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ツィバルドで借りていた馬を返し、とりあえず情報収集をする事になった。姉の顔は指名手配によってそれなりに目立つ、多分顔は隠して行動しているだろうから尋ねる時に使う特徴はあの大きな剣になる。
流石に街中で戦闘にはならないだろう、と二手に分かれて行動となった。勿論、私はエリオットさんとセットにさせられる。が……
「俺一人でいいし、お前も一人でいいだろ」
と、エリオットさんは勝手に一人で歩いて行ってしまった。まぁ私も一人で問題無いので特に気にせず人ごみに溶け込んだ。
しばらく情報収集を置いてぼーっと街の見物に耽っていると、ふと通り過ぎる人並みの中に目を引く人物が居て思わず姿を追ってしまった。
三つ目、か……
少し首元で刈り上げられている青褐の髪は、センター分けで大きく額を出している。そしてその額には、大きな第三の目。知られていないわけではないが、比較的見かけるのは珍しい劣勢種族だ。その理由は他の血に負けてしまう為、異種族間で子を成すとその特徴である第三の目は受け継がれないからである。
「!」
そんな彼と、ふと目が合う。
私と同じくらい、いや少し上か。まだ幼さが抜けきっていないその顔は額の目を除けばよく整っていた。白い立て襟のシャツにベビーブルーのリボンが締められ、最後に小気味良く銀のピンで留められている。
肩から鳩尾くらいまでの長さのコバルトのマントジャケットはシンプルな七分袖で、前はボタンで留められるようになっているが一番上のボタンだけしか留めていないので歩くとひらりとマントが揺れた。
少年はその漆黒の半ズボンから綺麗な太腿をこの冷たい空気に晒け出して、人ごみの中こちらにゆっくり近づいてくる。
視線を合わせ過ぎたか、私はふぃっと顔を彼から逸らして去ろうとする、が、
私が視線を外した瞬間に腰のポーチを奪われてしまった。
「なっ!?」
そして彼は人ごみにまた潜り込み、私は一瞬にして見失う。
まさかこんな堂々としたスリがあるだなんて思いもせず、一瞬呆然としてしまったがすぐに気を取り直して追いかけた。方向だけが頼りだ。
「もーっ!!!」
こうして、追いかけっこが始まる。
「はぁっ……」
街外れにいる私はすっかり熱くなった体を上下に揺らしながら息を吐いた。
街中を探したのだがちっとも見つからない、影一つ追えやしない。まさかもう街の外へ出てしまったのだろうか、そんな外へ出られるほどの荷は持っていなかったように思うのだが……
取り返すのはもう絶望的か、と肩を落として私はまた街の中に戻ろうとする。そこへエリオットさんが同じく息を切らしてやってきた。
「おま、何で走り回ってるんだよ、何かあったのか……っ」
どうやら私を見かけて勘違いして追ってきたらしい。
「いえ、実は……」
そして説明する。
「三つ目の子どもか、それ見たな」
「どどどど、どこでですか!?」
「酒場」
エリオットさんに案内され酒場へ行くと、酒場には似つかわしくない先程の少年が昼間っから酒を飲んでいた。少年はこちらに気がつくと一瞬顔色を変えたが、すぐにふてぶてしい態度で椅子に座り直す。
「私の持ち物を返してください」
ダンッ! と彼が着いていたテーブル席を叩いて言うと、まだそこまで多くはない周囲の客がこちらに視線を投げかけた。
「さっき俺の事見てたよね? 見世物になってやったんだから貰う物貰っただけだってば」
「ぐっ……」
見世物、と彼は言う。
確かに先にじっと見てしまったのはこちらの方だ。彼のような珍しい種族からすればよくある事であり、そしてとても失礼な事なのだろう。実際お金を取られても文句は言えない。
「けっ、けど! ちょっとそれは高すぎませんか!?」
流石の私もここは食い下がる。ポーチの中にどれだけの大金が入っていると思っているのだ、全部取られるわけにはいかない。
少年はポーチを手に、私とエリオットさんを交互に見ながら呟いた。
「まぁ、確かに高かったかも」
そしてポーチをこちらに投げ返す。
「何だよクリス、お前が悪かったんじゃないか」
「……確かに一理あります、減った分については咎められる立場では無いでしょう……」
そう言って私は返して貰ったポーチを腰に着ける、があまりの軽さにびっくりしてしまった。まさかと思ってポーチを開けるとそこにはライトさんから貰ったネックレスが無い。
慌てて三つ目の少年を見ると、涼しい顔。キッと睨みつけると肩をすくめてジョッキを飲み干す。この若さで既にいい飲みっぷりなのが腹立たしい。
「お金よりネックレスのほうが大事だった?」
流石に街中で戦闘にはならないだろう、と二手に分かれて行動となった。勿論、私はエリオットさんとセットにさせられる。が……
「俺一人でいいし、お前も一人でいいだろ」
と、エリオットさんは勝手に一人で歩いて行ってしまった。まぁ私も一人で問題無いので特に気にせず人ごみに溶け込んだ。
しばらく情報収集を置いてぼーっと街の見物に耽っていると、ふと通り過ぎる人並みの中に目を引く人物が居て思わず姿を追ってしまった。
三つ目、か……
少し首元で刈り上げられている青褐の髪は、センター分けで大きく額を出している。そしてその額には、大きな第三の目。知られていないわけではないが、比較的見かけるのは珍しい劣勢種族だ。その理由は他の血に負けてしまう為、異種族間で子を成すとその特徴である第三の目は受け継がれないからである。
「!」
そんな彼と、ふと目が合う。
私と同じくらい、いや少し上か。まだ幼さが抜けきっていないその顔は額の目を除けばよく整っていた。白い立て襟のシャツにベビーブルーのリボンが締められ、最後に小気味良く銀のピンで留められている。
肩から鳩尾くらいまでの長さのコバルトのマントジャケットはシンプルな七分袖で、前はボタンで留められるようになっているが一番上のボタンだけしか留めていないので歩くとひらりとマントが揺れた。
少年はその漆黒の半ズボンから綺麗な太腿をこの冷たい空気に晒け出して、人ごみの中こちらにゆっくり近づいてくる。
視線を合わせ過ぎたか、私はふぃっと顔を彼から逸らして去ろうとする、が、
私が視線を外した瞬間に腰のポーチを奪われてしまった。
「なっ!?」
そして彼は人ごみにまた潜り込み、私は一瞬にして見失う。
まさかこんな堂々としたスリがあるだなんて思いもせず、一瞬呆然としてしまったがすぐに気を取り直して追いかけた。方向だけが頼りだ。
「もーっ!!!」
こうして、追いかけっこが始まる。
「はぁっ……」
街外れにいる私はすっかり熱くなった体を上下に揺らしながら息を吐いた。
街中を探したのだがちっとも見つからない、影一つ追えやしない。まさかもう街の外へ出てしまったのだろうか、そんな外へ出られるほどの荷は持っていなかったように思うのだが……
取り返すのはもう絶望的か、と肩を落として私はまた街の中に戻ろうとする。そこへエリオットさんが同じく息を切らしてやってきた。
「おま、何で走り回ってるんだよ、何かあったのか……っ」
どうやら私を見かけて勘違いして追ってきたらしい。
「いえ、実は……」
そして説明する。
「三つ目の子どもか、それ見たな」
「どどどど、どこでですか!?」
「酒場」
エリオットさんに案内され酒場へ行くと、酒場には似つかわしくない先程の少年が昼間っから酒を飲んでいた。少年はこちらに気がつくと一瞬顔色を変えたが、すぐにふてぶてしい態度で椅子に座り直す。
「私の持ち物を返してください」
ダンッ! と彼が着いていたテーブル席を叩いて言うと、まだそこまで多くはない周囲の客がこちらに視線を投げかけた。
「さっき俺の事見てたよね? 見世物になってやったんだから貰う物貰っただけだってば」
「ぐっ……」
見世物、と彼は言う。
確かに先にじっと見てしまったのはこちらの方だ。彼のような珍しい種族からすればよくある事であり、そしてとても失礼な事なのだろう。実際お金を取られても文句は言えない。
「けっ、けど! ちょっとそれは高すぎませんか!?」
流石の私もここは食い下がる。ポーチの中にどれだけの大金が入っていると思っているのだ、全部取られるわけにはいかない。
少年はポーチを手に、私とエリオットさんを交互に見ながら呟いた。
「まぁ、確かに高かったかも」
そしてポーチをこちらに投げ返す。
「何だよクリス、お前が悪かったんじゃないか」
「……確かに一理あります、減った分については咎められる立場では無いでしょう……」
そう言って私は返して貰ったポーチを腰に着ける、があまりの軽さにびっくりしてしまった。まさかと思ってポーチを開けるとそこにはライトさんから貰ったネックレスが無い。
慌てて三つ目の少年を見ると、涼しい顔。キッと睨みつけると肩をすくめてジョッキを飲み干す。この若さで既にいい飲みっぷりなのが腹立たしい。
「お金よりネックレスのほうが大事だった?」
更新日:2012-11-27 16:32:16