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挿絵 400*400

 私は何だか夢見心地の王女に取り合えず挨拶をした後、部屋へライトさんを案内する。回廊沿いの、白地に金で縁取られた豪華なドアを押して開け、後から続くライトさんが入ったのを確認して閉めた。いくつも同じようなドアがあるが、ここは私に割り当てられた部屋のドアだ。
 さて……ライトさんがここに居るという事はひとまずエリオットさんの治療は終わった事になる。その話だろうか?

「お話とは何ですか?」

 私は先にちゃっかり椅子に座っているライトさんの向かいの椅子を引きながら話を切り出した。

「まず一つ目、エリオットの容態は安定している。目を覚ますだけなら明日にも覚ますだろうよ」

「は、早いですね……」

 思わず拍子抜けしてしまう。正直なところ、数日くらいは峠を彷徨うのだろうかと思っていたのだが。

「確かに酷い怪我ではあったが、所詮ただの怪我だ。この前の呪いを解くのに比べれば全然楽だからな」

 さらっと。あれだけ私が心配していたのに、何でもない事のように彼は言う。

「生きていれば、どんな怪我だって治してやれるさ。一人ならディビーナの量も足りる。まぁ俺の元に来る前に死んでしまってはどうしようも無いからな、今回の件は遠征部隊の連中にお礼を言う事だ。数人がかりでエリオットの容態維持を勤めていたらしい」

 机に頬杖を突いて、彼は特に興味も無さそうに説明だけ淡々としてくれる。

「そうですか、後でお礼を言って来ます……何というか、旅に一人欲しい人材ですね、ライトさんって」

 率直な感想を述べる。治癒士は確かに旅においてのパーティーに必須だと今回本当に実感したのだから。しかし、

「それは無理だな」

 と、あっけなく否定された。

「何故です?」

「俺は獣人だが、戦闘には向いていない。着いて行くのだってゴメンだ、疲れる。走るくらいなら死んだほうがマシだ」

「そ、そうですか……」

 私は脱力感を覚えながら、その言葉に辛うじて返答をした。
 それは確かに旅には連れて行けないですね……
 私のこの反応でこの話題は終わったと判断したらしいライトさんは、頬杖を突いていた手を手の甲から手の平に返して突き直し、次の話に進める。

「で、次は二つ目。事の粗筋を教えて欲しい。結局無理にローズに向かって行ってあのザマなのか?」

 なるほど、その疑問が浮かぶのも無理は無い。

「いえ、違います。それは……」

 私は、以前ライトさんの病院を出てから今までの話を事細かに説明をした。



「……なるほど、大体は把握した」

 一呼吸置いて何やら考えた素振りをした後、彼は再度続ける。

「その研究施設に置き去りにされていた女は、少なくとも俺は何の種族か判別出来ないし、伝承などの知識を探っても思い当たる節は無いな」

「そうですか……」

「しかしそれはクリス、お前も似たようなものだ」

 眼鏡の下の鋭い目がこちらをじっと見据えたかと思うと、すぐに気を緩ませ視線を外す彼。
 確かに彼の言う通りだ、もしレクチェさんを得体の知れない者扱いするなら、私だって同じくらいの扱いをされるべきなのだから。彼女と違って記憶が無いわけではないが、いや、なのに、私だって自分の事を何一つ分かってなどいなかったのだ。

「それよりも気になるのは、エリオットの師匠だったというエルフだな。気付いたら居なかったのだろう?」

「そうなんですよ! あの大変な時にレクチェさんと一緒に消えちゃうし! 本当ワケが分かりません!!」

「聞いた感じだと、その女は女で思惑があって動いているように思えるな」

 ふーむ、と少し考えた仕草をするがそれは長く続かず、彼は両手を白い陶磁の机に突いて立ち上がり言った。

「考えてもまだパーツが足りなさそうだ。今後は一人で旅する事になると思うが、悩んだらまた俺のところにでも来るといい。話くらいは聞いてやる」

「ありがとうございま……って、え?」

 何か、聞き間違えでなければ一人って言われた気がする。エリオットさんの容態は良いのでは無かったのか。

「……エリオットさん、旅を続けられるほどの回復は望めないんですか?」

 私は恐る恐る確認をした。

「そうじゃない、考えてもみろ。ここは城で、あいつは一応王子だ。帰ってきた以上、簡単に旅に出られるわけが無いだろう?」

「……そ、そうだった……」

 そう、そうだ。城内の皆が自然に帰還を受け入れているから頭から抜け落ちていたが、彼はいわゆる家出青年だったのだ。
 ライトさんの言葉に私は呆然としながらも状況を再確認した。

「そういう事、だ」

 じゃあな、とライトさんが去った後、しばらく私は固まっていたのだった。

更新日:2012-05-28 17:49:40

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