暴力振るった挙句に、俺を転がしたまま夕飯を済ませるとか酷すぎないか。
やった張本人はクリスだが、それを疑問にも思わず皆で食べに行けちゃうあたりがルフィーナもレクチェも鬼だ!
「お風呂も入っちゃいましたし、後は寝るだけ! エリオットさんも早く食べてきた方がいいですよっ」
「あ、あぁ……」
食べ終わって戻ってくる頃には、きっとクリス達の話も終わって戻ってくるだろう。
俺は上着やマントを脱いですごすごと一人寂しく食堂へ向かった。
しかし俺の予想を裏切り、食事を終えて戻ってきた後も彼女はまだ部屋にいた。
二つ並んだベッドの片方でごろごろ転がっているではないか。まるで今日はそのベッドで寝る、と言わんばかりに。いや、それは無いだろうが。
「あいつらの話、まだ終わんねーの?」
俺はレクチェが寝転がっていない方のベッドに腰掛けて彼女に問いかける。すると彼女が顔と体をこちらにコロンと向けて、屈託のない笑顔で言い放つ。
「話? 何ですかそれ?」
ベッドに流れるように揺蕩う金の髪。綿で織られた質素で羽織り巻くだけの簡単な服は、彼女のその豊満な体を隠しきれてはおらず、無防備に転がった事でほんのりと桜色に染まった胸元が視界に入ってしまった。
感情だけシャットアウトして、その眼福を冷静なフリして頂いておく。
「あっちで込み入った話があるから、レクチェがこっちに追い出されてきてるんだと思ってたんだけど」
俺は一人で必死に状況を想像した末の結論を彼女に提示した。
「追い出された……ってのも確かに近いですけど、お話っていうよりはクリスさんがルフィーナさんと一緒に寝たいみたいなんですよー」
「何ソレ面白い!!」
俺の結論以上の出来事が、あっちで起こっている……っ!
ん? じゃあどういう事だ、クリスとルフィーナがあっちで二人で寝るというのなら、それによってレクチェがこの部屋にいるのならば……
その予想が合っているのか、合っていて欲しいか欲しくないか、俺はゴクリと唾を飲んで、その先を口に出した。
「もしかして、レクチェ今夜ここで寝る気……?」
俺の躊躇いがちな言葉に、彼女はさして気にした様子も無くぱたぱたと足を揺らして、
「喋る事いっぱいあるんで、寝かせないですよっ」
暗にそれを肯定した。
今夜コレとずっと一緒にいなくてはいけないのかと思うと途端に目眩がして、俺は片手で頭を抱える。
喜んでもいいところなのだが、我慢し続けなくてはいけないのならもはや苦痛でしかない。
「参ったな……」
レクチェに聞こえないように、ぼやいた。
更新日:2012-08-17 16:06:57