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挨拶を終えるとごく自然に会話は進んだ。
「……久しぶり、元気にしてたか?」
「あら、エリ君じゃないの。百年ぶりくらいかしら?」
「ゼロが一つ多いっつーの」
怒って本を投げた事すら無かったかのように、コロッと態度を変えるその女性。そしてエリオットさんも本など当たっていないかのように、爽やかに挨拶と突っ込みを入れた。
「あぁ、知り合いだからいいわ。席をはずして頂戴」
「かしこまりました」
少しクセっ毛の、腰まである東雲色の長い髪を揺らして、赤い瞳のエルフの女性は手をひらひらさせながら係の人を外へやる。ババァなどと呼ばれていた割には若い。ヒトで言えば二十代後半くらいの女盛りそうな女性だ。まぁエルフだから確かにエリオットさんからすればババァなのかも知れない。
着ている白いブラウスには品の良い小さなフリル模様がついており、グレーの短いタイトスカートの下は、履いているか分からないくらい肌理の細かい肌色のストッキングに黒いフォーマル靴。いかにも図書館にいそうなお姉様ルックである。
圧倒されている私にエリオットさんが声をかけてくれた。
「あぁ、コレが俺の師匠だ。ルフィーナって言う。ハイエルフだからこう見えてもすんげーババァなんだぜ」
「あ、よろしくお願いします、クリスと言います」
慌ててお辞儀をする。よりによってハイエルフとは……それはババァと呼ぶのも頷ける。エルフの中でも一番長生きな種族だからだ。とまぁ、失礼な事を私は一人で思った。
「えぇ、よろしく。可愛いわね貴方」
言うなりずずいっと近寄ってくるルフィーナさんに私は思わず一歩引く。そんな様子を見てエリオットさんが溜め息まじりに一言忠告してきた。
「クリス、そいつ子供が好きなんだ。気をつけろ」
いや、子供好きは別に悪い事では無いと思うんですけど、気をつけろってどういう意味で……意味を理解し兼ねている私の両手を取りながら、ルフィーナさんはエリオットさんを睨む。
「うるさいわねぇ。あんなに可愛かったのに大きくなってくれちゃってまぁ。あんたなんかもう要らないわよーだ」
そう言うといきなり私を、ぎゅううううううう
「わあああ!?」
思いっきり抱きしめて離さない。
「羨ましくても、エリ君なんてもう抱っこしてあげないから」
「しなくていい」
二人の中では、このやり取りも楽しみの一つなのだろうか。ぶーぶー文句を言っている割にはとても楽しそうに見えた。しかし、私は、いつになったら、離して、貰える、のだろう。
それから程なくして、非公開の書庫に入れてもらえた。公開している本棚と違い、何やらぶっそうなタイトルの本や、とんでもなく価値のありそうな魔法書が並んでいる。
「で、行方くらましてたと思ったらいきなり、何の用かしら?」
ルフィーナさんは書籍に埋もれた机を掘り出して、何とか出来たスペースに用意した紅茶を置いて本題を切り出した。
「あぁ、ちょっと傷を診てほしいんだ」
「……あたし、医者じゃないわよ?」
「まぁ診れば言いたい事は伝わるさ」
そう言うとエリオットさんは先日私に見せた時のように脱ぐ。何度見ても慣れそうにないその傷は、先日よりも酷くなっているようだった。傷を見るなり目の色を変えたルフィーナさんは、傷をまじまじと見た後に小さく呟く。
「よりによってまぁ……」
「ん? 何か知ってるのか?」
エリオットさんがその呟きに問い返すが、ルフィーナさんは静かに頭を振って、
「いいえ、今の私に言える事は無いわ。とりあえずあった事を全部話しなさい」
真剣な目で、エリオットさんに強く言った。
「……久しぶり、元気にしてたか?」
「あら、エリ君じゃないの。百年ぶりくらいかしら?」
「ゼロが一つ多いっつーの」
怒って本を投げた事すら無かったかのように、コロッと態度を変えるその女性。そしてエリオットさんも本など当たっていないかのように、爽やかに挨拶と突っ込みを入れた。
「あぁ、知り合いだからいいわ。席をはずして頂戴」
「かしこまりました」
少しクセっ毛の、腰まである東雲色の長い髪を揺らして、赤い瞳のエルフの女性は手をひらひらさせながら係の人を外へやる。ババァなどと呼ばれていた割には若い。ヒトで言えば二十代後半くらいの女盛りそうな女性だ。まぁエルフだから確かにエリオットさんからすればババァなのかも知れない。
着ている白いブラウスには品の良い小さなフリル模様がついており、グレーの短いタイトスカートの下は、履いているか分からないくらい肌理の細かい肌色のストッキングに黒いフォーマル靴。いかにも図書館にいそうなお姉様ルックである。
圧倒されている私にエリオットさんが声をかけてくれた。
「あぁ、コレが俺の師匠だ。ルフィーナって言う。ハイエルフだからこう見えてもすんげーババァなんだぜ」
「あ、よろしくお願いします、クリスと言います」
慌ててお辞儀をする。よりによってハイエルフとは……それはババァと呼ぶのも頷ける。エルフの中でも一番長生きな種族だからだ。とまぁ、失礼な事を私は一人で思った。
「えぇ、よろしく。可愛いわね貴方」
言うなりずずいっと近寄ってくるルフィーナさんに私は思わず一歩引く。そんな様子を見てエリオットさんが溜め息まじりに一言忠告してきた。
「クリス、そいつ子供が好きなんだ。気をつけろ」
いや、子供好きは別に悪い事では無いと思うんですけど、気をつけろってどういう意味で……意味を理解し兼ねている私の両手を取りながら、ルフィーナさんはエリオットさんを睨む。
「うるさいわねぇ。あんなに可愛かったのに大きくなってくれちゃってまぁ。あんたなんかもう要らないわよーだ」
そう言うといきなり私を、ぎゅううううううう
「わあああ!?」
思いっきり抱きしめて離さない。
「羨ましくても、エリ君なんてもう抱っこしてあげないから」
「しなくていい」
二人の中では、このやり取りも楽しみの一つなのだろうか。ぶーぶー文句を言っている割にはとても楽しそうに見えた。しかし、私は、いつになったら、離して、貰える、のだろう。
それから程なくして、非公開の書庫に入れてもらえた。公開している本棚と違い、何やらぶっそうなタイトルの本や、とんでもなく価値のありそうな魔法書が並んでいる。
「で、行方くらましてたと思ったらいきなり、何の用かしら?」
ルフィーナさんは書籍に埋もれた机を掘り出して、何とか出来たスペースに用意した紅茶を置いて本題を切り出した。
「あぁ、ちょっと傷を診てほしいんだ」
「……あたし、医者じゃないわよ?」
「まぁ診れば言いたい事は伝わるさ」
そう言うとエリオットさんは先日私に見せた時のように脱ぐ。何度見ても慣れそうにないその傷は、先日よりも酷くなっているようだった。傷を見るなり目の色を変えたルフィーナさんは、傷をまじまじと見た後に小さく呟く。
「よりによってまぁ……」
「ん? 何か知ってるのか?」
エリオットさんがその呟きに問い返すが、ルフィーナさんは静かに頭を振って、
「いいえ、今の私に言える事は無いわ。とりあえずあった事を全部話しなさい」
真剣な目で、エリオットさんに強く言った。
更新日:2011-06-20 17:26:27