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チュニックから首を出して見ると、机に置かれたそれはとても大きな琥珀の填め込まれた煌びやかなネックレス。その琥珀は通常よりも少し色が濃く赤みがかっており、金のチェーンには他にも小さな宝石がいくつもついていた。
「多分ローズが忘れて置いて行った物だ。まぁ盗品だと思うがお前に預けておこう」
「とっ、盗品……」
「これだけ大きい琥珀がついていれば、買ったというよりはそうだろう」
私の握り拳より少し小さいくらいの石。そう言って、ライトさんはすぐに部屋を出ようとする。チュニックだけ着た状態で、私は机の上に置かれたそのネックレスを手に取った。
「……最近部屋で見つけた物なんだが、変な感じがするから手元に置いておきたくなくてな」
「それ言っちゃいますか!?」
姉の物。盗品かも知れないならいつか元の場所へ返してあげなくてはいけない。赤皮のポーチにネックレスを仕舞って私は部屋の戸を閉めて出て行くライトさんに会釈だけした。
それから十日ほど経った、深夜。いつものように借り部屋のベッドで寝ていると急に揺すり起こされる。
「う、ん……」
寝惚け眼を擦ってぼやけた視界を元に戻すと、目の前にはレフトさんと白いふわふわした寝巻きのエリオットさんが居た。
「さっさと準備しろ、出るぞ」
言い方はいつものぶっきら棒で投げやりだったが、その表情は幾許か柔らかい。状況把握に数秒かかったが、とりあえず私は起き上がって薬品棚の隣にハンガーで掛けてあった旅用の衣服を手に取る。
私が着替えを終えようとした頃に、ライトさんが部屋に入ってきてエリオットさんに衣類と荷物を手渡した。
「まさか寝巻きで来るとは思わなかったから、こんなのしか無いぞ」
「いやー着替えはいつもメイドが持ち帰っちまっててさー。徹底してるよなー!」
カラカラと笑いながらそれを受け取り、彼も素早く着替えを始める。レフトさんはソレから視線を外しながら、着替え終えた私に紙の袋に入ったお握りをくれた。
「気をつけてくださいまし~」
多分彼女としては『少し』の量なのだろうが、紙袋はずっしりと重く、有り難く頂戴するもその重さに内心びっくりしてしまう。レフトさんはそんな私に全く気付いていないようでただニコニコとこちらを見つめていた。
「さ、抜け出したのに気付かれる前に王都から出ないとなぁ」
確かに包囲網を張られる前に出ないと大変だ。しかし……エリオットさんの言葉に私はまず最初に浮かんだ疑問をそのまま投げかける。
「今度はどこへ向かうんですか?」
「ツィバルドより更に北、ミーミルの森に行くぞ。昨日からツィバルドまでの汽車は運行復旧している、んであと三十分もすれば深夜のが出るから今はとにかく時間との勝負だな」
「流石ですねぇ」
全て段取りをつけた上で城を抜け出してきたのだろう。当たり前といえば当たり前だが、十日間ぼーっと過ごしていた私としてはただ感嘆の声を漏らすばかりだ。
エリオットさんは白いワイシャツに茶色のベストとズボンを着て、最後に白い毛と鉄紺に染まった皮を繋ぎ合わせたマントを羽織る。ベストより少し薄い色のズボンは膝丈の胡桃色の編み込みロングブーツに華麗にイン。
「俺は何でも似合うな!」
そして、自画自賛。
「鏡も見ずに言えるその根性が素晴らしい」
呆れ顔のライトさん。まぁ似合ってなくはないのだが、多分ライトさんの服なのだろう、イメージが随分と変わる。
エリオットさんが荷物の入った焦茶色のウエストポーチに手を伸ばしたのを見て、私も慌てて荷物を手に取った。
「行ってきます」
新たな門出のような気分で、私達は王都を後にする。
【第七章 旅立ち ~幼い決意~ 完】
「多分ローズが忘れて置いて行った物だ。まぁ盗品だと思うがお前に預けておこう」
「とっ、盗品……」
「これだけ大きい琥珀がついていれば、買ったというよりはそうだろう」
私の握り拳より少し小さいくらいの石。そう言って、ライトさんはすぐに部屋を出ようとする。チュニックだけ着た状態で、私は机の上に置かれたそのネックレスを手に取った。
「……最近部屋で見つけた物なんだが、変な感じがするから手元に置いておきたくなくてな」
「それ言っちゃいますか!?」
姉の物。盗品かも知れないならいつか元の場所へ返してあげなくてはいけない。赤皮のポーチにネックレスを仕舞って私は部屋の戸を閉めて出て行くライトさんに会釈だけした。
それから十日ほど経った、深夜。いつものように借り部屋のベッドで寝ていると急に揺すり起こされる。
「う、ん……」
寝惚け眼を擦ってぼやけた視界を元に戻すと、目の前にはレフトさんと白いふわふわした寝巻きのエリオットさんが居た。
「さっさと準備しろ、出るぞ」
言い方はいつものぶっきら棒で投げやりだったが、その表情は幾許か柔らかい。状況把握に数秒かかったが、とりあえず私は起き上がって薬品棚の隣にハンガーで掛けてあった旅用の衣服を手に取る。
私が着替えを終えようとした頃に、ライトさんが部屋に入ってきてエリオットさんに衣類と荷物を手渡した。
「まさか寝巻きで来るとは思わなかったから、こんなのしか無いぞ」
「いやー着替えはいつもメイドが持ち帰っちまっててさー。徹底してるよなー!」
カラカラと笑いながらそれを受け取り、彼も素早く着替えを始める。レフトさんはソレから視線を外しながら、着替え終えた私に紙の袋に入ったお握りをくれた。
「気をつけてくださいまし~」
多分彼女としては『少し』の量なのだろうが、紙袋はずっしりと重く、有り難く頂戴するもその重さに内心びっくりしてしまう。レフトさんはそんな私に全く気付いていないようでただニコニコとこちらを見つめていた。
「さ、抜け出したのに気付かれる前に王都から出ないとなぁ」
確かに包囲網を張られる前に出ないと大変だ。しかし……エリオットさんの言葉に私はまず最初に浮かんだ疑問をそのまま投げかける。
「今度はどこへ向かうんですか?」
「ツィバルドより更に北、ミーミルの森に行くぞ。昨日からツィバルドまでの汽車は運行復旧している、んであと三十分もすれば深夜のが出るから今はとにかく時間との勝負だな」
「流石ですねぇ」
全て段取りをつけた上で城を抜け出してきたのだろう。当たり前といえば当たり前だが、十日間ぼーっと過ごしていた私としてはただ感嘆の声を漏らすばかりだ。
エリオットさんは白いワイシャツに茶色のベストとズボンを着て、最後に白い毛と鉄紺に染まった皮を繋ぎ合わせたマントを羽織る。ベストより少し薄い色のズボンは膝丈の胡桃色の編み込みロングブーツに華麗にイン。
「俺は何でも似合うな!」
そして、自画自賛。
「鏡も見ずに言えるその根性が素晴らしい」
呆れ顔のライトさん。まぁ似合ってなくはないのだが、多分ライトさんの服なのだろう、イメージが随分と変わる。
エリオットさんが荷物の入った焦茶色のウエストポーチに手を伸ばしたのを見て、私も慌てて荷物を手に取った。
「行ってきます」
新たな門出のような気分で、私達は王都を後にする。
【第七章 旅立ち ~幼い決意~ 完】
更新日:2011-08-09 23:10:55