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そして部屋に戻ると、既にエリオットさんが一人で床に寝ているだけ。レクチェさんとルフィーナさんはもう部屋を移ってしまったようだ。むむ、困ったな。
「エリオットさん、起きてください」
彼女達の部屋の番号を知っているとは思えないが、とりあえず起こしてみる。
しかし揺すってもダメなようなので次は叩いてみよう。
膝を折って腰を落とし、彼の胸倉を掴んで往復ビンタを何度か繰り返していると、ようやく彼が目を覚ます。
「うぅ……いたい……」
「お、起きましたね。ルフィーナさん達ってどこの部屋です?」
「なに、なんのはなし……」
ダメだ、お話にならない。
私は胸倉を掴んでいた手をパッと離して立ち上がる。ドサッとエリオットさんの体が落ちる音がした気がしなくもない。
一部屋ずつ確認して回るしかないか。
いまいち反応が鈍いエリオットさんを放置して、私は部屋を出て廊下を見回す。大きくないとはいえ一室ずつノックをして回るのは少し気が引けるため、少し悩んでいるとニールの声が聞こえてきた。
『彼女の気配なら、分かるぞ』
「!」
そういえば廃鉱でもそんな能力を発揮して、道を教えてくれていた覚えがある。狙う者として、彼女限定で索敵できるという事か。
『そこだな』
ニールの案内に従って、二つ隣の部屋をノックする。
「入りますよー」
ここにいるのは間違いない、という確信から返事も待たずにドアを開けた。
するとお二人仲良く、備え付けのラフな衣服に着替え中。二人とも服はまだ着付け始めたばかりなのだろう、ボタンも留められておらず下着丸見えだった。
「あ」
これはドア全開はまずい、後ろを人が通ったら彼女達の半裸が見えてしまう。私は慌てて部屋の中に入ってドアを閉める。
「危ない危ない、失礼しました!」
「やだもう~」
形の良い胸を揺らして、ルフィーナさんがおかしそうに笑う。
凄く大きいわけじゃないけれど、彼女はスタイルがいい。色も白く身長も高い方なので下着姿だと何かのモデルさんのようだ。
「クリスさん、どうしたの?」
服のボタンを留め終えたレクチェさんが用件を尋ねてくる。
「あ、あのですね。私これからはルフィーナさんと一緒の部屋で泊まろうと思って!」
しばし沈黙の間。それを破ってルフィーナさんが理由を聞いた。
「気持ちは嬉しいんだけど……ど、どうしてかしら……」
「離れたくないんです!」
ここまで答えたところで私はハッと気がつく。これ、ちょっと理由としては変だ、と。
あくまで先程フォウさんに言われた事を実践しようとしているだけなのだが、彼との会話を聞いていない彼女達にとっては色々想像を掻き立てる言葉だったはずだ。
彼女達の顔を意識して見ると、その怪訝な表情から、誤解されている事は容易に感じ取れた。
「ち、違います……」
私は言葉を選んで、その誤解を解こうとした。が、
「クリスさん! もうその展開ダメだからねっ!」
エリオットさん、ルフィーナさんに引き続き、私もやる流れだったところをレクチェさんが先に止める。何をやる流れだったかは、お察しください。
「うぅ……」
フォウさんに言われた事を伝えるべきか、それとも宿の部屋くらいは離れていても平気か?
困って、手悪戯をしながらその場に立ち尽くしてしまう。
するとルフィーナさんが半裸のまま優しく話しかけてくれた。
「もう……レクチェをあっちの部屋に行かせるわけにもいかないから、私と一緒のベッドでいい?」
「あ、そんな申し訳ない。やっぱりいいです、大丈夫です」
うん、きっと大丈夫だ。二つ隣の部屋くらいすぐに駆けつけられるはずだ。私はルフィーナさんの申し出を断ろうとする。
そこへレクチェさんが意外な提案を申し出てきた。
「私、あっちの部屋でもいいよっ」
「!?」
ルフィーナさんも私も一斉にしてレクチェさんに振り返る。彼女はとんでもない発言をしたにも関わらず、至って普通の表情。そして飄々とこんな事を言う。
「ベッドが二つあるならこの前と変わらないしっ」
いや、二人きりというだけで随分変わると思われますがががが。
「……まぁ、本気で嫌がってるところを何かしたりは、しないだろうしねぇ」
「!??」
驚いた事に、ルフィーナさんもその意見を受け入れようとしているではないか。
私は、自分がしてしまった事の大きさに今更焦りを覚えていた。もはやこれは取り返しのつかない状況に発展するのか。
「や、ほんとに、やっぱりいいです」
「いいよ、たまにはっ」
……発展した。
【第九章 見えたもの ~それは近い未来に~ 完】
「エリオットさん、起きてください」
彼女達の部屋の番号を知っているとは思えないが、とりあえず起こしてみる。
しかし揺すってもダメなようなので次は叩いてみよう。
膝を折って腰を落とし、彼の胸倉を掴んで往復ビンタを何度か繰り返していると、ようやく彼が目を覚ます。
「うぅ……いたい……」
「お、起きましたね。ルフィーナさん達ってどこの部屋です?」
「なに、なんのはなし……」
ダメだ、お話にならない。
私は胸倉を掴んでいた手をパッと離して立ち上がる。ドサッとエリオットさんの体が落ちる音がした気がしなくもない。
一部屋ずつ確認して回るしかないか。
いまいち反応が鈍いエリオットさんを放置して、私は部屋を出て廊下を見回す。大きくないとはいえ一室ずつノックをして回るのは少し気が引けるため、少し悩んでいるとニールの声が聞こえてきた。
『彼女の気配なら、分かるぞ』
「!」
そういえば廃鉱でもそんな能力を発揮して、道を教えてくれていた覚えがある。狙う者として、彼女限定で索敵できるという事か。
『そこだな』
ニールの案内に従って、二つ隣の部屋をノックする。
「入りますよー」
ここにいるのは間違いない、という確信から返事も待たずにドアを開けた。
するとお二人仲良く、備え付けのラフな衣服に着替え中。二人とも服はまだ着付け始めたばかりなのだろう、ボタンも留められておらず下着丸見えだった。
「あ」
これはドア全開はまずい、後ろを人が通ったら彼女達の半裸が見えてしまう。私は慌てて部屋の中に入ってドアを閉める。
「危ない危ない、失礼しました!」
「やだもう~」
形の良い胸を揺らして、ルフィーナさんがおかしそうに笑う。
凄く大きいわけじゃないけれど、彼女はスタイルがいい。色も白く身長も高い方なので下着姿だと何かのモデルさんのようだ。
「クリスさん、どうしたの?」
服のボタンを留め終えたレクチェさんが用件を尋ねてくる。
「あ、あのですね。私これからはルフィーナさんと一緒の部屋で泊まろうと思って!」
しばし沈黙の間。それを破ってルフィーナさんが理由を聞いた。
「気持ちは嬉しいんだけど……ど、どうしてかしら……」
「離れたくないんです!」
ここまで答えたところで私はハッと気がつく。これ、ちょっと理由としては変だ、と。
あくまで先程フォウさんに言われた事を実践しようとしているだけなのだが、彼との会話を聞いていない彼女達にとっては色々想像を掻き立てる言葉だったはずだ。
彼女達の顔を意識して見ると、その怪訝な表情から、誤解されている事は容易に感じ取れた。
「ち、違います……」
私は言葉を選んで、その誤解を解こうとした。が、
「クリスさん! もうその展開ダメだからねっ!」
エリオットさん、ルフィーナさんに引き続き、私もやる流れだったところをレクチェさんが先に止める。何をやる流れだったかは、お察しください。
「うぅ……」
フォウさんに言われた事を伝えるべきか、それとも宿の部屋くらいは離れていても平気か?
困って、手悪戯をしながらその場に立ち尽くしてしまう。
するとルフィーナさんが半裸のまま優しく話しかけてくれた。
「もう……レクチェをあっちの部屋に行かせるわけにもいかないから、私と一緒のベッドでいい?」
「あ、そんな申し訳ない。やっぱりいいです、大丈夫です」
うん、きっと大丈夫だ。二つ隣の部屋くらいすぐに駆けつけられるはずだ。私はルフィーナさんの申し出を断ろうとする。
そこへレクチェさんが意外な提案を申し出てきた。
「私、あっちの部屋でもいいよっ」
「!?」
ルフィーナさんも私も一斉にしてレクチェさんに振り返る。彼女はとんでもない発言をしたにも関わらず、至って普通の表情。そして飄々とこんな事を言う。
「ベッドが二つあるならこの前と変わらないしっ」
いや、二人きりというだけで随分変わると思われますがががが。
「……まぁ、本気で嫌がってるところを何かしたりは、しないだろうしねぇ」
「!??」
驚いた事に、ルフィーナさんもその意見を受け入れようとしているではないか。
私は、自分がしてしまった事の大きさに今更焦りを覚えていた。もはやこれは取り返しのつかない状況に発展するのか。
「や、ほんとに、やっぱりいいです」
「いいよ、たまにはっ」
……発展した。
【第九章 見えたもの ~それは近い未来に~ 完】
更新日:2012-08-17 16:01:33