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挿絵 400*400

「でもね、最悪の事態を引き起こしたのは間違いなく王であり、家臣なんだ。王子が我侭を言った時、初めての事に驚いてきちんとした対応をしてあげなかったのが悪いんだ。だって普通に考えたら『代わりの女を与える』だなんてとんでもない事だろう?

「それから王子の価値観は変わってしまったんだ。そんな道理に外れた事をして与える周囲に軽蔑したように、冷めた目で周りの人間を見るようになった。何を言って説得しようとしても人の言葉を信じなくなってしまった。

「……ある時ね、私は王子に声を掛けられたんだ。何て言われたと思う?」

 ここでまさかのクエスチョン!!
 ううーん、歪んでしまったエリオットさんの事だ、というか歪んで今があるわけでしょう? なら今のエリオットさんなら何て言うか……

「えっと、『今晩俺の部屋に来い』とかですかね……」

「近い! という事はやっぱりクリスの知っている王子はまだそんな状態なんだな……」

 私がほぼ当てた事に驚いたかと思えば、すぐに落ち込むレイアさん。まぁ、分からないでもないです。そんなに素晴らしかった王子様が未だにそんなノリで女の子相手してるわけですからね。
 レイアさんはふるふると少し首を振って、また続ける。

「正確には『お前はいつ俺の元に寄越されるんだ?』だった。私を通して全ての女を見下し、嘲笑うように言ったんだよ。王子に手をあげたのなんて、それが初めてさ」

「だんだん想像が容易になってきました。とても彼らしいですね!」

「ええっ!?」

 レイアさんが大変驚いてしまった。いやだってエリオットさんが素晴らしい人間だった、というのがもう想像出来ないのだから仕方ない。驚かれてもこれは真実。

「でもきっと大丈夫ですよ。お城を出てから色々な女性に叩かれて、学んでいるっぽいです。軽薄には違いないですが、もう見下したりはしていないように見えます、多分……」

 語尾が濁ってしまったが、少なくとも私はそう思う。今の彼はそこまで人を嫌っていないように見える。城という外から遮断された領域での生活では治せなかったエリオットさんの歪みを、外の世界は少しだが治していて今の彼が居る気がするのだ。

「そうか、あの頃よりは良くなっている、と思っていいんだね……王子は私が叩いたその数日後、城から姿を消してしまったんだ。それが二年くらい前の話になる。かなりの大事なので世間一般には療養中、としてあったけれど、正直自分が出てしまったキッカケなのではないかとこの二年間気が気で無かった」

「そうだったんですか、本当にご迷惑を……」

 話が終わりそうなので私は謝って〆ようと試みる。

「いや、いいんだよ。だからね、またあの女が発端かと思うと勝手だとは思うが怒りがこみ上げてきたんだ」

 ハハハ、と笑うレイアさん。いやコッチは笑えませんってば!
 でも仕方なく私もハハハと笑って会話を終わらせた。
 軍用列車の外にちらほらと民家が見え始める。もうまもなく王都エルヴァンの北の駅に着きそうだ。

「そろそろ私は用意をしなくてはいけない、クリスも一旦城に来て貰う事になるが、構わないか?」

 隣の席に置いていた剣に手をかけて、レイアさんはそう言った。

「えぇ、構いません。むしろお邪魔させて頂きます」

 私は笑顔で返事をする。お城の医療設備ならきっと何とかして貰える、そう願うしかない。
 私は懲りもせずに最後にもう一つだけ、質問をしてみた。

「ところで、レイアさんはエリ……じゃなくて王子の事が好きなんですか?」

 疑問はついつい口に出してしまう私の悪い癖。コレでついさっき後悔したばかりなのに、また口を開いてしまった。いやだって気になるじゃないですか。

「え!? いやいやそういうものでは無い、あくまで敬愛でしか無いよ!!」

 目をぱちくりさせながら両手をぶんぶんと振って否定する彼女。その答えに内心ほっとする。

「そうなんですか、それなら良かったです。姉が恋敵となるとそれこそ申し訳無いですからね」

 素直な気持ちを述べたのだが、その瞬間のレイアさんの表情は完全に凍り付いていた。動きも固まった。
 うん非常にマズイ、エリオットさん曰く『一言多い』だ。やってしまった。

「ご、ごめんなさい……」

 まだ恋心というものが全く理解出来ていない私は、深く反省するしか無かったのだった。

更新日:2011-07-19 23:51:07

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