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ごろりと転がるその首と、頭を失った胴体からは……血でも噴き出すかと思ったら何も出ない。私の槍を間一髪でしゃがんで避けたエリオットさんの顔は蒼白だ。
「お、お前……」
彼は死体を掴んだ手を離して、ギギギと首をこちらに回して何かを目で訴えている。
「エリオットさんなら避けてくれるって思っていましたから!」
「嘘だッッッ!!!!」
悲鳴にも似た叫びで怒りを訴える彼を無視して、私は自分が斬ったソレに目をやる。それはまるで機能を停止した人形のようになって転がっていた。そして程なくしてソレは粉となり、風に舞い雪に混じる。
……やっぱり
「随分高性能な人形ですね」
「普通に首切ったくらいじゃ動くわよ」
「本当ですか!?」
ルフィーナさんの言葉に驚きを隠せない。じゃあ何故今回は倒せたのだろうか?
私が問う前にその疑問の答えを彼女は話す。
「貴方が今持っている武器はね、この世界の全てを否定しているの。分かる?」
先程の衝撃映像で震えているレクチェさんを優しく撫でながら、とんでもない事を。
「あの人形に掛かっていた魔術ごと切断したから動かなくなったのよ。今頃本物は人形の受けた痛みをそのまま味わって悶えているんじゃないかしらね」
可哀想に、と全然同情しているとは思えない恐ろしい笑みを浮かべながら赤い瞳の魔女は小さく呟いた。レクチェさんは俯いていて彼女の表情は見ていないが、きっとそれを見ていたら更に震えたことだろう。
一面はセオリーの魔術で地盤が不安定になっており、またいつ崩れるか分からない状態である。私達の周囲は雪も無くなり土が露になっていて、強い風が止んだかわりに先程の戦闘で露になった土をまた隠す為かのように雪が深々と降り始めた。
「さ、早く行こうぜ」
そう言ってエリオットさんはルフィーナさんの前で蹲ったままのレクチェさんに手を差し伸べる。彼女は唇を真っ直ぐ結んで、その手を借りて立ち上がった。
「取り乱して……ごめんなさい……」
両手を胸の前で握って、申し訳無さそうに謝る。
「仕方ないさ、か弱い女の子の見るもんじゃない」
苦笑しながらそう答えたエリオットさんは、その後私に振り向きこう毒づく。
「流石に俺もビビったからな! 誰かのせいで!!」
「助けてあげたんですよ、感謝してくださいね~」
何やら恨みつらみがあるようだがそんなの知った事ではない。軽く流して私は服を正した。
雪が降っているのだから急がないと大変だ。ひょい、と割れた地面を飛び越えて私は歩き出す。
その先はエリオットさんが案内してくれて無事に一つ目の村跡まで辿り着いた。
ドラゴンが通ったような、という表現は聞いていたが確かにそう言われたら信じるくらいの凄惨な状態であった。大きな爪で切り裂かれたような家屋は、もはや人が住めるようなものではない。
雪が降りしきり、その中を軍人達が黙々と作業にあたっている。大半の遺体は既に回収した後なのだろう、表にそれは見当たらない。多分今は崩れた家屋の中を探していると言ったところか。生存者がいなくては何が起こったのか把握すら出来ないのだから。
「俺は外で待ってる、特に情報がなければここに長居は無用だ」
そう言ってエリオットさんは近くの針葉樹に寄りかかる。
「エリオットさんは来ないの?」
「面倒臭い」
レクチェさんの質問にぶっきらぼうに返答して懐から取り出したのは一枚の緑色の、おそらく茶葉。眠気覚ましに使われるその葉を美味しくも無さそうに咥えて噛んで、右手をひらひらとさせた。さっさと行け、という事か。
無論、エリオットさんは本当は面倒臭いのではなく入りたくても入れないのだろう。
「じゃ行きましょうか」
ルフィーナさんが促すと私とレクチェさんはそれにゆっくり着いて行く。
私達が村跡に入ってきた事に気付いた軍人の一人がこちらに駆け足で近づいてきた。下に軍服を着ているとは思うが、茶色い防寒着が着込まれていてその詳細は分からない。硬そうな黒いブーツだけは、一般人のものと見比べて違和感を放つ質感だ。
黒い帽子の下に短い赤髪が見えるその男性は、太い眉の尻を釣り上げて声を掛けてきた。
「ここでは旅人に渡せる物資は無いぞ!」
どうやら色々と勘違いされているようで、ルフィーナさんが丁寧に会話をすすめる。後ろで聞いているとこの村が壊滅したのは二週間以上前で、私達が知りたい姉の行方など知るはずもなく、彼らは原因も分からぬこの大災害を竜巻か竜の仕業として断定する直前なようだった。
「お、お前……」
彼は死体を掴んだ手を離して、ギギギと首をこちらに回して何かを目で訴えている。
「エリオットさんなら避けてくれるって思っていましたから!」
「嘘だッッッ!!!!」
悲鳴にも似た叫びで怒りを訴える彼を無視して、私は自分が斬ったソレに目をやる。それはまるで機能を停止した人形のようになって転がっていた。そして程なくしてソレは粉となり、風に舞い雪に混じる。
……やっぱり
「随分高性能な人形ですね」
「普通に首切ったくらいじゃ動くわよ」
「本当ですか!?」
ルフィーナさんの言葉に驚きを隠せない。じゃあ何故今回は倒せたのだろうか?
私が問う前にその疑問の答えを彼女は話す。
「貴方が今持っている武器はね、この世界の全てを否定しているの。分かる?」
先程の衝撃映像で震えているレクチェさんを優しく撫でながら、とんでもない事を。
「あの人形に掛かっていた魔術ごと切断したから動かなくなったのよ。今頃本物は人形の受けた痛みをそのまま味わって悶えているんじゃないかしらね」
可哀想に、と全然同情しているとは思えない恐ろしい笑みを浮かべながら赤い瞳の魔女は小さく呟いた。レクチェさんは俯いていて彼女の表情は見ていないが、きっとそれを見ていたら更に震えたことだろう。
一面はセオリーの魔術で地盤が不安定になっており、またいつ崩れるか分からない状態である。私達の周囲は雪も無くなり土が露になっていて、強い風が止んだかわりに先程の戦闘で露になった土をまた隠す為かのように雪が深々と降り始めた。
「さ、早く行こうぜ」
そう言ってエリオットさんはルフィーナさんの前で蹲ったままのレクチェさんに手を差し伸べる。彼女は唇を真っ直ぐ結んで、その手を借りて立ち上がった。
「取り乱して……ごめんなさい……」
両手を胸の前で握って、申し訳無さそうに謝る。
「仕方ないさ、か弱い女の子の見るもんじゃない」
苦笑しながらそう答えたエリオットさんは、その後私に振り向きこう毒づく。
「流石に俺もビビったからな! 誰かのせいで!!」
「助けてあげたんですよ、感謝してくださいね~」
何やら恨みつらみがあるようだがそんなの知った事ではない。軽く流して私は服を正した。
雪が降っているのだから急がないと大変だ。ひょい、と割れた地面を飛び越えて私は歩き出す。
その先はエリオットさんが案内してくれて無事に一つ目の村跡まで辿り着いた。
ドラゴンが通ったような、という表現は聞いていたが確かにそう言われたら信じるくらいの凄惨な状態であった。大きな爪で切り裂かれたような家屋は、もはや人が住めるようなものではない。
雪が降りしきり、その中を軍人達が黙々と作業にあたっている。大半の遺体は既に回収した後なのだろう、表にそれは見当たらない。多分今は崩れた家屋の中を探していると言ったところか。生存者がいなくては何が起こったのか把握すら出来ないのだから。
「俺は外で待ってる、特に情報がなければここに長居は無用だ」
そう言ってエリオットさんは近くの針葉樹に寄りかかる。
「エリオットさんは来ないの?」
「面倒臭い」
レクチェさんの質問にぶっきらぼうに返答して懐から取り出したのは一枚の緑色の、おそらく茶葉。眠気覚ましに使われるその葉を美味しくも無さそうに咥えて噛んで、右手をひらひらとさせた。さっさと行け、という事か。
無論、エリオットさんは本当は面倒臭いのではなく入りたくても入れないのだろう。
「じゃ行きましょうか」
ルフィーナさんが促すと私とレクチェさんはそれにゆっくり着いて行く。
私達が村跡に入ってきた事に気付いた軍人の一人がこちらに駆け足で近づいてきた。下に軍服を着ているとは思うが、茶色い防寒着が着込まれていてその詳細は分からない。硬そうな黒いブーツだけは、一般人のものと見比べて違和感を放つ質感だ。
黒い帽子の下に短い赤髪が見えるその男性は、太い眉の尻を釣り上げて声を掛けてきた。
「ここでは旅人に渡せる物資は無いぞ!」
どうやら色々と勘違いされているようで、ルフィーナさんが丁寧に会話をすすめる。後ろで聞いているとこの村が壊滅したのは二週間以上前で、私達が知りたい姉の行方など知るはずもなく、彼らは原因も分からぬこの大災害を竜巻か竜の仕業として断定する直前なようだった。
更新日:2011-07-09 23:02:04