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女神の遺産 ~凸凹な彼と私の素性~
◇◇◇ ◇◇◇
スーベラからフィルまではのんびり歩いて三日程で着いた。最初は少し不安だったけれど、慣れてみれば何て事は無い。私のハイセンスなジョークにエリオットさんが時々緑の髪を振り乱して激昂する程度で、それ以外は役割もうまく決めながら進めたと思う。
ちなみにフィルはアズ地域では一番王都に近い街となる。なのでそれなりの規模の、物流も良い住み心地の良い街と言えるだろう。
街についてからまずエリオットさんは案内の看板を見て目的地を見つけると、その中性的ではあるがどちらかといえば男らしい淡白な顔を、少し幼く見せるような笑顔に変えてその場所を指した。
「ここだぜ」
その指の先には、『フィル王立図書館』の文字が書かれていた。
「エリオットさんの師匠という方は、盗賊の師匠では無いのですね」
見上げると首が痛くなるくらいの建物を前に、圧倒されてしまう。壁の端から端まで見事な彫絵の装飾がなされ、いつまで見ていても飽きなさそうな外観だ。
「流石に俺にはそんなものの師匠は居ないな」
彼はゆるいウェーブがかかった前髪を少し掻きあげながらそう言い、重そうな図書館の扉を引き開ける。中に入ると王立だけあって、膨大な量の本と人。私はどちらかと言えば田舎の出なので、この量には少し目眩を覚えた。広々とした館内の床には渋めの赤の絨毯が敷き詰められ、どこかのお屋敷なのではと思ってしまう。
「どっかで本漁ってるんじゃないかとは思うんだけどなー……」
そう言ってその翡翠色の瞳があたりをくまなく映した後、諦めてエリオットさんは係の人に聞いていた。
彼は貴金属やマントを身に纏っていてパッと見だけは育ちが良さそうには見えるので、この豪勢な図書館にいても違和感がする事は無かった。細部を見ると実は薄汚れて解れたりしている法衣を着ている自分が少し恥ずかしく、正直な所ここは居心地が悪い。
と、エリオットさんが一旦係の人との話を終える。後ろで掻い摘んで聞いていたが、探し人はどうやら非公開の書庫に居るらしい。案内をして貰い、館の奥まで進む。
「ルフィーナさーん、お客様ですがお通しても宜しいでしょうかー?」
係の人が扉にノックをしながら少し強く声を出した。
『んー誰かしらー?』
うぇぇ、エリオットさんの師匠って女性なのか。てっきり男性かなとか思っていたのに。扉の奥、少し遠めからどちらかといえばハスキーな声がした。
「あー、俺だ俺ー! いいから開けろー!!」
扉越しにとんでもなく失礼な呼び方をするエリオットさん。師匠じゃないのだろうか。
『俺じゃわかんないわよー!』
そりゃそうでしょうね。
「申し訳ございませんお客様、お名前を教えて頂いてもよろしいでしょうか?」
見かねた係の人が、おそるおそる声をかけた。しかし、この後耳を疑う言葉を聞く事になる。
「いやだ!」
係の人は勿論、私も開いた口が塞がらない。
「さっさと開けろババァー!!!!」
何を言っているんだこの人は。何か名乗りたくない理由でもあるのだろうか。程なくして、バタンと勢いよく扉が開いた。同時に飛んでくるぶ厚い本。それはエリオットさんの頭に直撃し、何故か避けようとしなかったエリオットさんは痛みに耐えながら、扉の中から出てきた女性に挨拶をした。
「よう」
スーベラからフィルまではのんびり歩いて三日程で着いた。最初は少し不安だったけれど、慣れてみれば何て事は無い。私のハイセンスなジョークにエリオットさんが時々緑の髪を振り乱して激昂する程度で、それ以外は役割もうまく決めながら進めたと思う。
ちなみにフィルはアズ地域では一番王都に近い街となる。なのでそれなりの規模の、物流も良い住み心地の良い街と言えるだろう。
街についてからまずエリオットさんは案内の看板を見て目的地を見つけると、その中性的ではあるがどちらかといえば男らしい淡白な顔を、少し幼く見せるような笑顔に変えてその場所を指した。
「ここだぜ」
その指の先には、『フィル王立図書館』の文字が書かれていた。
「エリオットさんの師匠という方は、盗賊の師匠では無いのですね」
見上げると首が痛くなるくらいの建物を前に、圧倒されてしまう。壁の端から端まで見事な彫絵の装飾がなされ、いつまで見ていても飽きなさそうな外観だ。
「流石に俺にはそんなものの師匠は居ないな」
彼はゆるいウェーブがかかった前髪を少し掻きあげながらそう言い、重そうな図書館の扉を引き開ける。中に入ると王立だけあって、膨大な量の本と人。私はどちらかと言えば田舎の出なので、この量には少し目眩を覚えた。広々とした館内の床には渋めの赤の絨毯が敷き詰められ、どこかのお屋敷なのではと思ってしまう。
「どっかで本漁ってるんじゃないかとは思うんだけどなー……」
そう言ってその翡翠色の瞳があたりをくまなく映した後、諦めてエリオットさんは係の人に聞いていた。
彼は貴金属やマントを身に纏っていてパッと見だけは育ちが良さそうには見えるので、この豪勢な図書館にいても違和感がする事は無かった。細部を見ると実は薄汚れて解れたりしている法衣を着ている自分が少し恥ずかしく、正直な所ここは居心地が悪い。
と、エリオットさんが一旦係の人との話を終える。後ろで掻い摘んで聞いていたが、探し人はどうやら非公開の書庫に居るらしい。案内をして貰い、館の奥まで進む。
「ルフィーナさーん、お客様ですがお通しても宜しいでしょうかー?」
係の人が扉にノックをしながら少し強く声を出した。
『んー誰かしらー?』
うぇぇ、エリオットさんの師匠って女性なのか。てっきり男性かなとか思っていたのに。扉の奥、少し遠めからどちらかといえばハスキーな声がした。
「あー、俺だ俺ー! いいから開けろー!!」
扉越しにとんでもなく失礼な呼び方をするエリオットさん。師匠じゃないのだろうか。
『俺じゃわかんないわよー!』
そりゃそうでしょうね。
「申し訳ございませんお客様、お名前を教えて頂いてもよろしいでしょうか?」
見かねた係の人が、おそるおそる声をかけた。しかし、この後耳を疑う言葉を聞く事になる。
「いやだ!」
係の人は勿論、私も開いた口が塞がらない。
「さっさと開けろババァー!!!!」
何を言っているんだこの人は。何か名乗りたくない理由でもあるのだろうか。程なくして、バタンと勢いよく扉が開いた。同時に飛んでくるぶ厚い本。それはエリオットさんの頭に直撃し、何故か避けようとしなかったエリオットさんは痛みに耐えながら、扉の中から出てきた女性に挨拶をした。
「よう」
更新日:2011-06-09 19:10:07