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インテルメッゾ ~それぞれが背負う過去~
馬車は途中で大きな軍用列車に乗り移された。部隊の馬車が小型だったのは列車に移れるようにするためだったのだろう。
エリオットさんは馬車から後方の車体に乗せられていくのが見える。心配なので出来る事なら傍に居させて欲しいのだが……
「一緒に来て貰ってもいいかい?」
先程助けてくれた鳥人の女性が、列車に移る際に声を掛けてきたのだ。断れるわけもなく一緒に列車に乗り込み、合い席する事となる。
「まず自己紹介をしよう。私はこの度の件での遠征第一部隊の隊長、及び全部隊の総指揮官に任命されているレイア・ヴィドフニルと言う。気付いているとは思うが君達が出会った、文書を持っていた鳥人の姉だ」
細い刀剣を隣の空席に置き、淡々と説明する彼女。二十代前半くらいに見えるが、この年で遠征部隊のとはいえ総指揮官の地位を預かっているとは、かなりの強さなのだろう。
言い終えてから私を正面からじっと見据え、少し置いてから次の言葉を続ける。
「元々第三部隊の滞在している村へ向かっていたところだったんだがね、弟から王子の報告を受けて急いで駆けつけたところ、あの様な事態になっていた。えっと、君の名前は……?」
「し、失礼しました、クリス・セリオルと申します!」
恩人に先に名乗らせておいて、更に聞かれるまで名乗らないとか恥ずかしすぎるっ!
私は思わず顔を真っ赤にして返答した。
「そうかい。クリスは王子をあんな目に合わせた、そしてここ最近の連続騒動の犯人を見ているのだろう? まずそれを教えて欲しい」
分かりきってはいたが、答えにくい事を聞かれてしまう。どう答えれば丸く収まるのか少し考えたが、どう答えても無理そうなので仕方なくあるがままを言う事にしよう。
「エリオ……王子はまずこの槍を手に取って、あのような事になったんです」
そう言って私は列車の窓際の壁に立てかけてある槍を指した。
「この槍は私の武器で、私以外が持つと死んでしまうと聞いていました。その上で王子は私にこの槍を投げ渡すために手に取り……」
ここで言葉が詰まる。情け無い事に思い出して泣きそうになったからだ。でも説明を続けなくては。
私は膝の上で両手の拳を強く握り、続けた。
「王子が槍を投げてくれたおかげで私は、騒動の原因である私の姉を一旦撃退する事が出来ました」
掻い摘んで話し過ぎただろうか? やや困惑したような表情のレイアさん。右手を顎に添えて少し首を傾げるが、ふう、と息を吐いて目を閉じた後に、思い切ったかのように問いかけてくる。
「俄かには信じがたいが、信じよう。という事は全ての元凶は君の姉で間違いないかな?」
「それも間違いではありませんが、実際は姉の持つ呪いの剣みたいなものが本当の元凶です。姉はその剣に操られているだけなのです」
それを聞いてまたまた困惑してしまっている彼女。まぁ無理も無い、私だって信じられない。
「私はあまり詳しくないのだが……その槍と剣は、多分女神の遺産のようだな」
「!! ……知っているのですか!?」
この精霊武器の存在を知っているのなら説明の仕方は随分変わって来る。私は思わず前にのめり出して聞いた。
「いや、申し訳ないが本当に詳しくないのだよ。物騒な武器が城に保管されていて、それが大昔に忽然と消えた、というくらいしかね」
「えっ」
それだとライトさんから聞いた話と少し違ってくる。てっきり城があの武器を保管し研究していたと思っていたのが、城から武器が消えたとなるとあのセオリーという男はそれを盗んだりしたか何かの悪い連中、になるではないか。そして、その人物と少なくとも知り合いであるルフィーナさん。国の研究ならルフィーナさんが知り合いなのも納得出来るが、国が関わってないとなるとその面識の理由が無くなる。こんがらかってきた。
「城内で噂程度でしか聞いた事が無いんだ。けれどクリスの話を信じるのなら、特徴が噂の内容に酷似しているからね。それが今になって世に出てきてしまったのではと思う」
まぁ今になって世に出てきてしまった理由は、紛れも無く姉のせいです……
「しかし、クリス以外が持つと死ぬ、という事は王子は助からないという事になってしまうよ」
「いや、聞いた話なので実際に死んでしまったという現場は見たことは無いのです!」
死体はいっぱい見たけど、どんな風に死んだのかまでは分からなかったから間違いではない。
「そう、まだ望みはあると思っていいんだね……」
急にその瞳を曇らせるレイアさん。少し俯いて私と視線を合わせる事はなく、唇を噛んでずっと斜め下を見つめていた。
弟さんもそうだったが、この姉弟にはエリオットさんと主従関係以外のものを感じる。
エリオットさんは馬車から後方の車体に乗せられていくのが見える。心配なので出来る事なら傍に居させて欲しいのだが……
「一緒に来て貰ってもいいかい?」
先程助けてくれた鳥人の女性が、列車に移る際に声を掛けてきたのだ。断れるわけもなく一緒に列車に乗り込み、合い席する事となる。
「まず自己紹介をしよう。私はこの度の件での遠征第一部隊の隊長、及び全部隊の総指揮官に任命されているレイア・ヴィドフニルと言う。気付いているとは思うが君達が出会った、文書を持っていた鳥人の姉だ」
細い刀剣を隣の空席に置き、淡々と説明する彼女。二十代前半くらいに見えるが、この年で遠征部隊のとはいえ総指揮官の地位を預かっているとは、かなりの強さなのだろう。
言い終えてから私を正面からじっと見据え、少し置いてから次の言葉を続ける。
「元々第三部隊の滞在している村へ向かっていたところだったんだがね、弟から王子の報告を受けて急いで駆けつけたところ、あの様な事態になっていた。えっと、君の名前は……?」
「し、失礼しました、クリス・セリオルと申します!」
恩人に先に名乗らせておいて、更に聞かれるまで名乗らないとか恥ずかしすぎるっ!
私は思わず顔を真っ赤にして返答した。
「そうかい。クリスは王子をあんな目に合わせた、そしてここ最近の連続騒動の犯人を見ているのだろう? まずそれを教えて欲しい」
分かりきってはいたが、答えにくい事を聞かれてしまう。どう答えれば丸く収まるのか少し考えたが、どう答えても無理そうなので仕方なくあるがままを言う事にしよう。
「エリオ……王子はまずこの槍を手に取って、あのような事になったんです」
そう言って私は列車の窓際の壁に立てかけてある槍を指した。
「この槍は私の武器で、私以外が持つと死んでしまうと聞いていました。その上で王子は私にこの槍を投げ渡すために手に取り……」
ここで言葉が詰まる。情け無い事に思い出して泣きそうになったからだ。でも説明を続けなくては。
私は膝の上で両手の拳を強く握り、続けた。
「王子が槍を投げてくれたおかげで私は、騒動の原因である私の姉を一旦撃退する事が出来ました」
掻い摘んで話し過ぎただろうか? やや困惑したような表情のレイアさん。右手を顎に添えて少し首を傾げるが、ふう、と息を吐いて目を閉じた後に、思い切ったかのように問いかけてくる。
「俄かには信じがたいが、信じよう。という事は全ての元凶は君の姉で間違いないかな?」
「それも間違いではありませんが、実際は姉の持つ呪いの剣みたいなものが本当の元凶です。姉はその剣に操られているだけなのです」
それを聞いてまたまた困惑してしまっている彼女。まぁ無理も無い、私だって信じられない。
「私はあまり詳しくないのだが……その槍と剣は、多分女神の遺産のようだな」
「!! ……知っているのですか!?」
この精霊武器の存在を知っているのなら説明の仕方は随分変わって来る。私は思わず前にのめり出して聞いた。
「いや、申し訳ないが本当に詳しくないのだよ。物騒な武器が城に保管されていて、それが大昔に忽然と消えた、というくらいしかね」
「えっ」
それだとライトさんから聞いた話と少し違ってくる。てっきり城があの武器を保管し研究していたと思っていたのが、城から武器が消えたとなるとあのセオリーという男はそれを盗んだりしたか何かの悪い連中、になるではないか。そして、その人物と少なくとも知り合いであるルフィーナさん。国の研究ならルフィーナさんが知り合いなのも納得出来るが、国が関わってないとなるとその面識の理由が無くなる。こんがらかってきた。
「城内で噂程度でしか聞いた事が無いんだ。けれどクリスの話を信じるのなら、特徴が噂の内容に酷似しているからね。それが今になって世に出てきてしまったのではと思う」
まぁ今になって世に出てきてしまった理由は、紛れも無く姉のせいです……
「しかし、クリス以外が持つと死ぬ、という事は王子は助からないという事になってしまうよ」
「いや、聞いた話なので実際に死んでしまったという現場は見たことは無いのです!」
死体はいっぱい見たけど、どんな風に死んだのかまでは分からなかったから間違いではない。
「そう、まだ望みはあると思っていいんだね……」
急にその瞳を曇らせるレイアさん。少し俯いて私と視線を合わせる事はなく、唇を噛んでずっと斜め下を見つめていた。
弟さんもそうだったが、この姉弟にはエリオットさんと主従関係以外のものを感じる。
更新日:2012-05-28 17:28:00