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告白 ~悪魔は神に喧嘩を売る~
「で、ほの、何とかって森には何があふんでふか?」
私は頂いたお握りを汽車の中でもぐもぐ食べながら、目の前に座っている連れに尋ねる。
「ミーミルの森。まさか知らないのかよ、どんだけ知識不足なんだ?」
馬鹿にされているのは分かるが知らないものは知らない、ここは堂々とすべきである、と私は次のお握りを手に取ってから口の中の物を飲み込んで返答した。
「南の地理くらいしか知らないですね、北はさっぱりです」
はぁ、と溜め息をつくエリオットさんは、それから渋々と私の問いに答え始める。
「ハイエルフの住む森だよ」
「エルひゅ! ルフィーナひゃんが……んぐ、そちらに居るかも知れないって事ですか?」
食べながらは流石に喋りにくかったので途中で飲み込んで私はそれを聞いた。すると、
「もう! 今はお握り禁止!」
若干オネエ言葉でエリオットさんは私から紙袋を取り上げてまた話を続ける。
「ツィバルドでルフィーナとレクチェらしき人物の目撃情報が挙がったんだ。そこから行くなら故郷である森かな、と。予測し易い行き先過ぎるが他に行く場所があるとも思えない」
車窓の外は星ひとつ見えない曇り空、だんだん白くなる景色は車内からの明かりのみで薄らと輝いていた。
エリオットさんは私から取り上げた紙袋からお握りを取り出して食べ始める。私に禁止しておいて、なかなかどうして酷い行いである。
指についたご飯粒まできちんと食べ終えてから、彼は話をまた切り出した。
「ルフィーナを他のエルフ達が庇うかも知れない、その時は多少の荒事を覚悟しておいてくれ」
エルフ同士の結束力は他の種族ではなかなか見られないほどの固いものだ。それは確かに考えられる範囲での悪い事態だと、私にも分かる。
しっかりと彼に視線をあわせ、頷きながら
「分かりました……とりあえず残りのお握りをください」
私が現時点でそれよりも大事な要求を伝えると、
「食い意地ばっかり張っててこの子はっ!!」
オネエ言葉というよりはもはやオカン言葉で、エリオットさんは私に突っ込んだのだった。
ツィバルドからは雪道用の大きな馬を借りて森まで進んだ。
耳まで隠れる毛糸の帽子と何重にも編まれた分厚い上着も一緒に購入し、簡単だが防寒対策もしておく……が、やはりマスクも買っておくべきだっただろうか、頬が凍るように冷たい。
周囲の木々の間隔が少しずつ狭まっていき、だんだん森に入って行っているという事を実感させられる。更に北方の森はまだ昼間だというのに薄暗く、あまり生命の息吹を感じられない。
「迷ったらスマン」
馬を走らせながらエリオットさんがぼそりと呟いた。
そう呟きたくもなるくらい、周囲はまるで迷いの森。私にはもはやどちらから来たのか方角すらも定かではなく彼は空の太陽の位置だけで方角を見ながらひた進む。
しかし心配は杞憂だったようだ。やがて木々の間から凍った泉が見え、その先には集落があった。
それを見て安堵の表情を浮かべるエリオットさん。
泉の上で氷上釣りをしているエルフの男性がこちらにふと視線を投げかけたが、特に何をするわけでもなくまた釣り糸に視線を戻す。
「警戒はされていないようですね……」
気張っていた私はやや拍子抜けして言った。
「まぁ、もうここにあいつらが居ないから、という可能性もあるな。とりあえず村を訪ねよう」
馬の手綱を湖畔の木に括りつけて、もそもそと雪を踏みしめ村の方角へ歩く。
村には特に宿のような建物も無く、全てが住居のような外観だった。こんな遠い北方の地では余所者は滅多に来ないからだろう。
エリオットさんはその中でも一番大きめの家に向かい、扉にノックをした。
ギィ、と開いた丸太を繋いだ扉から出てきたのは、ヒトで言う六十代半ばくらいの外見のエルフの女性だった。
「…………」
どなたですかと問う事も無くエリオットさんを正面から黙ってじっと見据えるエルフに、エリオットさんはこちらから先に帽子を脱いで挨拶を切り出した。
「ルフィーナ・ディオメデス先生の弟子の、エリオットと申します。先生が今この村に在住されているかどうかお伺いし……」
そこまでエリオットさんが話したところで、扉が私達を迎えるように大きく開く。
「入りなさい」
「! ……どうも」
呆気なく招かれた家の中はまず大きな暖炉を境にキッチンや居間のスペースが仕切り無く分かれている程度の大きな一室構造になっていて、暖炉の手前に置かれた大きいテーブルを囲んだセピアのソファには……見覚えのある顔ぶれが並んでいた。
「遅かったわねー」
他の誰でもないルフィーナさんと、
「無事だったんですねお二人とも!!」
元気そうなレクチェさんだ。
私は頂いたお握りを汽車の中でもぐもぐ食べながら、目の前に座っている連れに尋ねる。
「ミーミルの森。まさか知らないのかよ、どんだけ知識不足なんだ?」
馬鹿にされているのは分かるが知らないものは知らない、ここは堂々とすべきである、と私は次のお握りを手に取ってから口の中の物を飲み込んで返答した。
「南の地理くらいしか知らないですね、北はさっぱりです」
はぁ、と溜め息をつくエリオットさんは、それから渋々と私の問いに答え始める。
「ハイエルフの住む森だよ」
「エルひゅ! ルフィーナひゃんが……んぐ、そちらに居るかも知れないって事ですか?」
食べながらは流石に喋りにくかったので途中で飲み込んで私はそれを聞いた。すると、
「もう! 今はお握り禁止!」
若干オネエ言葉でエリオットさんは私から紙袋を取り上げてまた話を続ける。
「ツィバルドでルフィーナとレクチェらしき人物の目撃情報が挙がったんだ。そこから行くなら故郷である森かな、と。予測し易い行き先過ぎるが他に行く場所があるとも思えない」
車窓の外は星ひとつ見えない曇り空、だんだん白くなる景色は車内からの明かりのみで薄らと輝いていた。
エリオットさんは私から取り上げた紙袋からお握りを取り出して食べ始める。私に禁止しておいて、なかなかどうして酷い行いである。
指についたご飯粒まできちんと食べ終えてから、彼は話をまた切り出した。
「ルフィーナを他のエルフ達が庇うかも知れない、その時は多少の荒事を覚悟しておいてくれ」
エルフ同士の結束力は他の種族ではなかなか見られないほどの固いものだ。それは確かに考えられる範囲での悪い事態だと、私にも分かる。
しっかりと彼に視線をあわせ、頷きながら
「分かりました……とりあえず残りのお握りをください」
私が現時点でそれよりも大事な要求を伝えると、
「食い意地ばっかり張っててこの子はっ!!」
オネエ言葉というよりはもはやオカン言葉で、エリオットさんは私に突っ込んだのだった。
ツィバルドからは雪道用の大きな馬を借りて森まで進んだ。
耳まで隠れる毛糸の帽子と何重にも編まれた分厚い上着も一緒に購入し、簡単だが防寒対策もしておく……が、やはりマスクも買っておくべきだっただろうか、頬が凍るように冷たい。
周囲の木々の間隔が少しずつ狭まっていき、だんだん森に入って行っているという事を実感させられる。更に北方の森はまだ昼間だというのに薄暗く、あまり生命の息吹を感じられない。
「迷ったらスマン」
馬を走らせながらエリオットさんがぼそりと呟いた。
そう呟きたくもなるくらい、周囲はまるで迷いの森。私にはもはやどちらから来たのか方角すらも定かではなく彼は空の太陽の位置だけで方角を見ながらひた進む。
しかし心配は杞憂だったようだ。やがて木々の間から凍った泉が見え、その先には集落があった。
それを見て安堵の表情を浮かべるエリオットさん。
泉の上で氷上釣りをしているエルフの男性がこちらにふと視線を投げかけたが、特に何をするわけでもなくまた釣り糸に視線を戻す。
「警戒はされていないようですね……」
気張っていた私はやや拍子抜けして言った。
「まぁ、もうここにあいつらが居ないから、という可能性もあるな。とりあえず村を訪ねよう」
馬の手綱を湖畔の木に括りつけて、もそもそと雪を踏みしめ村の方角へ歩く。
村には特に宿のような建物も無く、全てが住居のような外観だった。こんな遠い北方の地では余所者は滅多に来ないからだろう。
エリオットさんはその中でも一番大きめの家に向かい、扉にノックをした。
ギィ、と開いた丸太を繋いだ扉から出てきたのは、ヒトで言う六十代半ばくらいの外見のエルフの女性だった。
「…………」
どなたですかと問う事も無くエリオットさんを正面から黙ってじっと見据えるエルフに、エリオットさんはこちらから先に帽子を脱いで挨拶を切り出した。
「ルフィーナ・ディオメデス先生の弟子の、エリオットと申します。先生が今この村に在住されているかどうかお伺いし……」
そこまでエリオットさんが話したところで、扉が私達を迎えるように大きく開く。
「入りなさい」
「! ……どうも」
呆気なく招かれた家の中はまず大きな暖炉を境にキッチンや居間のスペースが仕切り無く分かれている程度の大きな一室構造になっていて、暖炉の手前に置かれた大きいテーブルを囲んだセピアのソファには……見覚えのある顔ぶれが並んでいた。
「遅かったわねー」
他の誰でもないルフィーナさんと、
「無事だったんですねお二人とも!!」
元気そうなレクチェさんだ。
更新日:2012-12-16 16:02:34