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「フォウさんは解放してあげないんですか?」
とりあえず彼は姉の居場所までは見る事が出来ないのだ。このようにぐだぐだな状態でいつまでも引き止めておくのはとても可哀想でならない。
フォウさんは私の言葉にぴくりと反応し、体をエリオットさんへ向けてその会話の先を待つ姿勢を整えた。私とフォウさん、二人の視線にエリオットさんは椅子をギシリと揺らしながら少し斜め上を見上げて考え込む。
「……しゃーねーな、まぁ好きにしろい」
つまり、もう出て行ってもいい、と。
「だそうです、お時間を使わせてしまい申し訳ございませんでした」
「あ、うん」
フォウさんは戸惑いながらも席を立ち、かなり出て行きにくい雰囲気の中で、部屋の入り口までとぼとぼと歩いて行く。
そしてドアノブに手を掛けて回すまでしたところで、彼はピタリとその手を止めたまま立ち尽くした。その背中には、何か迷いがあるように。
何となく、見送らないと出て行きにくいかな? と思った私は気を遣ってそちらに近づく。
「宿の外まで送りますよ」
「ありがとう……」
お礼を言ったその顔には、陰りがある。少し気になるが突っ込んでいいものやら……
「別れ難いってか? いいなぁ若くて!」
そこへ、空気を読まないエリオットさんの茶々が入った。
「ホントもう黙っててください!」
私はもう躊躇いもせずに腕を振り被り、風の魔法で彼を椅子から吹き飛ばしてやる。ガタンッ! と大きな音を立てて彼は椅子から転げ落ち、室内はその風で埃が舞い散る。
ちらりとレクチェさんのスカートも捲れて彼女が慌てていたが、大丈夫です。貴女ストッキング履いてますから捲れてもパンツ見えませんよ、えぇ。
「さ、行きましょう」
打ち所悪く伸びてしまっているエリオットさんを放置して、フォウさんの肩を叩く。
「……いいんだ、アレ」
「あれならレクチェさんに何かされる心配もありませんからね!」
そんな私の優しい心遣い。
借りていた部屋は二階に位置しており、私達は螺旋階段をゆっくり降りて宿の玄関口へ向かう。と、そこへルフィーナさんが階段を上がってきた。部屋を取り終えたのだろう。
「あら、帰っちゃうの?」
とても残念そうな顔で彼女は少年を見る。
「あ、はい……」
宿に来てからは圧倒されているのか生返事が多い彼。
だが、そんな返事にも関わらずフォウさんは彼女に対して警戒を怠らない。よほどあのセクハラが衝撃的だったのだろう。
「玄関まで送っていきますね」
「はーい、またね~」
そして、会釈をしながらルフィーナさんとすれ違った。
ロビーは無言で通り過ぎ、そこまで大きくないこの宿だ、あっという間に玄関まで着く。
最近は同い年くらいの人との会話なんて全く無かったので少しだけ名残惜しい気もする。
「フォウさんは、この街にお住まいなんですか?」
別れ際に一応、聞いてみた。
「いや、俺色んなところ一人で旅してるんだ」
「その年でですか!?」
予想と違う返答に、驚きの色を隠せない。
「まぁ、こんなだから。一箇所には居辛いんだよね」
こんな、とはその背にある魔術紋様による能力の事を言っているのだろう。具体的ではないとはいえ、他人を見て色々と勝手に情報を得てしまうのだ。私は凄い力だと思ったけれど、周囲には煙たがられるのかも知れない。
少し曇る私の顔を見て、彼はそれを明るく笑い飛ばす。
「旅してたほうが楽だからいいんだ! こんな変な出会いもあるしね!」
「変って何ですか、もう」
と言いつつ私も一緒に笑う。
が、その後彼は笑うのを止め、私に真剣な面持ちで告げた。
「……言おうか迷ってたんだけど」
「?」
一息だけおいて、彼はその次を語る。
「レクチェって人は何も見えなかったけど、他はクリスも含めて皆の先は曇ってた。特にあのルフィーナって人はよくない」
すぐには返事が出来なかった。
よくない、とはナンダロウ。
「さっきのネックレスは、あの人に身につけさせて。きっと役に立つ時が来る」
「ラッキーアイテム……みたいなものですか?」
「うん、そんな感じに見えた。でもあの人への災いを断つのはクリスだよ。離れないであげて」
本当に、占いのような助言だった。どう捉えていいのか悩んでしまう。
それでも、彼が伝えてくれた事で曇った未来に少しでも晴れ間が射すというのなら。
私は強く、返事をした。
「分かりました、離れません」
「……信じてくれて、ありがとう」
心のつかえが取れたように、優しく微笑む彼。
どちらからともなく最後に軽くハグだけして、別れを告げる。
「またね!」
大きく手を振る彼が人ごみに消えるまで、私は見送った。
とりあえず彼は姉の居場所までは見る事が出来ないのだ。このようにぐだぐだな状態でいつまでも引き止めておくのはとても可哀想でならない。
フォウさんは私の言葉にぴくりと反応し、体をエリオットさんへ向けてその会話の先を待つ姿勢を整えた。私とフォウさん、二人の視線にエリオットさんは椅子をギシリと揺らしながら少し斜め上を見上げて考え込む。
「……しゃーねーな、まぁ好きにしろい」
つまり、もう出て行ってもいい、と。
「だそうです、お時間を使わせてしまい申し訳ございませんでした」
「あ、うん」
フォウさんは戸惑いながらも席を立ち、かなり出て行きにくい雰囲気の中で、部屋の入り口までとぼとぼと歩いて行く。
そしてドアノブに手を掛けて回すまでしたところで、彼はピタリとその手を止めたまま立ち尽くした。その背中には、何か迷いがあるように。
何となく、見送らないと出て行きにくいかな? と思った私は気を遣ってそちらに近づく。
「宿の外まで送りますよ」
「ありがとう……」
お礼を言ったその顔には、陰りがある。少し気になるが突っ込んでいいものやら……
「別れ難いってか? いいなぁ若くて!」
そこへ、空気を読まないエリオットさんの茶々が入った。
「ホントもう黙っててください!」
私はもう躊躇いもせずに腕を振り被り、風の魔法で彼を椅子から吹き飛ばしてやる。ガタンッ! と大きな音を立てて彼は椅子から転げ落ち、室内はその風で埃が舞い散る。
ちらりとレクチェさんのスカートも捲れて彼女が慌てていたが、大丈夫です。貴女ストッキング履いてますから捲れてもパンツ見えませんよ、えぇ。
「さ、行きましょう」
打ち所悪く伸びてしまっているエリオットさんを放置して、フォウさんの肩を叩く。
「……いいんだ、アレ」
「あれならレクチェさんに何かされる心配もありませんからね!」
そんな私の優しい心遣い。
借りていた部屋は二階に位置しており、私達は螺旋階段をゆっくり降りて宿の玄関口へ向かう。と、そこへルフィーナさんが階段を上がってきた。部屋を取り終えたのだろう。
「あら、帰っちゃうの?」
とても残念そうな顔で彼女は少年を見る。
「あ、はい……」
宿に来てからは圧倒されているのか生返事が多い彼。
だが、そんな返事にも関わらずフォウさんは彼女に対して警戒を怠らない。よほどあのセクハラが衝撃的だったのだろう。
「玄関まで送っていきますね」
「はーい、またね~」
そして、会釈をしながらルフィーナさんとすれ違った。
ロビーは無言で通り過ぎ、そこまで大きくないこの宿だ、あっという間に玄関まで着く。
最近は同い年くらいの人との会話なんて全く無かったので少しだけ名残惜しい気もする。
「フォウさんは、この街にお住まいなんですか?」
別れ際に一応、聞いてみた。
「いや、俺色んなところ一人で旅してるんだ」
「その年でですか!?」
予想と違う返答に、驚きの色を隠せない。
「まぁ、こんなだから。一箇所には居辛いんだよね」
こんな、とはその背にある魔術紋様による能力の事を言っているのだろう。具体的ではないとはいえ、他人を見て色々と勝手に情報を得てしまうのだ。私は凄い力だと思ったけれど、周囲には煙たがられるのかも知れない。
少し曇る私の顔を見て、彼はそれを明るく笑い飛ばす。
「旅してたほうが楽だからいいんだ! こんな変な出会いもあるしね!」
「変って何ですか、もう」
と言いつつ私も一緒に笑う。
が、その後彼は笑うのを止め、私に真剣な面持ちで告げた。
「……言おうか迷ってたんだけど」
「?」
一息だけおいて、彼はその次を語る。
「レクチェって人は何も見えなかったけど、他はクリスも含めて皆の先は曇ってた。特にあのルフィーナって人はよくない」
すぐには返事が出来なかった。
よくない、とはナンダロウ。
「さっきのネックレスは、あの人に身につけさせて。きっと役に立つ時が来る」
「ラッキーアイテム……みたいなものですか?」
「うん、そんな感じに見えた。でもあの人への災いを断つのはクリスだよ。離れないであげて」
本当に、占いのような助言だった。どう捉えていいのか悩んでしまう。
それでも、彼が伝えてくれた事で曇った未来に少しでも晴れ間が射すというのなら。
私は強く、返事をした。
「分かりました、離れません」
「……信じてくれて、ありがとう」
心のつかえが取れたように、優しく微笑む彼。
どちらからともなく最後に軽くハグだけして、別れを告げる。
「またね!」
大きく手を振る彼が人ごみに消えるまで、私は見送った。
更新日:2012-08-17 15:59:20