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挿絵 400*400

 ぼーっとしていると、自分に向けられている一つの視線に気付いた。
 その主は、回廊の方の柱の影からひっそりとこちらを見ている一人の女性。とても煌びやかな装飾の、淡いピンクの踝までの長さのロングドレスを着ていて、下にはパニエを履いているようなスカートの広がり方だ。深い緑色の髪は肩より少し長いくらい、ゆるゆるとしたウェーブがかかっているその髪には、銀のティアラが着けられている。
 服装からも、身体的特徴からも、彼女が一体誰なのかは把握出来た。

「エリオットさんのお姉さんですかー?」

 隠れてこちらを見ているその女性に、大きな声で声を掛ける。口走った後に、あぁ『王女様ですか』と聞いたほうが良かったかなとは思ったけど、まぁ普段使い慣れない単語などすぐには出てこないし、もう言ってしまったものは仕方ない。
 声を掛けると彼女は白いロングのドレスグローブを着けた手でスカートを摘みながらこちらにゆっくり歩いてきた。

「貴女が……弟の傍に居たのだと伺いまして。陰から覗くような見苦しい真似をしていた事を、お詫び申し上げます」

 王女でありながら何の位も無いこの私にいきなり頭を下げるとは。あまりに驚いて私は開いた口が塞がらなかった。

「いや、あの、えっと」

 座っていた噴水から飛び退いて私は両手をあたふたさせて対応に戸惑う。とりあえず王女より頭が上がっているわけにはいかない、と自分も下げてみる。

「と、畏まった挨拶はこれで終わりでいいかしら」

「うぇっ!?」

 釣られて下げていた頭を上げると、そこには先程の恭しい態度はどこへやら、自信に満ちた佇まいに変わっている王女がいた。

「私はエリザ。何はともあれ、弟が戻ってきてくれて助かっているわ。ありがとう」

「あ、は、はぁ……」

 その変わりっぷりに着いていけずに、気の無い返事をしてしまう。

「もう少しで私、婿取って女王にされちゃうところだったのよ」

 どうやらこの国は何が何でも上の二人の王子に継がせる事は避けたいらしい。まぁ形式に拘らず優秀な者に継がせる、という構えは良いと思うが。
 彼女はそのボーイッシュな作りの顔を空へ向け、天を仰いでこう言った。

「あとは弟と貴女が二人三脚で国を支えてくれれば問題無しね! 私はその人の過去だなんて気にしないから応援するわ!!」

「……な、何ですと?」

 耳を疑うようなその言葉の内容に脳が追いつかない。絶対何か勘違いをしているぞこの王女様は。私の過去? 私は一体何をしましたっけ??

「え、だから、弟は貴女を連れて戻ってきたわけでしょ? これはもう婚約発表しないとむしろ王家の恥じゃない?」

 更に飛び出すトンデモ発言に、頭がくらくらしてきた。誰だ、この人に説明をしたのは……ろくに事情を知らない侍女か何かが、エリオットさんが帰ってきた事だけを伝えたのだろうか?

「えーっと……私の名前はクリスです。ローズではありませんよ」

「ええっ!?」

 嘘、だって髪の色とか! と何やらぶつぶつ言っている王女。うちの姉に夢中だったエリオットさんが飛び出して、戻ってきたら手配書の大きな特徴の一つである水色の髪の人物と一緒に帰ってきた、とあれば確かにそう勘違いするのも分からないでもない。
 だけど、私まだ十二歳です。流石にこの年の差は直視して頂きたい。エリオットさんが一体いくつか私は知らないが、少なくとも成人はしているように見えるのですから。

「私はつい最近王子と共に行動し始めたばかりの者です、王女の想像しているような関係ではありません……」

 ぬか喜びして落ち込んでいる王女に、申し訳なく説明をした。が、

「折角王位継承問題がまとまると思ったのに、いやだってそうじゃないと私が、いやいやもう別にアイツの相手が誰だっていいの、落ち着いてくれれば、そう、そうよ……」

 私の説明を聞いている様子はなく、私に背を向けてぶつぶつと不穏な発言をしている。真面目そうな素振りも出来るのに、やはりエリオットさんと同様に本来の性格は少し変なようだ。
 と、何か思い立ったように王女はこちらに向き直り、

「私、貴女でもいいと思うわ!!」

「何の話ですか、一体」

 まさかの無責任発言に思わず素で返してしまった。王女を相手にしているはずなのに、何故かエリオットさんにツッコミを入れている気分になる。血筋って恐ろしい……もしかして上二人のお兄さんもこんなのじゃないだろうな、と不安を覚えた。

更新日:2011-07-20 23:05:18

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