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とりあえず着てみよう。
試着して店員さんと見てみたが、体型には合うものの、
「足がスースーします」
「下も何か合わせようか」
店員さんが白いズボンを持ってきて優しく履かせてくれる。私は彼女の肩に掴まり立ちをしながら、そっとズボンに足を入れた。
「この絹はハティの毛と呼ばれる糸も織り込んであるんだよ。そこで選んでいたピアスと相性がいいからオススメ」
いつもズボンは白が多かったのでこちらは違和感する事無く履けた。やはり合わせるなら白か黒が、楽でいい。
「靴はどうする? そのサンダルでは旅しないよね」
「あ、はい」
親切な店員さんは、こういうお店に慣れてない私を察して進めてくれる。靴が並んでいる棚の前でぬぬぬ、と唸った後、唐撫子に染まったショートブーツを選んで持ってきてくれた。靴のラインに沿ってスタッズが留められていて、その上には綺麗な真紅の石が全てに乗せられている。間違いなく魔法石だ、絶対高い、今日の買い物の中で一番高い。
「一応聞くけど、これ結構高いかも。手持ち大丈夫?」
「だ、大丈夫です……」
「だよねぇ、こんな上等な身なりしてる子だもの!」
そうか、そういえば私はお城で貰ったチュニックを元々着ていたのだ。そりゃあ金になる、と子供相手にガンガンと物を持ってくるわけだ……
全体的に淡い色の服装になるが、スリットワンピースの胸元より少し上に魔術紋様と一体化して填められている石とブーツの魔法石の色が濃いのでまぁ悪くない。髪の色にはピッタリというわけにはいかないが、色違いは無いとの事なのでコレで妥協する事にした。
「髪に合わせて寒色系もいいと思うけど、この方が雰囲気和らいでるしイイんじゃない!」
バシバシと肩を叩いて、会計口で笑う店員さん。
「ありがとう、ございます……」
金貨は、一枚と半分、とんだ。
いつもの法衣なら破けても縫えばいいとしてきたけれど、高い買い物をしてしまうとなるべくなら破きたくないなぁ。でもいちいち服を脱いでから変化ってのもおかしな話だしなぁ、と一人で考え込みながら王都を歩く。
旅人は珍しく無いのだろうが、私のような子供が大きな得物を背負って歩いているといつも通りすがりの人達がちらほらと振り返る。それはこの王都でも同じようだった。
賑やかな人波と、高く並んだ派手な建物。周辺の街で大きな被害が起きているにも関わらず、ここはそんな事関係無いかのように騒がしい。
よくも悪くも、世界の中心都市。
ライトさんの病院に向かっている私は自然と人波から外れて行き、その喧騒から離れる事が出来た。
もはやいつもこのままなんじゃないかと思ってしまう休診の看板を無視して、その病院のドアを叩く。
「こんにちは、クリスですー」
少し待つとカラン、と開かれる扉。扉にかかった鐘の音が、ついこの間聞いたばかりのはずなのに懐かしく感じた。
「まぁいらっしゃい、クリス様」
相変わらずのほのぼのさせてくれる、のんびり笑顔でのお出迎え。お兄さんと似ているのに、この表情のおかげで良い意味で全く似ていない。
「早速なんですけど、着替えさせて貰っていいですか?」
そう、さっき買った店であの服を試着したまま購入してしまったのだ。正直普段着にはし辛いので早く着替えたいというのが本音。
「あらあら、どうぞ」
いつもの白衣をひらりと翻して、私を一室に案内してくれる。
「この部屋は自由に使って構いませんわ~」
「ありがとうございます」
中に入ると少し薬品の臭いが鼻についた。病室のようなベッドメイクっぷりなのだが、部屋の窓の無い側の壁に置かれている棚には沢山の瓶が並んでいて、何に使われている部屋なのかいまいち想像出来ない。もしかすると特に使っていなくて物置状態なのかも知れないが。
私はベッドに腰掛けて服を脱いで肌着のみになる。その格好のまま城で貰ったチュニックを荷物から取り出していると、ギィ、と部屋の戸が開いた。特にベッドとドアの間に障害となる物は無いので、入ってきたライトさんと目がぱっちり合う。
「何だ着替え中か」
「あ、すぐ終わるんでそのまま用件を言って貰っていいですよ」
「分かった」
私はすぐにライトさんから視線を外し、チュニックを広げて頭から被った。
「渡す物があるだけだったんだ」
そう言うライトさんの声と、机のほうからコトリ、と何かが置かれる音が聞こえる。
試着して店員さんと見てみたが、体型には合うものの、
「足がスースーします」
「下も何か合わせようか」
店員さんが白いズボンを持ってきて優しく履かせてくれる。私は彼女の肩に掴まり立ちをしながら、そっとズボンに足を入れた。
「この絹はハティの毛と呼ばれる糸も織り込んであるんだよ。そこで選んでいたピアスと相性がいいからオススメ」
いつもズボンは白が多かったのでこちらは違和感する事無く履けた。やはり合わせるなら白か黒が、楽でいい。
「靴はどうする? そのサンダルでは旅しないよね」
「あ、はい」
親切な店員さんは、こういうお店に慣れてない私を察して進めてくれる。靴が並んでいる棚の前でぬぬぬ、と唸った後、唐撫子に染まったショートブーツを選んで持ってきてくれた。靴のラインに沿ってスタッズが留められていて、その上には綺麗な真紅の石が全てに乗せられている。間違いなく魔法石だ、絶対高い、今日の買い物の中で一番高い。
「一応聞くけど、これ結構高いかも。手持ち大丈夫?」
「だ、大丈夫です……」
「だよねぇ、こんな上等な身なりしてる子だもの!」
そうか、そういえば私はお城で貰ったチュニックを元々着ていたのだ。そりゃあ金になる、と子供相手にガンガンと物を持ってくるわけだ……
全体的に淡い色の服装になるが、スリットワンピースの胸元より少し上に魔術紋様と一体化して填められている石とブーツの魔法石の色が濃いのでまぁ悪くない。髪の色にはピッタリというわけにはいかないが、色違いは無いとの事なのでコレで妥協する事にした。
「髪に合わせて寒色系もいいと思うけど、この方が雰囲気和らいでるしイイんじゃない!」
バシバシと肩を叩いて、会計口で笑う店員さん。
「ありがとう、ございます……」
金貨は、一枚と半分、とんだ。
いつもの法衣なら破けても縫えばいいとしてきたけれど、高い買い物をしてしまうとなるべくなら破きたくないなぁ。でもいちいち服を脱いでから変化ってのもおかしな話だしなぁ、と一人で考え込みながら王都を歩く。
旅人は珍しく無いのだろうが、私のような子供が大きな得物を背負って歩いているといつも通りすがりの人達がちらほらと振り返る。それはこの王都でも同じようだった。
賑やかな人波と、高く並んだ派手な建物。周辺の街で大きな被害が起きているにも関わらず、ここはそんな事関係無いかのように騒がしい。
よくも悪くも、世界の中心都市。
ライトさんの病院に向かっている私は自然と人波から外れて行き、その喧騒から離れる事が出来た。
もはやいつもこのままなんじゃないかと思ってしまう休診の看板を無視して、その病院のドアを叩く。
「こんにちは、クリスですー」
少し待つとカラン、と開かれる扉。扉にかかった鐘の音が、ついこの間聞いたばかりのはずなのに懐かしく感じた。
「まぁいらっしゃい、クリス様」
相変わらずのほのぼのさせてくれる、のんびり笑顔でのお出迎え。お兄さんと似ているのに、この表情のおかげで良い意味で全く似ていない。
「早速なんですけど、着替えさせて貰っていいですか?」
そう、さっき買った店であの服を試着したまま購入してしまったのだ。正直普段着にはし辛いので早く着替えたいというのが本音。
「あらあら、どうぞ」
いつもの白衣をひらりと翻して、私を一室に案内してくれる。
「この部屋は自由に使って構いませんわ~」
「ありがとうございます」
中に入ると少し薬品の臭いが鼻についた。病室のようなベッドメイクっぷりなのだが、部屋の窓の無い側の壁に置かれている棚には沢山の瓶が並んでいて、何に使われている部屋なのかいまいち想像出来ない。もしかすると特に使っていなくて物置状態なのかも知れないが。
私はベッドに腰掛けて服を脱いで肌着のみになる。その格好のまま城で貰ったチュニックを荷物から取り出していると、ギィ、と部屋の戸が開いた。特にベッドとドアの間に障害となる物は無いので、入ってきたライトさんと目がぱっちり合う。
「何だ着替え中か」
「あ、すぐ終わるんでそのまま用件を言って貰っていいですよ」
「分かった」
私はすぐにライトさんから視線を外し、チュニックを広げて頭から被った。
「渡す物があるだけだったんだ」
そう言うライトさんの声と、机のほうからコトリ、と何かが置かれる音が聞こえる。
更新日:2011-08-09 23:10:36