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対峙 ~最後に笑うのは誰か~
私達はエルヴァンまで向かった後、そこから汽車に乗って移動していた。本当は目的地である北方の大きな街ツィバルドまで直通の路線があったのだが、そこへ行く最中の小さな村や町が壊滅しているので、その直前である北山を過ぎた麓の無人駅までしか乗れない。それ以上を汽車で進む事が出来るのは現場復旧及び調査に携わる軍関係者の人達だけだ。
ルフィーナさんの口利きでそこへ加わるという事も出来たようなのだが、軍関係者がいる中にエリオットさんを連れて行くというのは目立つ、というか見つかったら色々問題らしく、却下となった。
初めて見た汽車は真っ黒で、その上でのペンキの剥がれ具合が情緒があって見ていて本当に飽きず、しかもとっても大きい! これがたった数人の運転手の魔力で動いているなどとても想像がつかない。
中も意外としっかりしており、主に四人一組で座れるように各スペースそれぞれ二人座りの長椅子が対面式に組まれていた。私とレクチェさんは隣同士で座りながら、エリオットさんとルフィーナさんと向かい合う形になっている。
私の正面のルフィーナさんは例の黒いマント一枚を羽織っていて、その中の服装は既に分からない。これだけ見ると、練れば練るほど色が変わると喜んで謎の物体を練り続ける魔女みたいな格好だ。やっぱり薄そうに見えるが何か特殊な生地なのだろうか……今は何やら本を読んでいて、汽車に乗る前に着けていた黒い手袋は外している。
こちらから見て彼女の右隣にいるエリオットさんはというと、あの後結局出かけて買って来たとても厚そうなカーキベージュの毛皮の長いコートを着ていた。前立てと裾回りや袖口には金の糸で模様の装飾がされており、どう見ても高い。絶対高い。顔が安っぽいんだから安物にしておけばいいのに。
「しかしお前ら、何でお揃いなんだ?」
車内で買った焼き菓子を食べ終えたエリオットさんは、眉を寄せ半眼で問いただす。
そう、私とレクチェさんはお揃いで、ピンクに染められたファーコートを着ているのだ。首元からはポンポンも付いている。とっても可愛い。
レクチェさんは以前買った服の上に着ているが、私はファーコートの下に流石にいつもの法衣は着れないので、今日は覗色のタートルネックに裾だけだぶっとした白いパンツと短いクリーム色のブーツを履いている。薄い色が基調なのは、私が着ている普段の法衣が白いからそれに合うものしか持っていないのだ。
「似合いませんか?」
そう言って私は自分の服装を見下ろす。こんなに可愛いのに。
「いや、似合う似合わないは置いといて、お揃いな理由を聞いているんだ俺は」
焼き菓子の屑が微妙に付いた手をその高そうなコートで払うと、彼はため息まじりにそう言った。何か問題でもあるだろうか。
「可愛かったからお揃いなんだよ! これより可愛いのが無かったんだもん、仕方ないよ、ねー」
レクチェさんが回答してくれた。事実だ。
「そうですよ、これが一番可愛かったんです」
「そうか……」
それなら何も言うまい、とそれっきり黙ってしまったエリオットさんの反応に、私は少し不安になってくる。もしかしてこれ、似合ってないんですかね?
「に、似合ってないなら脱ぎます……」
泣いちゃだめだ。少し涙ぐんでうるうるしてしまったのを誤魔化す事は出来ず、それに気付いたレクチェさんが、脱ごうとした私の手を握って止める。
「そんな事無いよ! すっごく似合ってるから!! 普段あんなかしこまった法衣着てるんだからたまには好きなの着てもいいんだよ!!」
まぁその好きなのは、目の前で微妙な反応を示している男の財布で買った物なのだが。
私達の友情に根負けした費用元は、投げやりな言い草で
「あーもう! 似合ってる!! でもお前にピンクはどうなんだって思っただけだ!!」
と、とどめを刺してくれた。
「そうですよね、私なんかがピンクは似合わないですよね」
コートを脱いで、タートルネックでひとつ上野男になる。顔全部被ってしまいたいくらい切ないが、そこまでの長さはこのタートルネックには無い。
「エリ君もうちょい優しくしてあげられないのかしら? 今のは酷いわ」
本からは目を離さずに嗜めたのはルフィーナさん。
「俺が悪いのかコレ!?」
ピンクを着るのを否定されるという、幼い心に消えない傷を負った私は、きっとこれから汽車に乗るたびにこの辛い思い出に苦しむ事になるだろう。
ルフィーナさんの口利きでそこへ加わるという事も出来たようなのだが、軍関係者がいる中にエリオットさんを連れて行くというのは目立つ、というか見つかったら色々問題らしく、却下となった。
初めて見た汽車は真っ黒で、その上でのペンキの剥がれ具合が情緒があって見ていて本当に飽きず、しかもとっても大きい! これがたった数人の運転手の魔力で動いているなどとても想像がつかない。
中も意外としっかりしており、主に四人一組で座れるように各スペースそれぞれ二人座りの長椅子が対面式に組まれていた。私とレクチェさんは隣同士で座りながら、エリオットさんとルフィーナさんと向かい合う形になっている。
私の正面のルフィーナさんは例の黒いマント一枚を羽織っていて、その中の服装は既に分からない。これだけ見ると、練れば練るほど色が変わると喜んで謎の物体を練り続ける魔女みたいな格好だ。やっぱり薄そうに見えるが何か特殊な生地なのだろうか……今は何やら本を読んでいて、汽車に乗る前に着けていた黒い手袋は外している。
こちらから見て彼女の右隣にいるエリオットさんはというと、あの後結局出かけて買って来たとても厚そうなカーキベージュの毛皮の長いコートを着ていた。前立てと裾回りや袖口には金の糸で模様の装飾がされており、どう見ても高い。絶対高い。顔が安っぽいんだから安物にしておけばいいのに。
「しかしお前ら、何でお揃いなんだ?」
車内で買った焼き菓子を食べ終えたエリオットさんは、眉を寄せ半眼で問いただす。
そう、私とレクチェさんはお揃いで、ピンクに染められたファーコートを着ているのだ。首元からはポンポンも付いている。とっても可愛い。
レクチェさんは以前買った服の上に着ているが、私はファーコートの下に流石にいつもの法衣は着れないので、今日は覗色のタートルネックに裾だけだぶっとした白いパンツと短いクリーム色のブーツを履いている。薄い色が基調なのは、私が着ている普段の法衣が白いからそれに合うものしか持っていないのだ。
「似合いませんか?」
そう言って私は自分の服装を見下ろす。こんなに可愛いのに。
「いや、似合う似合わないは置いといて、お揃いな理由を聞いているんだ俺は」
焼き菓子の屑が微妙に付いた手をその高そうなコートで払うと、彼はため息まじりにそう言った。何か問題でもあるだろうか。
「可愛かったからお揃いなんだよ! これより可愛いのが無かったんだもん、仕方ないよ、ねー」
レクチェさんが回答してくれた。事実だ。
「そうですよ、これが一番可愛かったんです」
「そうか……」
それなら何も言うまい、とそれっきり黙ってしまったエリオットさんの反応に、私は少し不安になってくる。もしかしてこれ、似合ってないんですかね?
「に、似合ってないなら脱ぎます……」
泣いちゃだめだ。少し涙ぐんでうるうるしてしまったのを誤魔化す事は出来ず、それに気付いたレクチェさんが、脱ごうとした私の手を握って止める。
「そんな事無いよ! すっごく似合ってるから!! 普段あんなかしこまった法衣着てるんだからたまには好きなの着てもいいんだよ!!」
まぁその好きなのは、目の前で微妙な反応を示している男の財布で買った物なのだが。
私達の友情に根負けした費用元は、投げやりな言い草で
「あーもう! 似合ってる!! でもお前にピンクはどうなんだって思っただけだ!!」
と、とどめを刺してくれた。
「そうですよね、私なんかがピンクは似合わないですよね」
コートを脱いで、タートルネックでひとつ上野男になる。顔全部被ってしまいたいくらい切ないが、そこまでの長さはこのタートルネックには無い。
「エリ君もうちょい優しくしてあげられないのかしら? 今のは酷いわ」
本からは目を離さずに嗜めたのはルフィーナさん。
「俺が悪いのかコレ!?」
ピンクを着るのを否定されるという、幼い心に消えない傷を負った私は、きっとこれから汽車に乗るたびにこの辛い思い出に苦しむ事になるだろう。
更新日:2011-07-03 22:24:53