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以前私達が不意打ちにあったあの空間移動の魔術を容易に打ち消すとは流石は『師匠』なだけある。エリオットさんは少しずつセオリーから距離を取るように後ずさって、ルフィーナさんと位置関係が交代していた。
「……俺はやり合いたくないぞ」
彼女とすれ違い様に、エリオットさんが呟く。
「情けない事言わないの」
そう答えてルフィーナさんはマントの中から折りたたみ式のロッドを取り出した。一振りで組み立てられたその銀の棒の紋様は仰々しく、先端にだけ握りこぶし大のクロムイエローの石がはめ込まれている。
ロッドをセオリーに突きつけて、彼女は切り出した。
「どうしてほしいのか言ってみなさいよ」
堂々と、凛々しく。
「いえ、こんな危険なところまで来て欲しくはないだけです」
「言いたい事は分かるけどね、成り行きなんだから仕方ないじゃない」
そういえば最初に鉱山跡に行った時、私達が行く事を彼に伝えたのはルフィーナさんしかいないはずだ。となるとこの二人は知り合いという事になる。
だが、危険を冒して欲しくないと言いつつその顔は相手の身を案じるようなものではない。
「見れば分かるでしょう? 会議中だったのに慌ててこちらに来たのですよ。大人しく帰って頂きたいのです」
「か、会議……?」
スーツで会議をするような仕事に就いているのか、とてもじゃないが想像が出来ない。私もエリオットさんも思わず顔を見合わせる。
「この先は危険だ、という事はこの辺りにローズって子が居るって事よねぇ」
「!!」
ルフィーナさんは不敵な笑みでセオリーに言葉を投げかけた。それを聞いてエリオットさんの目の色が変わる。
「邪魔……すんなよッッ!!!!」
もうすぐ会えるという想いからか、堰を切ったように叫んでエリオットさんは素手のままセオリーに飛び掛った。固く握られた右拳が思いっきりセオリーの頬を打つ。
いや、素手って何て無謀な!!
私も援護しようと慌てて背中の槍に手を掛けて布を振りほどく。
一発目は命中し、セオリーの頬に痕を作っているようだ。が、
「エリオットさん!」
レクチェさんが小さく悲鳴をあげた。
二撃目を繰り出そうとしたエリオットさんの左拳には、反撃する彼から突き立てられた小さなナイフの刃。
しかしナイフは拳に傷すらつけられずどろりと刃が溶け、そのままエリオットさんの拳はナイフごとセオリーの右手をひしゃげさせた。理屈は知らないがそういえば私も以前彼に素手で武器を壊された記憶がある。
「この……っ」
右手を押さえて、セオリーが短く呻いた。エリオットさんの不意打ちによる素手での攻撃は彼に効いているようである。もう少しでエリオットさんに馬乗りにされそうだったところを素早く転がり逃げて立ち上がり、後ろに大きく飛び退いた。
「以前の銃同様に、興味深い戦い方ですね」
じり、と距離を詰めるエリオットさんから離れるようにセオリーは一歩ずつ下がる。もう寒さなど誰も感じていないように、互いに視線を正面の敵に投げかけていた。
「あの剣も回収したいんじゃないのか? 何故行く手を阻むんだ」
据わった目で、そう問いただすエリオットさん。
セオリーは外観は傷ついているが、以前と同じようにその怪我を気にする様子もなく答えた。
「貴方達にわざわざ死に逝ってほしくはない、それだけです」
そして続ける。
「だからその足を砕いてでも止めます」
左腕をかざして即座に宙に何やら文字を書いたかと思うと、彼の人差し指の先が軌跡を描いて光りだす。術式に詳しくは無い私には特定出来ないが、その光はそのまま周囲の雪を地面から蹴散らし、私達の足元は一気に割れ崩れ始めた。
「きゃあ!」
その揺れに立っていられずにレクチェさんが膝をつく。
「させないって言ってるでしょ!!」
前で暴れていたエリオットさんの後方で待機していたルフィーナさんがそう言ってロッドを地に突くと、地響きはピタリと止まって、それ以上は地面は崩れなかった。このまま崩れ続けていたらこの場に立つ事も敵わず亀裂に落ちていたかも知れない。
「相変わらず人の邪魔だけは得意ですね」
「お前も邪魔ばっかりするじゃねーか!」
その隙をついてエリオットさんがセオリーに掴みかかる。取っ組み合い寸前のように彼の両手がセオリーの両手首を掴んで動きを封じた。そして睨み合う。
「クリス、今よ!」
「はい!!」
私はすぐに不安定になった大地を蹴って、動けなくなったセオリーに思いっきり襲い掛かった。エリオットさんの事なんて考えずに槍の刃を横になぎ払い、
彼の首を容赦なく落としたのだった。
「……俺はやり合いたくないぞ」
彼女とすれ違い様に、エリオットさんが呟く。
「情けない事言わないの」
そう答えてルフィーナさんはマントの中から折りたたみ式のロッドを取り出した。一振りで組み立てられたその銀の棒の紋様は仰々しく、先端にだけ握りこぶし大のクロムイエローの石がはめ込まれている。
ロッドをセオリーに突きつけて、彼女は切り出した。
「どうしてほしいのか言ってみなさいよ」
堂々と、凛々しく。
「いえ、こんな危険なところまで来て欲しくはないだけです」
「言いたい事は分かるけどね、成り行きなんだから仕方ないじゃない」
そういえば最初に鉱山跡に行った時、私達が行く事を彼に伝えたのはルフィーナさんしかいないはずだ。となるとこの二人は知り合いという事になる。
だが、危険を冒して欲しくないと言いつつその顔は相手の身を案じるようなものではない。
「見れば分かるでしょう? 会議中だったのに慌ててこちらに来たのですよ。大人しく帰って頂きたいのです」
「か、会議……?」
スーツで会議をするような仕事に就いているのか、とてもじゃないが想像が出来ない。私もエリオットさんも思わず顔を見合わせる。
「この先は危険だ、という事はこの辺りにローズって子が居るって事よねぇ」
「!!」
ルフィーナさんは不敵な笑みでセオリーに言葉を投げかけた。それを聞いてエリオットさんの目の色が変わる。
「邪魔……すんなよッッ!!!!」
もうすぐ会えるという想いからか、堰を切ったように叫んでエリオットさんは素手のままセオリーに飛び掛った。固く握られた右拳が思いっきりセオリーの頬を打つ。
いや、素手って何て無謀な!!
私も援護しようと慌てて背中の槍に手を掛けて布を振りほどく。
一発目は命中し、セオリーの頬に痕を作っているようだ。が、
「エリオットさん!」
レクチェさんが小さく悲鳴をあげた。
二撃目を繰り出そうとしたエリオットさんの左拳には、反撃する彼から突き立てられた小さなナイフの刃。
しかしナイフは拳に傷すらつけられずどろりと刃が溶け、そのままエリオットさんの拳はナイフごとセオリーの右手をひしゃげさせた。理屈は知らないがそういえば私も以前彼に素手で武器を壊された記憶がある。
「この……っ」
右手を押さえて、セオリーが短く呻いた。エリオットさんの不意打ちによる素手での攻撃は彼に効いているようである。もう少しでエリオットさんに馬乗りにされそうだったところを素早く転がり逃げて立ち上がり、後ろに大きく飛び退いた。
「以前の銃同様に、興味深い戦い方ですね」
じり、と距離を詰めるエリオットさんから離れるようにセオリーは一歩ずつ下がる。もう寒さなど誰も感じていないように、互いに視線を正面の敵に投げかけていた。
「あの剣も回収したいんじゃないのか? 何故行く手を阻むんだ」
据わった目で、そう問いただすエリオットさん。
セオリーは外観は傷ついているが、以前と同じようにその怪我を気にする様子もなく答えた。
「貴方達にわざわざ死に逝ってほしくはない、それだけです」
そして続ける。
「だからその足を砕いてでも止めます」
左腕をかざして即座に宙に何やら文字を書いたかと思うと、彼の人差し指の先が軌跡を描いて光りだす。術式に詳しくは無い私には特定出来ないが、その光はそのまま周囲の雪を地面から蹴散らし、私達の足元は一気に割れ崩れ始めた。
「きゃあ!」
その揺れに立っていられずにレクチェさんが膝をつく。
「させないって言ってるでしょ!!」
前で暴れていたエリオットさんの後方で待機していたルフィーナさんがそう言ってロッドを地に突くと、地響きはピタリと止まって、それ以上は地面は崩れなかった。このまま崩れ続けていたらこの場に立つ事も敵わず亀裂に落ちていたかも知れない。
「相変わらず人の邪魔だけは得意ですね」
「お前も邪魔ばっかりするじゃねーか!」
その隙をついてエリオットさんがセオリーに掴みかかる。取っ組み合い寸前のように彼の両手がセオリーの両手首を掴んで動きを封じた。そして睨み合う。
「クリス、今よ!」
「はい!!」
私はすぐに不安定になった大地を蹴って、動けなくなったセオリーに思いっきり襲い掛かった。エリオットさんの事なんて考えずに槍の刃を横になぎ払い、
彼の首を容赦なく落としたのだった。
更新日:2011-07-09 00:09:54