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挿絵 400*400

「……明日からどうするのか決まってるのか」

 こちらに背を向けたまま、彼はぼんやりと問いかけてきた。

「私に聞くんですか?」

「そりゃそうだろ、俺はルフィーナから説明を受けてないんだぜ」

 む、確かに。
 私は彼の問いかけに答えなくてはいけない。いつもは何となく流されるように歩んできた私だったが、これからは私自身が決めねばならないのか。
 しばらく私は黙って考えていた。
 姉を探すのは勿論だが、こちらにはレクチェさんというルアーのような存在もいる。探しながらも常になるべく周囲に被害が及ばないように旅をしなければいけない。人里から離れるのが難しくなる都会には寄り付かないほうがいいだろう、なるべくなら今現在のようにどこかの街や村で泊まるというのも避けたほうがいいかも知れない。

「とにかく当てもなく姉さんを探すだけですねぇ。あと、戦闘になった時に迷惑がかからないようになるべく野宿した方がいいかも知れません」

「ほとんど今まで通りじゃねーか」

 何も変わらない状況に、不満そうに彼は言う。

「ルフィーナさんから話を聞いても現状打破に繋がる有益な情報は無かった、って事ですよ。とにかく今度こそ、剣から姉さんを離したら縛っておくなりしないといけませんね」

「ま、あのミスさえなければどうにかなったもんな」

 それは違う。そんな事したって姉さんはもう元に戻せない。
 精霊の支配が無くなったら姉さんが具体的にどうなるかは分からないが、今の姉さんはただ精霊を滅するだけではどうにもならないのだ。
 エリオットさんにそれを話すに話せないもどかしさに耐えながら、私は天井を向いて小さく呟いた。

「もしも」

「ん?」

 エリオットさんがこちらへ振り返る。

「……もしも、神様に会えたら……一発殴らずには居られませんね」

 自分でもどういう顔をして言っていたかよく分からない、ただの恨み言。

「何だよ、信仰心はどうしたんだ。法衣を脱いだ途端に無宗教者か?」

 そう、横で鼻で笑われる。私はエリオットさんの方に顔を向けて彼としっかり目を合わせると、低く静かに告げた。

「都合が良い時は崇められ、悪い時は罵られる、そういうものですよ。それに私は存在はまだ信じています……憎悪の対象としてですがね」

 目は逸らさない。返事も無い。彼は私をじっと観察していたが、やがて諦めたように天井を仰いで大の字になった。

「俺は無宗教だから理解出来ねぇわ」

「それでいいですよ」

 神と女神を恨むなど、私だけで充分だ。
 その穢れた身に相応しい感情を胸に抱きながら、私は静かに目を閉じた。

【第八章 告白 ~悪魔は神に喧嘩を売る~ 完】

更新日:2012-02-27 15:52:53

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