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私の心中を察してか、ルフィーナさんは少しだけそのフォローに話題を逸らす。
「神と女神の存在や対立が事実かどうかは、まだ証明はされていないわ。あくまで仮定として研究を進めていただけなの。他の人と同じように生きてきた貴方が自分の存在に疑問を持つ必要など、無いわ」
「そう、ですね……」
それでも気持ちが落ち着かない私の重苦しい返事に、彼女はその苦悩をも包み込むような優しげな笑みでこう言った。
「貴方が自分の中に感じている敵意とやらも、獣人と鳥人が仲悪いみたいな、そんな程度かもよ。種族間での仲違いは別に他にも沢山あるでしょう」
「そ、そうですね!」
私はルフィーナさんの二つ目の言葉にようやく心を溶かして元気な返事をする事が出来た。
そうだ、括りが大きかったから戸惑ったけれど、世の中には喧嘩ばかりしている種族が沢山あるのだ。
「どんなに仲が悪い種族同士だったとしても、それに自分が当てはまらなければいいだけですよね!」
「そうそう、だからレクチェに手を出しちゃダメよー」
何かさり気なく釘を刺されたけれど、深く考えるのはよしておこう。
ルフィーナさんは笑顔でそう言ったが、一つ間を置いてからその眼差しはガラリと真剣なものに変わる。
「で、あの時あれが何故最善だったか、ね」
「!」
すっかりさっぱり忘れていたので話題を戻されてビクッとしてしまった。エリオットさんは随分怒っていたが、この流れでいくとルフィーナさんにもちゃんと考えがあったのかも知れない。
私は息を飲んでその次の言葉に耳を傾ける。
「確かに私はあの時貴方のお姉さんを救えないだろうと予想はしていたわ。あの大剣を持ってから時間が掛かりすぎてる、いつもそうだったの」
「いつも、ですか?」
「あの大剣は、希少なサラの末裔の、更に少ない研究の賛同者をよく食い潰していたから……」
研究の間にも同じような事が何度か繰り返されていた、という事か。随分物騒な剣だ、はた迷惑にも程がある。
「困ったさんなんですね」
率直にコメントしてみた。
その私の言葉にルフィーナさんは苦笑だけして、続きを話す。
「それでもね、救えなくとも大剣とお姉さんを離してしまえば今の惨状は打破出来るはずだったのよ。所詮は手に持たない限り大きな力は出せないからね」
「確かに……」
「けれどあの時、再度お姉さんの手に渡ってしまった。私がしっかり止めていればよかったんでしょうけど、私も全てを知っているわけじゃないから、お姉さんが本当に無事に解放されたのかも、と少しは思っちゃったのよ」
聞きながら私はあの時の姉の様子を思い出す。
まさかあのダインという精霊が姉の素振りの真似をするなどと思いもしなかった……柔軟で狡猾な、今の私の最大の敵。僅かだが憎しみで眉が寄る。
「で、槍を持っていない貴方と、大剣を持ったお姉さんとの対決結果は火を見るより明らかよね? だからあの大剣の精霊の気を引こうと思ったの」
逃げることで気を引く……? よく分からない顔をする私に気付き、ルフィーナさんはそのまま説明をする。
「結局貴方のその槍もあの大剣も、神との敵対が根幹にインプットされているわけ。つまりあの剣の一番の狙いは、他でも無いレクチェなのよ」
「……!!」
ルフィーナさんはダインの狙いであるレクチェさんを逃がす事で気を引いた、と言う。それは逃げたというよりはもはや囮になった、という言い方のほうが適切だった。
申し訳なさで私の表情がやや曇る。
「そんな気にしないでいいのよ。あの場に居たら居たでやっぱり危ないし、貴方達の為だけでなくこちらとしても逃げるのが最善だったんだから」
「はい……」
私の弱い返事で、この話題は終了した。飄々と私達が来るのを待っていたのもこれで納得出来る。
でも私達がここに来なかったら彼女達はどうしていたのだろう? いや、私には分からないだけでルフィーナさんは弟子の考えを見越して、来るであろうと確信していたのかも知れない。その弟子が、誤解をすることまで予測した上で……
「エリ君には話さないでね。あんまり過去を詮索されたくないの」
「えっ? あぁ、分かりました。言いませんよ」
素直に承諾する。
というのも、これらを話してしまうと私としても都合が悪いからだ。
「ルフィーナさんも言わないでくださいね、特に姉さんが助からないかも知れない事を」
私の快諾っぷりに少し疑問を浮かべたような表情だったが、後に続いた私の発言で彼女は全てを把握したようだ。
「……そう、貴方だけで背負うつもりなのね」
静かに優しく、語りかけているのにまるで独白のような彼女の呟きに感情を止めて答える。
「少し前に、覚悟は出来ていますから」
「神と女神の存在や対立が事実かどうかは、まだ証明はされていないわ。あくまで仮定として研究を進めていただけなの。他の人と同じように生きてきた貴方が自分の存在に疑問を持つ必要など、無いわ」
「そう、ですね……」
それでも気持ちが落ち着かない私の重苦しい返事に、彼女はその苦悩をも包み込むような優しげな笑みでこう言った。
「貴方が自分の中に感じている敵意とやらも、獣人と鳥人が仲悪いみたいな、そんな程度かもよ。種族間での仲違いは別に他にも沢山あるでしょう」
「そ、そうですね!」
私はルフィーナさんの二つ目の言葉にようやく心を溶かして元気な返事をする事が出来た。
そうだ、括りが大きかったから戸惑ったけれど、世の中には喧嘩ばかりしている種族が沢山あるのだ。
「どんなに仲が悪い種族同士だったとしても、それに自分が当てはまらなければいいだけですよね!」
「そうそう、だからレクチェに手を出しちゃダメよー」
何かさり気なく釘を刺されたけれど、深く考えるのはよしておこう。
ルフィーナさんは笑顔でそう言ったが、一つ間を置いてからその眼差しはガラリと真剣なものに変わる。
「で、あの時あれが何故最善だったか、ね」
「!」
すっかりさっぱり忘れていたので話題を戻されてビクッとしてしまった。エリオットさんは随分怒っていたが、この流れでいくとルフィーナさんにもちゃんと考えがあったのかも知れない。
私は息を飲んでその次の言葉に耳を傾ける。
「確かに私はあの時貴方のお姉さんを救えないだろうと予想はしていたわ。あの大剣を持ってから時間が掛かりすぎてる、いつもそうだったの」
「いつも、ですか?」
「あの大剣は、希少なサラの末裔の、更に少ない研究の賛同者をよく食い潰していたから……」
研究の間にも同じような事が何度か繰り返されていた、という事か。随分物騒な剣だ、はた迷惑にも程がある。
「困ったさんなんですね」
率直にコメントしてみた。
その私の言葉にルフィーナさんは苦笑だけして、続きを話す。
「それでもね、救えなくとも大剣とお姉さんを離してしまえば今の惨状は打破出来るはずだったのよ。所詮は手に持たない限り大きな力は出せないからね」
「確かに……」
「けれどあの時、再度お姉さんの手に渡ってしまった。私がしっかり止めていればよかったんでしょうけど、私も全てを知っているわけじゃないから、お姉さんが本当に無事に解放されたのかも、と少しは思っちゃったのよ」
聞きながら私はあの時の姉の様子を思い出す。
まさかあのダインという精霊が姉の素振りの真似をするなどと思いもしなかった……柔軟で狡猾な、今の私の最大の敵。僅かだが憎しみで眉が寄る。
「で、槍を持っていない貴方と、大剣を持ったお姉さんとの対決結果は火を見るより明らかよね? だからあの大剣の精霊の気を引こうと思ったの」
逃げることで気を引く……? よく分からない顔をする私に気付き、ルフィーナさんはそのまま説明をする。
「結局貴方のその槍もあの大剣も、神との敵対が根幹にインプットされているわけ。つまりあの剣の一番の狙いは、他でも無いレクチェなのよ」
「……!!」
ルフィーナさんはダインの狙いであるレクチェさんを逃がす事で気を引いた、と言う。それは逃げたというよりはもはや囮になった、という言い方のほうが適切だった。
申し訳なさで私の表情がやや曇る。
「そんな気にしないでいいのよ。あの場に居たら居たでやっぱり危ないし、貴方達の為だけでなくこちらとしても逃げるのが最善だったんだから」
「はい……」
私の弱い返事で、この話題は終了した。飄々と私達が来るのを待っていたのもこれで納得出来る。
でも私達がここに来なかったら彼女達はどうしていたのだろう? いや、私には分からないだけでルフィーナさんは弟子の考えを見越して、来るであろうと確信していたのかも知れない。その弟子が、誤解をすることまで予測した上で……
「エリ君には話さないでね。あんまり過去を詮索されたくないの」
「えっ? あぁ、分かりました。言いませんよ」
素直に承諾する。
というのも、これらを話してしまうと私としても都合が悪いからだ。
「ルフィーナさんも言わないでくださいね、特に姉さんが助からないかも知れない事を」
私の快諾っぷりに少し疑問を浮かべたような表情だったが、後に続いた私の発言で彼女は全てを把握したようだ。
「……そう、貴方だけで背負うつもりなのね」
静かに優しく、語りかけているのにまるで独白のような彼女の呟きに感情を止めて答える。
「少し前に、覚悟は出来ていますから」
更新日:2012-11-02 23:00:17