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何やら色々騒がしかったとは思うが、無事に? お風呂を済ませて家に戻ってくるとルフィーナさんがこちらを見て怪訝な顔をする。
「……エリ君は服着たままお風呂入ったの?」
ですよねー。
「いや、違うけど……」
コートをぐっしょり濡らして室内に水を滴らせる彼は、どう説明したものかと言葉を詰まらせた。
絞ると形が悪くなってしまうからか、仕方なくそれをそのままハンガーにかけて暖炉の傍で乾かし始める。流石にコートの下までは濡れていないようで、あとは髪の毛だけ乾かせばよさそうだった。
彼の言葉の濁し具合に何やら察した様子のルフィーナさんは、コートと髪の毛を乾かし始める彼を見ながら溜め息一つ。
「自分から言わないって事は原因はエリ君で、それに怒ったクリスにお湯かけられたってところかしらね」
「正解です」
私は一言返事をして、使い終わったタオルを一まとめにしてカゴに入れておいた。
私の髪も濡れてはいるがきちんと拭いているので、少し待てば乾くだろう。エリオットさんの場合は、拭いた後に濡らされたからあの状態なのである。自業自得だ。
ルフィーナさんは髪を乾かすエリオットさんを何故かじーっと見たままお風呂に行こうとしなくて、レクチェさんがいそいそと準備を始めながらそんなルフィーナさんに声を掛けた。
「私達もお風呂行きましょうかっ」
声を掛けられハッとした表情になるルフィーナさん。
「どうかしたんですか?」
思わず聞いてしまう私に、彼女は笑いながら答える。
「いや、ね。エリ君って髪濡れてるとお兄さんにそっくりなのよー。おかしくておかしくて」
「濡れてるとそっくり、ですか。あー……」
お兄さんは見たことが無いが、今のエリオットさんは普段の緩やかなクセッ毛が濡れて真っ直ぐになっている。
宿屋ではよく見ていたし乾くとすぐ戻るので気にしていなかったが、確かに髪を濡らすと彼の雰囲気は変わっていた。
「下の兄貴は無駄に髪を矯正してたからな。無、駄、に」
「私濡れてる方が好きかもです」
「何だって!?」
レクチェさんの反応からするとクセッ毛の矯正は無駄ではないのかも知れなくて、エリオットさんはその好反応に驚愕する。
「いつもより若く見えますよっ」
「……俺そこまで老けてないんだけど……」
苦笑いをしながら彼は軽く髪を乾かし終えた。まだ芯まで乾いてはいないのか、いつも通りのクセッ毛にまでは戻っていない。ほんのり髪が伸びたような感じになっている。
「多分発言や態度が親父臭いから老けてみえるんでしょうね」
「俺のどこが親父臭いんだよ!!」
エリオットさんが私の言葉に喰って掛かってくるので、その答えをきっちり提言してやることにした。
「セクハラ発言や視線が、恥を捨て始めた中年っぽいです」
「うぐぎぎぎぎ」
反論も肯定の言葉も出ないが、そこはロクでも無い大人だ。自分の欠点を認められないだけだろう。
「さ、お風呂行こうかしらね。覗いたらブチ殺すわよー」
悶えているエリオットさんにそれだけ言い残して、二人はお風呂へ向かった。
私はお風呂で騒いだせいかやや眠いので、ベッドの方が気になって見てみる。
食事などをしたテーブルがある位置より少し端にカーテンで仕切られていたスペースがあり、その内側は予想通り簡素なベッドが置いてあった。ベッドは丁度四つで、なるほどこれは確かに私達が増えてはお婆さんが出るしかない。
追い出して良かったのかと心配にもなるが、ルフィーナさんが気に留めている様子が無いのでここは甘えておこう。
私は端のベッドに腰を掛け、そのまま毛布を掛けずに枕に頭を乗せた。
「もう寝るのか?」
カーテンを少し引いてこちらの様子を伺っているのはエリオットさん。
「少し、眠いです」
「何だよお前が先に寝たら誰が俺を見張るんだ」
「何の為に!?」
眠い私は全身全霊でうざい気持ちを露にしたが、それを気にする様子などこれっぽっちもなく彼は続ける。
「風呂もそうだけど、この通り同じ部屋で寝るなんて滅多に無いからなぁ。ちょっと他のベッドに入りたくなるよな!」
「なりません」
「声を押し殺して他に気付かれないように、ってのもそそるものがあると思うんだよ!」
「思いません」
「っ、お前は男のロマンってヤツが分からんのか!」
「分かりません」
私の即答に何やら悔しそうな顔をしつつ、それ以後は会話を続けなかった。
チッ、とつまらなそうに舌打ちをして私の隣のベッドに寝転がり、私とは反対方向に顔を向けて横になる。
「……エリ君は服着たままお風呂入ったの?」
ですよねー。
「いや、違うけど……」
コートをぐっしょり濡らして室内に水を滴らせる彼は、どう説明したものかと言葉を詰まらせた。
絞ると形が悪くなってしまうからか、仕方なくそれをそのままハンガーにかけて暖炉の傍で乾かし始める。流石にコートの下までは濡れていないようで、あとは髪の毛だけ乾かせばよさそうだった。
彼の言葉の濁し具合に何やら察した様子のルフィーナさんは、コートと髪の毛を乾かし始める彼を見ながら溜め息一つ。
「自分から言わないって事は原因はエリ君で、それに怒ったクリスにお湯かけられたってところかしらね」
「正解です」
私は一言返事をして、使い終わったタオルを一まとめにしてカゴに入れておいた。
私の髪も濡れてはいるがきちんと拭いているので、少し待てば乾くだろう。エリオットさんの場合は、拭いた後に濡らされたからあの状態なのである。自業自得だ。
ルフィーナさんは髪を乾かすエリオットさんを何故かじーっと見たままお風呂に行こうとしなくて、レクチェさんがいそいそと準備を始めながらそんなルフィーナさんに声を掛けた。
「私達もお風呂行きましょうかっ」
声を掛けられハッとした表情になるルフィーナさん。
「どうかしたんですか?」
思わず聞いてしまう私に、彼女は笑いながら答える。
「いや、ね。エリ君って髪濡れてるとお兄さんにそっくりなのよー。おかしくておかしくて」
「濡れてるとそっくり、ですか。あー……」
お兄さんは見たことが無いが、今のエリオットさんは普段の緩やかなクセッ毛が濡れて真っ直ぐになっている。
宿屋ではよく見ていたし乾くとすぐ戻るので気にしていなかったが、確かに髪を濡らすと彼の雰囲気は変わっていた。
「下の兄貴は無駄に髪を矯正してたからな。無、駄、に」
「私濡れてる方が好きかもです」
「何だって!?」
レクチェさんの反応からするとクセッ毛の矯正は無駄ではないのかも知れなくて、エリオットさんはその好反応に驚愕する。
「いつもより若く見えますよっ」
「……俺そこまで老けてないんだけど……」
苦笑いをしながら彼は軽く髪を乾かし終えた。まだ芯まで乾いてはいないのか、いつも通りのクセッ毛にまでは戻っていない。ほんのり髪が伸びたような感じになっている。
「多分発言や態度が親父臭いから老けてみえるんでしょうね」
「俺のどこが親父臭いんだよ!!」
エリオットさんが私の言葉に喰って掛かってくるので、その答えをきっちり提言してやることにした。
「セクハラ発言や視線が、恥を捨て始めた中年っぽいです」
「うぐぎぎぎぎ」
反論も肯定の言葉も出ないが、そこはロクでも無い大人だ。自分の欠点を認められないだけだろう。
「さ、お風呂行こうかしらね。覗いたらブチ殺すわよー」
悶えているエリオットさんにそれだけ言い残して、二人はお風呂へ向かった。
私はお風呂で騒いだせいかやや眠いので、ベッドの方が気になって見てみる。
食事などをしたテーブルがある位置より少し端にカーテンで仕切られていたスペースがあり、その内側は予想通り簡素なベッドが置いてあった。ベッドは丁度四つで、なるほどこれは確かに私達が増えてはお婆さんが出るしかない。
追い出して良かったのかと心配にもなるが、ルフィーナさんが気に留めている様子が無いのでここは甘えておこう。
私は端のベッドに腰を掛け、そのまま毛布を掛けずに枕に頭を乗せた。
「もう寝るのか?」
カーテンを少し引いてこちらの様子を伺っているのはエリオットさん。
「少し、眠いです」
「何だよお前が先に寝たら誰が俺を見張るんだ」
「何の為に!?」
眠い私は全身全霊でうざい気持ちを露にしたが、それを気にする様子などこれっぽっちもなく彼は続ける。
「風呂もそうだけど、この通り同じ部屋で寝るなんて滅多に無いからなぁ。ちょっと他のベッドに入りたくなるよな!」
「なりません」
「声を押し殺して他に気付かれないように、ってのもそそるものがあると思うんだよ!」
「思いません」
「っ、お前は男のロマンってヤツが分からんのか!」
「分かりません」
私の即答に何やら悔しそうな顔をしつつ、それ以後は会話を続けなかった。
チッ、とつまらなそうに舌打ちをして私の隣のベッドに寝転がり、私とは反対方向に顔を向けて横になる。
更新日:2012-02-27 15:51:44