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挿絵 400*400

 彼女の指示で後ろから続いてきていた兵達の中から衛生兵が割り出てきて、あっという間にエリオットさんを囲むと、数人で結界のようなものを作り出す。

「まだ息はあるようですので、まずは止めたまま運びます」

「わかった、良い様にやってくれ」

 衛生兵の言葉に答えるポニーテールの女性。近くで見ると髪の毛に隠れて黒い名残羽があるのが分かった。どうやら鳥人らしい。
 彼女はエリオットさんが後ろの馬車らしき乗り物に運ばれていくのを見届けた後、私に振り返って話しかけてきた。

「王子の連れはあと二人居ると聞いていたのだが、そちらは無事なのだろうか?」

「えっ、あ……分かりません……」

「そうか、ならば引き続き捜索を続けさせよう。王子とは別の馬車になるが君も一緒においで」

 そう言って私を別の馬車に乗るよう促してくれた。私は馬から降りた彼女に案内されるがままに一頭立ての軽装馬車へ行き、乗ろうと足をかけたのだが、

「待った、先に着替えさせよう」

 びりびりに破いてしまった私の服は、残った布地もほとんどエリオットさんの血で赤く染まっていた。確かにこのまま馬車に乗ってしまっては酷い有様になるだろう。
 彼女は兵に代えの衣類を持ってこさせ、私にそっと手渡す。柔らかそうな生地だが、私には随分大きい白い長袖シャツと、綿のズボン。それと大きめのタオル。

「すまない、与えられる新品となると寝巻きくらいしか無かったようだ」

 申し訳無さそうに彼女は私に詫びた。

「いえ、ありがとうございます」

 それ以上の言葉も無い。文句など、出るわけが無い。

「後で色々詳しく話を聞く事になるだろうから、それまで馬車の中だけでもゆっくり休んでおきなさい」

 とても格好の良い女性だな、と思った。伝えるべき事を伝えてきつつも心遣いを感じられる。それでいて威厳を保ち、圧倒的なカリスマ性とでもいうのか……何だか憧れる。
 私はとりあえず着替える為に変化を解いてヒトの形に戻った。周囲が少しざわめいたが、鳥人の彼女が一瞥すると皆黙って元の作業に戻る。
 かなり寒いけれど私は着ていた服を全て脱いで、貰った衣服に着替えを済ませた。その際に血を拭いたタオルにもう白い部分はどこにも無い。
 馬車に乗って程なくして馬が走り出す。窓の外では雪と、倒壊した家屋と、寒そうに咲く花々と、それらが入り混じるとても歪な景色が流れ過ぎて行き、やがて真っ白な雪原へと変わった。
 今までの出来事が全て嘘のように。

【第五章 対峙 ~最後に笑うのは誰か~ 完】

更新日:2011-08-02 00:09:01

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