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歪み ~束の間の夢~
私達はエリオットさん抜きで宿内にて食事を済ませると、再び部屋まで足を運ぶ。困った事に、レクチェさんは駄犬の居る部屋へ……
何を考えているんだこの人達は。いつも散々な事を彼に言ってエロテロリスト扱いしているくせに、いざこういう流れになると途端に肝が据わったようになる。
石橋叩いて渡りたい私としては、こんな決断は考えられない。『大丈夫』の根拠がどこにあるのか知りたい。
「まー、心配しなくても平気よ。今までの様子なら本気で何かしたりしないってば」
私の不安を感じ取ったか、ルフィーナさんがテーブルの上でワインをグラスに注ぎつつ駄犬のフォローを入れる。
「しかし、私のせいで何かあったとなっては困りますので……」
「ないない! どんなに強がってても根っこはぬるいお坊ちゃんよあの子!」
手をぱたぱたと振って笑い飛ばす彼女。
そう言われても楽観視は出来ないが、これ以上心配していても私の胃の壁が磨り減るだけ。私は折角ルフィーナさんと二人きりになれたのだ、今のうちに渡す物を渡しておこう。
座っていた椅子を少し後ろに引いてテーブルとの距離を取り、腰のポーチを開けて中から取り出したのは、例の琥珀のネックレス。室内照明の光をじんわり吸い込むように浴びて光るそれは、不思議と私の心を落ち着かせる。
「あら、それなぁに?」
早速反応し、ネックレスを横から覗き込んできた。
どうやらこの様子だと、このネックレスが何なのかは知らないらしい。セオリーが知っていたのだからルフィーナさんも知っていてもおかしくないと思ったのだが……
「お守りです」
そう言って私は彼女の首に手を回してネックレスを着けると、キョトン、とした顔でルフィーナさんがそれを受け入れた。否、抵抗するところまで意識がいかなかった、というのが正解か。
彼女はゆっくりと自分の胸元を見下ろしてそれが間違いなく自分の首に着けられた事を確認すると、また顔を上げて私に視線を戻す。
「え?」
未だ何が起こったのか把握出来ていないらしい。
「プレゼントですよ、肌身離さず着けてくださいね。出来たら服の中に仕舞って見えないように着けてくれると嬉しいです」
私は至極丁寧に説明した。見えないように着けて欲しいのは、セオリー対策だ。持っているのがルフィーナさんだとバレると今度は彼女から奪おうとするかも知れないからである。
彼女は再度自分の胸元に視線を下げ、それを手に取りじっと見つめた。
「よく分からないけど、好意は素直に頂くわ」
いそいそとネックレスを襟元から服下に仕舞うと、こちらを見てにっこり笑う。
「ありがとうございます、出来たら今後は私と一緒に居てくださいね」
これで伝えるべき事は伝え、渡す物は渡した。あとは私が頑張るだけだ。
何となく、よしっ! と膝の上に置いていた右手の拳にぎゅっと力を入れて握る。そんな風に意気込みが出てしまい、その様子を目の当たりにしたルフィーナさんは静かにこう呟いた。
「……クリスが本気なら、私は受け止める覚悟があるわよ?」
「な、何の事ですか……?」
受け止める? 護る事? それともフォウさんの占いの結果? いやいやどちらもルフィーナさんが知る由も無い。
「クリスはそういうの興味無いと思ってたんだけど……まぁだんだん芽生えてくる年頃だしね」
「年、頃?」
もはや何の事だかさっぱり分からなくなった。
よほどその疑問が顔に出ていたのだろう。彼女は首を傾げて私に真意を尋ねてきた。
「あれ? クリス、お姉さんと大人の階段登りたいんじゃなくて?」
「ごめんなさいよくわかりませんのぼりません」
どこをどう捉えられてそう思われてしまったのかよく分からず、何か頭がぐるぐるする。
大体、大人の階段とはどこにあるのだ。ルフィーナさんくらい知識があればその階段の場所を知っていて、私に教えようとしてくれている? 何で今?
固まっている私をしばし観察した後、ルフィーナさんはふぅ、と息を吐いて話し始めた。
「半分くらい冗談だったんだけど、冗談かどうかも分からないくらい興味無いのね」
「えっ、冗談ですか?」
予想だにしない言葉に、私は聞き返す。
「やだー! 冗談よもう!」
よく分からないけれど冗談だったらしい……そう答えて明るく笑い飛ばす彼女。
小さな疑問は残るもののとりあえずはやるべき事を終えたのだ、私も彼女と一緒に笑っておいた。
何を考えているんだこの人達は。いつも散々な事を彼に言ってエロテロリスト扱いしているくせに、いざこういう流れになると途端に肝が据わったようになる。
石橋叩いて渡りたい私としては、こんな決断は考えられない。『大丈夫』の根拠がどこにあるのか知りたい。
「まー、心配しなくても平気よ。今までの様子なら本気で何かしたりしないってば」
私の不安を感じ取ったか、ルフィーナさんがテーブルの上でワインをグラスに注ぎつつ駄犬のフォローを入れる。
「しかし、私のせいで何かあったとなっては困りますので……」
「ないない! どんなに強がってても根っこはぬるいお坊ちゃんよあの子!」
手をぱたぱたと振って笑い飛ばす彼女。
そう言われても楽観視は出来ないが、これ以上心配していても私の胃の壁が磨り減るだけ。私は折角ルフィーナさんと二人きりになれたのだ、今のうちに渡す物を渡しておこう。
座っていた椅子を少し後ろに引いてテーブルとの距離を取り、腰のポーチを開けて中から取り出したのは、例の琥珀のネックレス。室内照明の光をじんわり吸い込むように浴びて光るそれは、不思議と私の心を落ち着かせる。
「あら、それなぁに?」
早速反応し、ネックレスを横から覗き込んできた。
どうやらこの様子だと、このネックレスが何なのかは知らないらしい。セオリーが知っていたのだからルフィーナさんも知っていてもおかしくないと思ったのだが……
「お守りです」
そう言って私は彼女の首に手を回してネックレスを着けると、キョトン、とした顔でルフィーナさんがそれを受け入れた。否、抵抗するところまで意識がいかなかった、というのが正解か。
彼女はゆっくりと自分の胸元を見下ろしてそれが間違いなく自分の首に着けられた事を確認すると、また顔を上げて私に視線を戻す。
「え?」
未だ何が起こったのか把握出来ていないらしい。
「プレゼントですよ、肌身離さず着けてくださいね。出来たら服の中に仕舞って見えないように着けてくれると嬉しいです」
私は至極丁寧に説明した。見えないように着けて欲しいのは、セオリー対策だ。持っているのがルフィーナさんだとバレると今度は彼女から奪おうとするかも知れないからである。
彼女は再度自分の胸元に視線を下げ、それを手に取りじっと見つめた。
「よく分からないけど、好意は素直に頂くわ」
いそいそとネックレスを襟元から服下に仕舞うと、こちらを見てにっこり笑う。
「ありがとうございます、出来たら今後は私と一緒に居てくださいね」
これで伝えるべき事は伝え、渡す物は渡した。あとは私が頑張るだけだ。
何となく、よしっ! と膝の上に置いていた右手の拳にぎゅっと力を入れて握る。そんな風に意気込みが出てしまい、その様子を目の当たりにしたルフィーナさんは静かにこう呟いた。
「……クリスが本気なら、私は受け止める覚悟があるわよ?」
「な、何の事ですか……?」
受け止める? 護る事? それともフォウさんの占いの結果? いやいやどちらもルフィーナさんが知る由も無い。
「クリスはそういうの興味無いと思ってたんだけど……まぁだんだん芽生えてくる年頃だしね」
「年、頃?」
もはや何の事だかさっぱり分からなくなった。
よほどその疑問が顔に出ていたのだろう。彼女は首を傾げて私に真意を尋ねてきた。
「あれ? クリス、お姉さんと大人の階段登りたいんじゃなくて?」
「ごめんなさいよくわかりませんのぼりません」
どこをどう捉えられてそう思われてしまったのかよく分からず、何か頭がぐるぐるする。
大体、大人の階段とはどこにあるのだ。ルフィーナさんくらい知識があればその階段の場所を知っていて、私に教えようとしてくれている? 何で今?
固まっている私をしばし観察した後、ルフィーナさんはふぅ、と息を吐いて話し始めた。
「半分くらい冗談だったんだけど、冗談かどうかも分からないくらい興味無いのね」
「えっ、冗談ですか?」
予想だにしない言葉に、私は聞き返す。
「やだー! 冗談よもう!」
よく分からないけれど冗談だったらしい……そう答えて明るく笑い飛ばす彼女。
小さな疑問は残るもののとりあえずはやるべき事を終えたのだ、私も彼女と一緒に笑っておいた。
更新日:2012-08-17 16:03:20